遊真の秘密を、知ってしまった。
それはありふれた日常の中で唐突に暴かれて、これまで過ごしていた世界が一変してしまうくらいに恐ろしい真実だった。
「……ね、いばー?」
「あれ、おまえら付き合ってる、んだよな?」
太刀川隊隊室。目の前で焦ったように表情を歪める出水君。今日は単に防衛任務に出ていた出水君の為に、担任から色々預かったプリントやらを届けにきたというありふれた理由。
それが彼氏の秘密を暴く切っ掛けになるだなんて、誰が予想できただろうか。
「……それ、イチから話して」
「おれらは玉狛が匿ってるネイバーからブラックトリガーを奪取しろって言われただけ」
だけど、と歯切れ悪く告げる出水君を見る。いや、もしかしたら睨み付けるという言葉の方が正しいかもしれない。
それでも私は出水君を労る余裕なんてさらさらなかったし、思わず問い詰めるような視線のまま押し黙っていると、出水君はさらに口を滑らせる。
「おれらが遠征に行ってる間、三輪隊がネイバー討伐に向かったけど、失敗したって」
「……それが、遊真だって?」
「そう聞いたけど」
三輪隊。挙がった名前に、これまで燻っていた違和感が繋がった。
三輪君は元々、ネイバーを擁護する玉狛に対してあまりいい顔はしていなかった。でもそれ以上に、遊真に対して妙なぎこちなさがあったのが不思議ではあったのだ。
米屋君は後輩への当たりもよくて、強い人と戦うのが好きだ。だから遊真と仲良くしていても違和感はないけど、やけに肩入れするとは思っていた。
そういう些細な、見過ごしてしまっても何も問題はないような違和感。それがたった今暴かれた真実をより鮮明に、私に突きつけてくる。
「……おまえ、知らずに付き合ってた、んだ」
頭に血が上るようなこれはきっと、恥ずかしさなんだろう。私はそんなことも知らず恋愛に浮かれていたのかという、滑稽さ。そしてそれを出水君に見られてしまったという、居心地の悪さ。
「……緘口令ってことでしょ」
「まぁ、それはそうだけど」
ネイバーである遊真がボーダーに所属しているということ。上層部はそういった事情を把握しているのだろうけど、内部に混乱がないということは基本的に知られていない事実なんだろう。出水君の話だとつまり、任務で遊真に関わった人間しか知らない、といった所か。
けど、それはあくまでボーダー隊員なら、の話じゃないか。
「……とりあえず、これ」
「あ、おお。サンキュ」
持っていたプリントを出水君に押し付ける。とりあえずこれさえ渡してしまえば、私の用事は終わったようなものだ。
そもそもどうしてこんな話題になってしまったんだ。世間話の延長で私が、ネイバーが来なくなればいいのになんて戯言を言ったからか。そうしたら、おまえの彼氏も来なかっただろ、なんて出水君がぽろっと、とんでもない事実を零してくれて。
――あぁもう、今更なにもかもどうしようもないことだ。
「出水君。とりあえず、ありがとう」
「え、お、おう」
「また明日ね」
今の私はどんな顔をしているのだろうか。考えている余裕はない。それでもどぐどぐと心臓が煩くて、落ち着かない。
動悸に背中を押されるように私は本部を後にして、端末をツータップ。あっという間に出てきたその名前を宛先にしてメッセージを打ち込む。
『話したいから、家に来て』
乱暴なその一文。普段ならもっとお疲れ様とかなんとか、あるのに。
どこかで残っている冷静な自分がそう嗜める。それでも、とてもじゃないけど落ち着いて普段どおりを振舞えるような心情ではなかった。
どうして。どうしてなんだろう。私は遊真の彼女じゃなかったのかな。それなのにどうして、そんな大事なことを知らないまま今日まで来てしまったんだろう。
「……何で、隠してたの」
沸々と怒りが湧いてくる感覚。その熱情を足に込めて地面を思いっきり踏みつけながら、私は遊真が来るのを待とうと、帰る足を急がせた。