及川
今日のために新しく買ったフレアスカートが風で揺れる。お気に入りのサンダルからは直したばかりのネイルが太陽を反射してる。
私ばっかり楽しみにしてたみたいでホント嫌になる。夏休みだからどこも混んでるのは覚悟してた。でもさ、デートのために待ち合わせしてるのに他の女の子達と話して、彼女が来たことにも気付かないって意味わかんない。
「とーるのバーカ」
別に1人でもいいもん、どこ行くって決めてたわけでもないし。そう思って、思いきった私は1人でバスに乗った。お財布の中は少し寂しくなるけど、少しくらい寂しくなっても気にしない。
一応連絡がないかなと思って、バスに乗る前に携帯を見たけどなんの通知もなくて…まぁいいけど。
携帯を鞄に直して、私はバスに乗り込んだ。
行き先はみんな同じだろう人で溢れていて、バスの中は混んでいる。誰も友達や家族といて、1人で乗ってるのはサラリーマンやおばあちゃんくらい。
人の流れに乗ってバスを降りれば、潮風が髪を浚う。1人でこんなところまで来ちゃって、私、なにしてるんだろう。賑わいを横目に歩いていると、少しずつ落ち着いてきた。
よく考えたらいつものことなのに、なんで今日は我慢できなかったのかな。徹が人気なのはわかってる。だから、また私が我慢すればよかっただけなのに。
ちょっと落ち着いてきて、そう言えばと鞄から携帯を出したら分刻みで着信が入っててビックリした。その間にも着信が入って、反射的に電話に出ちゃった。
『鳴子、大丈夫?!』
何に対しての大丈夫なんだろう。
「うん、」
着信どれくらいになってるのかな。2時間は経ってないはずだけど、履歴は全部徹なんだろうなぁ。
『ごめん、怒ってる?』
「怒ってはないけど」
『じゃあ嫌いになった?』
「それは今更じゃない?」
『…ごめん』
ちょっと嫌な言い方だったかな。でもこんなこと日常茶飯事で、何度言ってもなおらないから諦めた。そんなこと徹は知らないだろうけど。
『今どこ?』
「別に気にしなくていいよ」
「やだ。鳴子とデートするために待ち合わせしてたんだから」
その待ち合わせで会えなかったんだけどね。
「女の子達の相手して、徹疲れたでしょ」
『疲れてない』
「今日はもういいよ、時間も遅くなるし」
今から戻って待ち合わせると、夕方近くになる。そうなったらどこに行くこともできない。もしかしたら駅まで戻ってまた同じ光景を見ることになるかもしれない。そう思ったら、今からまた待ち合わせようとは思えなかった。
『今どこにいるの?』
「荒浜」
『え?』
「なんとなくね」
『1人?』
「うん」
『1人で海なんてダメでしょ!今から行くから待ってて』
「え、いいよ」
『よくない!行くからね!』
来るのはいいけど、来てどうするんだろう。
おとなしく待ってるのもちょっと違うかなぁと思って、辺りをふらふらすることにしようと思う。
…思ってたのに。
「1人でこんなとこに来てどうしたの?」
「地元の子?」
電話が終わってからしばらくすると、なぜか知らない男子2人に捕まった。
話し方的に地元民じゃないと思う。旅行かなんかで来たのかな?あ、あれか。一夏の恋、みたいなやつがやりたいのかな。うーわ、くだらない。そしてそんな安い女に見られたことも納得いかない。
「つーかマジかわいいんだけど」
「おっま!抜け駆けすんなよ!」
助かるのは、あんまり慣れてないのか2人で話してる時間があること。もちろん動こうものなら引き留められるけど、掴まれたりしないだけまだいいと思う。
それにしてもこの2人は自分のことをかっこいいと、いけてると思ってるのだろうか。普段隣にいるのが徹だから一般的なイケメン基準がぶれてる自覚はある。
「彼氏いる?」
「いますけど」
「だよねー!かわいいもんね」
彼氏がいるとわかっても引かないんだ。
「でも1人ってことはケンカしたの?」
「そんなんじゃないです」
「彼氏と俺らどっちがかっこいい?」
どっちかなんて比べるまでもない。
「そんなのとー…」
「その子、俺の彼女だから」
不意に後ろから聞こえた声に振り返ると、息を切らせた徹がいた。ウシワカに威嚇するときみたいに近寄ってきて、力任せに引き寄せられる。
「ちょっかいだすの、やめてもらえます?」
怒ってはないけど、不機嫌なのが丸わかり。
徹の見た目に驚いたのかやっぱり慣れてなかったからか、あっさりどっかに行ってくれてよかった。
「1人で海なんて来ないでよ」
人目も気にせず抱き締められるのは初めてかも。
「だって気付いてなかったじゃん」
「気付いてたよ!すぐ行こうと思ったけど鳴子泣きそうになってどっか行くから、駅ビルとか鳴子の行きそうなところ探したよ」
「女の子達は?」
「ちょっと強引に振り切っちゃった」
「よかったの?ファン減るよ?」
「ファンは減ってもいいもん。鳴子がいなくなる方が大問題!」
日が影ってきたとはいえ、まだまだ気温は高いのにぎゅうぎゅう抱き締められたら暑くて仕方ない。迷子になった直後の子供みたい。
「遅くなっちゃったから時間は短くなるけど、今からデートしよう?」
「仕方ないなぁ」
なんだかんだ言っても、結局のところ私は徹が好きなんだよね。
「ちゃんと楽しませてよね」
「もっちろん!」
