遊真を目の前にして、寂しさを感じることがある。
おかしい話だとは重々承知している。だって恋人が目の前にいて寂しいだなんて、なんの冗談だろう。大切な人が傍にいる、その幸せの中で寂しさを感じるなんて矛盾してるじゃないか。
理屈ではそうとわかっているのにも関わらず、私は寂しさを感じていた。目の前の遊真は、不思議そうに私を眺めるけどそれすらも寂しい。何がこんなに寂しいのか、私にはうまくいえないけどおそらく。共有できないことが、そういう埋まらない違いが、どうしようもなく寂しいんだろう。
「変なの。寒くないからいらないよ」
「……それは、わかってるけど」
季節はどんどんと冬へ近づいている。世界のあらゆるものが眠りにつく静かな季節。
私達は当然のように服を変え、重ね、暖をとる。恒温動物であるから異常な体温の低下はそのまま死に繋がるし、そうでなくても凍えていれば、指先はかじかんで動かないやら不都合も多い。
だから、人は温まろうとする。色んな手段で。
「そんなに見た目が気になるか?」
「まぁ、少しはね」
遊真は変なところで文化を受け入れる懐の広さがある。だからなのか、それとも私の小さな溜息が原因なのかはわからない。けれど最終的に遊真は、私がずっと差し出していたマフラーを受け取ってくれた。しばらくそれをまじまじと眺めて、知っていたのだろうか、ゆるく首に巻きつける。
「どうだ? 似合うか?」
さっきまでの不審気な顔はどこへ行ったのやら、そう言ってにかりと笑う遊真。プレゼントしたものをその場で身に着けてくれるそういう優しさ。私はそれに甘えてしまったと、僅かに自己嫌悪しながらも小さく笑い返す。
「……ありがと」
私のお礼の意味を、どう受け取ったのだろうか。それなりの時間を一緒に過ごしてきたというのに、そんなこともまだわからない。そう思うと、隙間風がびゅうと吹いたような心地に私は身をちぢませる。
「ほら、帰ろう。お前は風邪ひくぞ」
そういって差し出された手。寒い冬だというのにポケットに入れることもせず、手袋すらしない、手。私はつけていた手袋を片手だけ外すと、その手にそっと自分の指を絡めた。あぁ、なんて、なんて悲しい温かさだろう。
「冬だねぇ、遊真」
「そうだな」
歩きはじめた私達の頭上に、小さく舞う白い花びら。道理で今晩は冷えるはずだ。冬の知らせが届いてしまうとは。
そんな中で繋いだ遊真の手だけは変わらず温かい。私の冷えた手に文句も言わず、逆に熱を与えるかのようにぎゅうと握られる。それが優しくて、だからどうしようもなく寂しくなる。
手が冷たい人は、心が温かいんだよ。そんな迷信は一体誰が言いはじめたんだろうか。それなら、こんなにも手が温かい遊真の心の温度は、どっちだろう。きっと、私が触れればとても温かいのだ。遊真はこんなにも優しいのだから。
その優しさが時に冷たいだなんて、わざわざ言う必要もないだろう。
だけど、ねぇ遊真。私は確かに風邪を引いてしまうかもしれない身体だけど、だからといって遊真自身を蔑ろにしないで欲しいって、そう思うんだよ。
寂しさの溝を埋める白
(冬だと思うと切なさが…)