好きな人のいる世界は喜びに満ちていると、私は思う。
『いつものとこ』
たった六文字の簡素なメッセージ。まるっこい平仮名が柔らかく、優しく感じてしまうのは、きっと、差出人が好きな人だからだろう、なんて。
前までは、用がある時には着信を入れるように言われていた。端末の操作に慣れず、連絡を取るのが億劫だからと。
最初は素直に従っていたけれど、なんだか連絡をするばかりなのは寂しい。そう零したら、ほんのたまにだけど、遊真もメッセージをくれるようになった。何の前置きもなくメッセージがくると少し驚いたりもするけれど、不器用な、一緒に帰ろうのお誘いはやっぱり嬉しい。
たった六文字。告白とか甘い言葉じゃない、なんでもない言葉であっても、愛されている証に感じてしまうくらいには嬉しいのだ。
――だって、億劫なことをしてくれる理由はきっと、私なのだから。
「いやぁ、やっぱり凄いなぁ、あの白いの」
「影浦先輩とやりあって平然としてるんだもんなぁ」
向かう先からやってくる人達の会話が少し聞こえてくる。なるほど、今日は影浦先輩に遊んでもらっているらしい。この人達はランク戦帰りだろうか。確かに、そろそろ夕飯の時間だしね。だから私もはやく一緒に帰ろうと、足を急がせているのだけど。
「強いし、部隊もどんどん上がってるしなぁ」
「凄い奴だよな」
その会話を最後にすれ違い、彼らの会話は聞こえなくなってしまった。けれど。何とも単純なことに私の足は軽くなってしまう。だって凄いと認められ、褒められているのは、私の好きな人なんだもの。自分のことじゃなくたって嬉しくなってしまう。喜んでしまう。
――好きな人の素敵なところ、独り占めは勿体ないから。
そんなこんなで浮き足だったまま、ランク戦ロビーへと着いた。さてどこにいるだろうかと探すことはあまり難しくはない。ちょっと背が低いとはいえ、白い頭はなんていったって目立つのだ。
あぁ見つけた。ここからは後頭部しか見えないけど、間違いなく遊真だ。
思わず顔が緩んでしまうのもわかって、だけどとても堪えられそうにない。ちょうどそんな時、遊真の向かいに立つ影浦先輩とばっちり目が合ってしまう。恥ずかしい顔を見られてしまった。慌てて頭を下げる。面を上げた時には影浦先輩に言われたのか、遊真が振り返っていて。
見えたのは、遊真のとろけるような笑顔。口角がゆるりと上がって目尻は下がり、瞳が柔らかい光を映す。あぁくすぐったい。甘い。思わず照れて困ってしまうくらいに。
「おつかれ」
たったそれだけの言葉でも、遊真が口にするとまろやかな響きになる。角砂糖の端がほんの少し綻んでしまったような、甘さのかたまり。手を振って歩み寄ってから、とりあえずは先輩へと挨拶をする。
「影浦先輩、お疲れ様です」
「……おう」
首の裏をかきながらそっぽを向かれつつ渋々と返された返事。遊真にそれじゃあなと言い残し、私を一瞥してから影浦先輩は去っていく。おつかれさまです、と手を振る遊真。私も後姿に再び頭を下げる。
「やっぱり、邪魔しちゃ悪かったかな」
「じゃま?」
「影浦先輩、遊真ともっとランク戦したかったのかなって」
「……そうかもな」
妙な間があったのが気になって、視線を隣の遊真へとうつす。私を見る表情は少しだけ困る――というより、呆れたような笑顔。そんなに的外れなことを言ってしまっただろうかと困っていると、遊真は、まぁどっちでもいいよ、なんて言って話題を終わらせてしまった。
「さて、帰るか」
「うん」
言うが早いか、遊真は颯爽と換装をといてしまう。トリオンの眩しさに目を細めている間に、トリオン体は消え失せた。目の前に立つのは隊服ではない、ブレザーの制服に身を包む遊真。
……ここだけの話。制服姿の遊真は普段よりちょっと大人っぽく見えて、好きだったりする。やっぱりワイシャツネクタイって、かっこいいよなぁ、なんて。
「何だ?」
「何だと思う?」
「見惚れてた?」
わぁ。間髪入れずなんとも自意識過剰な発言ですね遊真君。本当ならそのくらい言い返したいんだけどさすがに、二の句がつげなかった。沈黙は肯定。にんまりと笑う遊真には降参するしかない。
「……遊真はずるいよねぇ」
「そうでもないぞ」
たった今私をからかった口で何を言うんだろうか。思わずじっとりと睨んでいると、遊真は少しだけきょとりとして、
――次の瞬間にはまた、とろけた笑顔に優しい眼差し。
「イジワル言いたくなるくらいには、おれもお前にやられっぱなしだ」
なんとまぁもう一度心の中で言っておこう。遊真はずるいなぁ。
だけど、愛おしいとでも零しそうな柔らかな瞳に見つめられてしまえば、どんなにイジワルされたって、からかわれたって、恥ずかしくったって、私は嬉しくて仕方なくて、頬が緩むのを堪えられそうにない。
その瞳で笑わせておくれよ
(好きの篭った、その甘い眼差しで!)
special thanks ゆめこさん!!
素敵なタイトルありがとうございました!!