大平

うちにはマネージャーが1人いる。変わったところもあるが、いつも元気で見ているこちらも元気がもらえるようなマネージャーが。
それがこうも静かになると調子が狂う。

「お前行けよ」
「もう行ったけどぜーんぜんダメ。「今日も広背筋がステキです、でももう少し腹斜筋もつけた方がいいと思います」とか言われちゃったもん」
「珍しいな」

瀬見と天童の会話に耳を傾けると、確かにそれは少し意外だった。

「確かに褒められたり心配されたりはあるけど、筋肉つけろとは言われたことないな」
「なんかイー方法ないー?」
「は?俺は嫌ですよ」
「だーよねぇー。賢二郎がそんなタイプじゃないのはわかってた」
「獅音もなんかないか?」
「え?うーん」

いきなり振られても困るなぁ。

「まぁ柏手が元気ないのも気になるし、ちょっと考えてみようか」

どうしたらいいかわからないけど、話でもしてみればいいかな。

「柏手」
「あ、先輩…」
「どうした、元気ないじゃないか」
「ちょっと考え事です」

うーん、ここで話が途切れるとは、なかなかに深刻だな。

「話してみないか?」
「いえ、先輩にご迷惑をおかけするわけにはいかないので」
「柏手の元気がないと俺達も心配だからさ、話してみると案外楽になるだろ?」
「でも…」
「気を使わなくていいから」

そう言ってもなかなか話し出そうとしない。
家のことか、部活のことか。勉強関係ではないだろうな、よく相談に来てたから。

「あの」
「なんだ?」
「怒らないでくださいね?」
「怒られそうなことなのか?」
「…たぶん」
「まぁ怒らないから言ってみなさいよ」

相談したら怒られそうな内容ってなんだろう。いまいち想像がつかないな。

「次、春高じゃないですか」
「そうだな」

インハイはスルーなんだな。負けないって信じてもらえてるのは嬉しいな。

「終わったら引退じゃないですか」
「…そうだな」

…え。そんなこと?それのどこが怒られるようなこと?全然わかんないんだけど。

「みんな留年しないんですか?」
「え?」
「やっぱりこんなの失礼ですよね、ごめんなさい!」
「いや、怒ってないけどさ」

だってそれって残ってほしいって思ってるんだろ?

「なんでそう思ったの」
「だって、こんなこと思ってたら白布達に失礼じゃないですか」

なるほどな。

「でもな、俺達に残ってほしいって思われてるのは嬉しいよ」
「ホントですか?」
「留年はできないから引退もするけど、ギリギリまで参加するから」
「ホントですか!?」
「うん。本当だから元気出して」

頭をひとつ撫でると、ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。

「そうやって笑ってくれる方が俺達も嬉しいよ」
「じゃあできるだけギリギリまで来てくださいね!」
「あいつらにも伝えておくから」
「ありがとうございます!」

いつもの元気さを取り戻して駆けていくのを見てようやく一安心と言ったところかな。
あとは、あいつらにも出来る限り顔出すように言わないとな。

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