松川

「いっせ!早く!」

今日は鳴子の希望で動物園に来た。
部活の休みなんてほとんどないからって気を使ってくれるけど、鳴子より体力ないつもりはない。そう言って聞いたら希望がここだった。

「動物は逃げないでしょ」
「寝ちゃうかもしれないよ!」

それもそうだ。これだけ暑ければ動物だって疲れて動かなくなるかもしれない。

「じゃあどこから見ますか?」
「えーっとね、パンダ!あとレッサーパンダでしょ?それからねぇ」

楽しそうに話す鳴子からは、ふわふわしたぬいぐるみみたいなやつばっかり上がってくる。

「じゃあルート見て順に回っていくか」
「ウサギさんは?」
「んー、ふれあい広場は最後の方だな」
「時間なくなる?」
「いっぱい見たいわけじゃないから大丈夫だろ」
「いっせーは好きな動物なに?」
「んー…ワニ?」

そう言えばあんまり好きな動物って考えないよな。犬派か猫派かって質問は多いからなんとなくわかるけど。

「いっせーは、ライオン食べちゃうの…?」
「いや、俺は食べないからね」
「アライグマ?」
「たぶんワニと同じところに生息してないかな」
「そっかー」

そう言えば、アライグマもあんまり動物園にはいないよな。それとも覚えてないだけか。

「ほら、ふれあい広場閉まるから早く行くべ」
「うんっ」

ちっちゃい手で必死に俺を引っ張るんだからもうかわいいとしか思えないよな。

「見て!レッサーパンダ!」
「意外と動いてるもんだな」

こんな暑いのに常に毛皮きてるんだろ?暑くて頭おかしくなんねぇのかな。初めから毛皮着てるからそんなこと思わねぇか。

「かわいー」

サービス精神旺盛なのか、動いてると思ったらふと止まって辺りを見回すのは確かにかわいい。だけどかわいいと言いながらレッサーパンダを目で追ってる鳴子の方がかわいい。

「かわいいねぇ」
「そのかわいいのを写真撮らなくていいの?」
「は!撮る!」

焦りすぎて危なっかしいながらも携帯を取り出して写真に納めようと悪戦苦闘してる。
さて、俺はそんな鳴子の少し後ろにずれてピントを合わせて

「鳴子」
「なぁに?」

振り返った瞬間にシャッターを切った。
その後ろでレッサーパンダのカメラ目線とか奇跡の1枚だな。

「写真撮るなら言ってよー」
「なんで」
「もっとかわいい顔とかあるでしょ?」
「そのままで充分かわいいからいいです」
「えー」

へらりと笑うその顔が結構好きだなんて、鳴子はわかってないだろうな。

「いっせーもね、何にもしなくてもかっこいいよ?」

鳴子のこう言うとこが好きなんだよな。こう、なんでもないときにいきなり上げてくる感じ。

「転ぶから走らないの」
「転ばないよー」

本当に転ぶとは思ってない。いや、少しは思ってるけど。でも、手を繋ぐもっともらしい理由を作っておく。
別にいやがられるとかそんなこと思ってないけど、理由があった方がなにかと動きやすいだろ?

「これからさ、大変になるよね」
「ん?まぁ多少は」
「あのね、忘れないでね?」
「へ?なにを?」

ふらり揺らされる手が、不安を体現しているようで。

「いっせーのこと応援してるけど、忘れられちゃったら寂しいなぁって」

忘れられるわけがないじゃない。こんないじらしい彼女のことを忘れるやつがいたら、俺はそいつの頭を疑うね。

「じゃあ応援きてくれる?」
「うん」
「学校ではできるだけ一緒にいような」
「うん」
「だから今から泣くのはやめてクダサイ」
「うん」

おっきい目にいっぱい涙ためて。まだ忘れたわけでもないのに今からそんなんでどうするの。

「そんなに心配なら、写真とりますか?」
「写真?」
「2人でとって、待ち受けにでもすれば忘れないでしょ」

そう言うとみるみるうちに笑顔になるんだから、ホントうちの子はかわいい。

「する!いっせーとおそろいにする!」
「じゃあついでだしストラップも買ってつけようか」
「うん!」
「ならサクサク進んでおみやげ見ような」
「じゃあウサギさんカット!」
「いや、そこまでしなくてもいいんじゃない?」
「でも、」
「時間なら俺が見てるから、鳴子はちゃんと楽しんで」
「いっせーも楽しくないとヤダ」
「鳴子が楽しければ俺はそれで楽しいよ」
「私もね、いっせーが楽しければ楽しいよ」
「ならやっぱりウサギは見ないとな」
「じゃあ早く行こー」

結局鳴子に手を引かれて園内を回ることになるらしい。きっと時間によっては逆になることもあるだろうけど、これからもこんな感じなんだろうな。
まぁ鳴子といられるならなんだっていいんだけど。

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