山形

「悪い、待たせた」
「全然大丈夫だよー」

屋上に現れた隼人は、買い物帰りと同じくらい大きなビニール袋を提げている。

「お疲れー」

隼人は私の隣に腰をおろして正面にビニール袋を置いた。自立できない袋からは、パンがいくつも顔を覗かせている。たぶん下の方にはおにぎりも埋もれてるんだろう。

「いつものことだけどお前そんなに少なくて足りるのかよ?」

私のお弁当を見ると、週に1回はこうして食べる量を心配される。

「これでも平均的な女子より食べてるんだけどなぁ」
「マジ?」
「うん。みんなのお弁当もっと小さいもん」
「女子すげぇな」

私のお弁当は、容量だけで言うなら少食な男子と同じくらいの物を使ってる。友達には毎回驚かれるけど、片手に乗りそうなお弁当じゃあさすがに足りない。

「隼人は今日もそんなに食べるのね」

目の前には山のようなパン。それを無視してその中からおにぎりを掘り出して口に詰めている。

「部活やってるからな」
「運動部男子怖い」
「怖くねぇべ」
「そうじゃなくて食べる量が」
「わかってるって」

私だったら1日かかりそうな量。少食な平均的女子なら2日持つんじゃないかという量を隼人はどんどん減らしていく。

私もお昼を食べないと午後の授業で死んじゃうから食べなくちゃ。そう思って忘れてたお弁当を開くと、隼人から声をかけられた。

「お?なにそれ」

一般的に家庭のお弁当に滅多に入らないものがあったから気になったんだと思う。

「栗ご飯。ちょっと早いけど栗食べたくてさー」
「一口食わせて」
「いいよー」

お箸なんてもちろん隼人は持ってない。そうなると私が食べさせてあげるしかないんだけど、今更どうこうなるものでもない。

「うまっ」
「ちょっと甘くない?大丈夫?」
「こんなもんだろ?あんま食わないからわかんねぇけど」

栗ご飯って駅弁とかのイメージだよね。でもどうしても食べたくて、お母さんに抗議してやっと作り方を教えてもらった。作るのはめんどくさいから自分で作ってって言われたんだもん。

栗ご飯を飲み込んだあと口にいれたのはまたおにぎり。何個くらいおにぎりが埋まってるのかな。本当によく食べるね。

「冬はなに作るんだよ」
「え?別にいつもと同じだよ」
「そうじゃなくて、今日みたいに季節物入れるのかってこと」
「えー」

冬が旬のもの…今思い付くものって言えば、

「マダチは持ってこれない」
「むしろなんでそれが選択肢なんだよ」
「マダチ美味しいもん」
「わかるけどよ」

え、冬が旬な食べ物ってあとなに?思い付かないんだけど。

「冬休みさ、もしも予定が合えば海鮮丼食べに行きたいね」
「いいな」
「ウニ乗ってると高そう」
「貯金あるしなんとかなるべ」
「マダチはムリかなぁ」
「丼はあんまり見ないもんな」
「せめてポン酢で食べたい」
「だな」

お互い似たものが好きだと困ることが少ないの。あんまりないけど、出かけるときとか迷わなくてすむし。

「引退するのはまだしばらく先だけど、時間あったらでかけんべ」
「うん」

まだまだ先のことになるだろうけど、美味しい海鮮丼のお店探しておかなくちゃ。

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