「ふむ、コレを届ければいいんだな?」
今日は玉狛に行く時間がないから、届けて欲しいデータを入れた端末を空閑君に渡す。何時ものようにランク戦ロビーに来た姿を捕まえて頼めば、空閑君は思ったより簡単に首を縦に振ってくれた。
「手間だけどごめんね、よろしく」
「別にいいぞ」
空閑君はそう言って端末をポッケに入れた。これ、ランク戦やってて渡すの忘れたりしないかな。栞にも空閑君にデータ渡したこと伝えておこう。
「なぁ」
「へ」
「おだちんはないの?」
ちょいちょいとまるで誘うかのように動かされる指。予想もしていなかった“おねだり”に少し呆然としてしまう。確かにタダで頼み事というのも図々しいだろうか。
「ジュースでもいいかな?」
「うん」
了承を得たので、連れたって自動販売機の前へ。とりあえずお金を入れて好きなのどうぞ、と示してみれば、少し考えてからあれ、と指差したのは一番上段のペットボトル。
「お高いね……」
「ふむ? 確かに一番高いが……」
多分お互いに言う高いの意味がちょっと違うな、と苦笑しながら、言われたままにそのジュースを買う。がたん、と落ちたそれをひょいと取り出した空閑君はにこりと笑顔。
「ありがとな」
「いいえ」
ちゃりちゃりと小銭が落ちてくる音を確認して回収すると、空閑君はペットボトルを手元で揺らして眉間に皺を寄せていた。どうしたのかと様子を伺えばこれどうやって飲むんだ? と。
「ペットボトルのは飲んだことなかった?」
「うん」
貸してと一度ペットボトルを受け取ってから蓋の部分をきゅうと捻る。パキンと軽快な音が響いて、そのまま回して蓋をあけてみせれば、ほほう、と満足気な顔をしてペットボトルを受け取った空閑君。
「飲み終わったら蓋を閉めれば、持ち運んでもこぼれないよ」
「なるほど、よくできてるな」
ごくごくごく。ランク戦後だったからか、小気味いい音を立てて喉を慣らす空閑君。三分の二ほど飲んだところで一度満足したのか私から蓋を受け取ると、さっきの私を真似て蓋をきゅうと回す。と思ったらばきん、と嫌な音。
「これでいいのか?」
「……んんん?」
ペットボトルの蓋は構造上確かに開けるときは音が鳴る。でも閉める時に音はならないよなぁと見せてもらえば亀裂の入った蓋。……完全に壊れてる。
「閉める時は音鳴るまで回さなくていいんだよ……」
「そうなのか?」
「うん、これはもう閉まらないなぁ」
閉めすぎて壊れてしまったらしい蓋をもてあそびながらそう言えば、空閑君はなんだ残念、とあまりそうは見えない言葉を呟いた。そう思ったらん、とペットボトルを私に差し出す空閑君。
「残りはやる」
「え?」
ん、と再度差し出されたそれを戸惑いながらも受け取ると、そんじゃあなと言って空閑君はランク戦ブースの中に消えていった。え、ちょ、これどうするの?
「の、飲むしかない、よね?」
誰に聞くでもなく言い聞かせるように呟いて、私は手の中でゆらりと震えた水面を眺める。蓋、ないし、このまま持ち歩くと危ないし。でも、でも、これってさ。
「……考えちゃ駄目だ」
女は度胸。そう覚悟を決めてペットボトルを一気に煽る。それがなんだか甘ったるく感じるのは気のせい、気のせい。こくんと全てを飲みきってからペットボトルを眺めて、少し考えてからそれをごみ箱へと捨ててしまう。
空閑君はいちいち、心臓に悪い。
はてさてあちらには間接キスという概念はあるのだろうか。それともそういうのを全く気にしないタイプなのか。
このままここで考え込んでいたらどつぼにはまる気がして、私は足早にそこから離れることにする。顔が熱いのも気のせい、気のせい。
意図的無意識、秘密の駆け引き
(ペットボトルはネイバーにないかなーと)