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今日のために新しく買ったフレアスカートが風で揺れる。お気に入りのサンダルからは直したばかりのネイルが太陽を反射してる。
私ばっかり楽しみにしてたみたいでホント嫌になる。夏休みだからどこも混んでるのは覚悟してた。でもさ、デートのために待ち合わせしてるのに他の女の子達と話して、彼女が来たことにも気付かないって意味わかんない。
「とーるのバーカ」
別に1人でもいいもん、どこ行くって決めてたわけでもないし。そう思って、思いきった私は1人でバスに乗った。お財布の中は少し寂しくなるけど、少しくらい寂しくなっても気にしない。
一応連絡がないかなと思って、バスに乗る前に携帯を見たけどなんの通知もなくて…まぁいいけど。
携帯を鞄に直して、私はバスに乗り込んだ。
行き先はみんな同じだろう人で溢れていて、バスの中は混んでいる。誰も友達や家族といて、1人で乗ってるのはサラリーマンやおばあちゃんくらい。
人の流れに乗ってバスを降りれば、潮風が髪を浚う。1人でこんなところまで来ちゃって、私、なにしてるんだろう。賑わいを横目に歩いていると、少しずつ落ち着いてきた。
よく考えたらいつものことなのに、なんで今日は我慢できなかったのかな。徹が人気なのはわかってる。だから、また私が我慢すればよかっただけなのに。
ちょっと落ち着いてきて、そう言えばと鞄から携帯を出したら分刻みで着信が入っててビックリした。その間にも着信が入って、反射的に電話に出ちゃった。
『鳴子、大丈夫?!』
何に対しての大丈夫なんだろう。
「うん、」
着信どれくらいになってるのかな。2時間は経ってないはずだけど、履歴は全部徹なんだろうなぁ。
『ごめん、怒ってる?』
「怒ってはないけど」
『じゃあ嫌いになった?』
「それは今更じゃない?」
『…ごめん』
ちょっと嫌な言い方だったかな。でもこんなこと日常茶飯事で、何度言ってもなおらないから諦めた。そんなこと徹は知らないだろうけど。
『今どこ?』
「別に気にしなくていいよ」
「やだ。鳴子とデートするために待ち合わせしてたんだから」
その待ち合わせで会えなかったんだけどね。
「女の子達の相手して、徹疲れたでしょ」
『疲れてない』
「今日はもういいよ、時間も遅くなるし」
今から戻って待ち合わせると、夕方近くになる。そうなったらどこに行くこともできない。もしかしたら駅まで戻ってまた同じ光景を見ることになるかもしれない。そう思ったら、今からまた待ち合わせようとは思えなかった。
『今どこにいるの?』
「荒浜」
『え?』
「なんとなくね」
『1人?』
「うん」
『1人で海なんてダメでしょ!今から行くから待ってて』
「え、いいよ」
『よくない!行くからね!』
来るのはいいけど、来てどうするんだろう。
おとなしく待ってるのもちょっと違うかなぁと思って、辺りをふらふらすることにしようと思う。
…思ってたのに。
「1人でこんなとこに来てどうしたの?」
「地元の子?」
電話が終わってからしばらくすると、なぜか知らない男子2人に捕まった。
話し方的に地元民じゃないと思う。旅行かなんかで来たのかな?あ、あれか。一夏の恋、みたいなやつがやりたいのかな。うーわ、くだらない。そしてそんな安い女に見られたことも納得いかない。
「つーかマジかわいいんだけど」
「おっま!抜け駆けすんなよ!」
助かるのは、あんまり慣れてないのか2人で話してる時間があること。もちろん動こうものなら引き留められるけど、掴まれたりしないだけまだいいと思う。
それにしてもこの2人は自分のことをかっこいいと、いけてると思ってるのだろうか。普段隣にいるのが徹だから一般的なイケメン基準がぶれてる自覚はある。
「彼氏いる?」
「いますけど」
「だよねー!かわいいもんね」
彼氏がいるとわかっても引かないんだ。
「でも1人ってことはケンカしたの?」
「そんなんじゃないです」
「彼氏と俺らどっちがかっこいい?」
どっちかなんて比べるまでもない。
「そんなのとー…」
「その子、俺の彼女だから」
不意に後ろから聞こえた声に振り返ると、息を切らせた徹がいた。ウシワカに威嚇するときみたいに近寄ってきて、力任せに引き寄せられる。
「ちょっかいだすの、やめてもらえます?」
怒ってはないけど、不機嫌なのが丸わかり。
徹の見た目に驚いたのかやっぱり慣れてなかったからか、あっさりどっかに行ってくれてよかった。
「1人で海なんて来ないでよ」
人目も気にせず抱き締められるのは初めてかも。
「だって気付いてなかったじゃん」
「気付いてたよ!すぐ行こうと思ったけど鳴子泣きそうになってどっか行くから、駅ビルとか鳴子の行きそうなところ探したよ」
「女の子達は?」
「ちょっと強引に振り切っちゃった」
「よかったの?ファン減るよ?」
「ファンは減ってもいいもん。鳴子がいなくなる方が大問題!」
日が影ってきたとはいえ、まだまだ気温は高いのにぎゅうぎゅう抱き締められたら暑くて仕方ない。迷子になった直後の子供みたい。
「遅くなっちゃったから時間は短くなるけど、今からデートしよう?」
「仕方ないなぁ」
なんだかんだ言っても、結局のところ私は徹が好きなんだよね。
「ちゃんと楽しませてよね」
「もっちろん!」