東峰

「鳴子」
「あ!お疲れ様です潔子さん!」

クリスマスどうしようって、真っ先に相談したのは潔子さんだった。
「今のメンバーで」って言ったのに、潔子さんったら「東峰でしょ?」なんて聞き返してくるんだもん。ケトルでお湯を沸かすよりも早く顔が赤くなるのが自分でもわかった。春高が終わったらセンパイ達は引退するから、みんなでイベント性のある思い出を作るのは、きっとこれで最後。

「なんか、部室じゃないみたい」
「頑張っちゃいました」

自分でやっておいてなんだけど、部室がこんなにかわいくなってるのは初めて見る。頑張って持ち込んだ長机にはお菓子とジュースと、小さなクリスマスツリー。壁には緑と赤のふわふわキラキラしたモール。

「みんなびっくりするだろうね」

仁花ちゃんもビックリさせようって潔子さんがイタズラをするみたいに提案してきたから、今回は2人だけで準備を進めた。
澤村センパイに仁花ちゃんも部室に連れてきてもらうように言ったらしいから、もしかしたら澤村センパイも知ってるのかな。

「本当に後少しで来ると思うから、まだなにかするなら急ごう」
「あ、これ!これガラスにやりたいです!」
「わかった」

雪みたいになるスプレーやりたかったんだ。
型紙を当ててスプレーを吹き付けると、ふわふわした白いサンタクロースが描かれる。

「これ落ちるの?」
「乾いた布で擦れば落ちるらしいです」
「へぇ」

指で触ったら、吹き付けたばかりの白い塊がほわりと落ちた。
どうやらこれは予想以上に脆いらしい。もう触らないようにしよう。あと田中とかが触らないように言わないと、終わってから部室が白いふわふわで汚れる。

「後はなにかある?」
「いえ、あんまりやると片付け大変なので」
「結局全部鳴子に任せちゃったね」
「そんなことないですよ!部室でパーティーの提案をしていただけただけでも助かりました!」

しかもこの許可を武ちゃんに取ってくれたのも潔子さんだ。マジ女神。私も潔子さんみたいな心を持った人にこれからなりたいと思う。なれるかどうかは別として。

そんなことを思っていたら、おもむろに部室の扉が開いた。

「おわ、なんだこれ」
「なになに、え?清水と柏手がやったの?」

どうやら部員が来たらしい。ドヤドヤとやってくる巨人の中から、小さい金髪がひょこりと飛び出してきた。

「すみません!私なにも知らずにお2人だけに準備をさせてしまっていたようで!!」
「大丈夫、私もなにもしてない」
「これ柏手が1人でやったの?すげーな」
「いや!私がやりたかっただけなので!と言うか潔子さんと仁花ちゃんはマネ業お疲れ様!」
「柏手先輩も準備お疲れ様です!」

許可をとった時間はほんの僅か。その時間をムダにしないためにもそれぞれ好き勝手にお菓子やジュースに手を伸ばしていた。

「ぁ、お、お疲れ様です」

そんな中、潔子さんに背中を押されて東峰センパイに声をかけた。

「おー、柏手もお疲れ。清水に聞いたよ、部室1人で飾り付けたんだって?」
「いえっホントちょっとなんで、全然疲れてないです!」
「でも片付けしてからこっちの準備もしてたなんてすごいよ」
「そそ、そんなことは!」

東峰センパイと話そうとすると、どうしても緊張する。こんなことセンパイは知らないんだろうな。

「プレゼントとか用意しておけばよかったな」
「誰か渡したい人でもいたんですか?」

彼女かな。もしそうだったら失恋?まだ告白もしてないのになぁ…

「柏手さんだよ」
「え」
「こんな大変なことしてくれたんだから、お礼したいし」

違った!私だった!

「そっ!そっ!?」

そんな!畏れ多い!
こんな、私が勝手にやっただけなのにそんな気を使わせる結果になるなんて少しも思わなかった。少し考えたら優しい東峰センパイが思いそうなことなのに、どうしてそこまで気が回らなかったのか。このままでは東峰センパイ以外にも気を使わせてしまうことになるかもしれない。

「ああ、俺がしたいだけだから気にしないで」
「いえ!あの!」

気を使ってほしくないのに、どうしたらいいのかわからない。あんまり断るのも失礼かもしれないけど、本当になにもいらないのに。

「あ、迷惑だった?!それならやめるけど」
「迷惑なんかじゃないです!」
「ホントに?」
「はい!」

勢い余って結構な勢いで返事しちゃったけど、がめついとか思われないかな?はしたないと思われないかな?

「よかったぁ」

特になにも思われなかったみたい。東峰センパイがよかったと言ってくれるなら、それでよかったのかな…
助けを求めるように潔子さんを見ると、表情を変えることなく親指を立てられた。

何がよかったんですか潔子さん。

「えーっと、たぶんしばらく先になっちゃうと思うけど、ちゃんとお礼させてね」
「は、はい」

なんだか大変なことになっちゃったかもしれない。

もう1回助けを求めて潔子さんを見たけど、もう潔子さんと目が合うことも親指が上がることもなかった。

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