「本当に、物好きだよな」
しみじみと私を見つめながら呟く遊真。おそらく返事を求めているものではなく、本当にそうだと思ったから自然と零れただけの、いわば感想のようなものなのだろう。
けれど私としては少しだけ、その反応に不満があった。だってそうだろう。恋人とは言え日々の愛情表現も必要だろうと、勇気を出して好きだと言ったばかりなのに。その答えが物好きだな、とはあんまりじゃないか。
「……今、私もそうかもって思った」
「なんだ? これまでは自覚がなかったのか」
にんまりと笑う遊真は、私が拗ねていることもわかっているのだろうか。面白がっているような気配もあるけれど、遊真の真意はいつも大事なところがよくわからない。少しは、好きだと言われて嬉しいと感じてくれてればいいのだけど。なんて、恋人相手に今更だろうか。
「……嫌だった?」
「いいや」
本当に、遊真は大事なところを言ってくれない。
最初の時点でずるかったんだ。好きだよって言ったのだからせめて、おれも好きだよくらい言ってくれたらいいのに。恥ずかしかったり言えなかったのだとしても、せめて今の問いかけに嬉しかったよ、くらい言えないのだろうか。
そういう小さな寂しさが積み重なっていく。だから、不安になる。どうしようか悩んで、だから私からきちんと言葉で伝えてみようと勇気を出したのに。
「……そっか」
怖くなる。もしかして、本当はもう私のこと嫌なんだろうか、なんて。
私の知っている遊真は真っ直ぐな人だ。ありのままで在ることができる人。だから、遊真が嫌じゃなかったというならきっと言葉通りの意味なのだろう。決して私に好かれていることが嫌なわけではないはずだ。
だけど、それと私のことが嫌かどうかはちょっと違う。好かれていることが嫌じゃなくても、私を嫌だと思うことってありえるんじゃないかな、なんて疑心暗鬼が深まって。
だからもう、この話はやめようと思ったのだけど。遊真は今更になって何故か私へと伺うような視線を向ける。
「……おれのこと好きでいて、いいのか?」
「え?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまって、少し恥ずかしくなる。けれど遊真の質問を反芻してみても、やっぱり意味がわからなくて返事に詰まった。まさか好きでいることに疑問をもたれるなんて思ってもみなかったから。
どうしてと聞くよりはやく、遊真は何かに追われるように言葉を押し出して。
「おれはそう遠くない“いつか”に、おまえをおいていくのに」
なんだか、寂しい声だった。表情はいつも通りなのに、確かに笑っているのに。声だけがどこか、微かに震えてるように聞こえそうな儚さ。
それとも私の寂しさが遊真の言葉をそう聞こえさせているのだろうか。私の願いが、そう聞こえさせているのだろうか。
遊真の事情を聞いて、けれど好きだからと告白して。あの時の遊真は何も言わずに受け入れてくれたけど……本当はずっとそんなことを、考えていたのだろうか。
「……だって好きなんだもん。しょうがないでしょ」
チクリ。好きという言葉を口にするだけなのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
「それにね、そのいつかの先にきっと。私は遊真を好きでいながら、他の誰かをそれ以上に好きになるんだよ。そうして、幸せになるかもしれないから」
……だから、なんだと言うのだろう。
続く言葉に迷っていたら、遊真は眉一つ動かさないままに私の顎に手をかけた。引き寄せられ、遊真の年の割りに小さく、それでも男の子の親指が下唇をゆっくりとなぞる。
――まるでその指の腹で、艶やかな紅を塗りつけるように。
そんなことを思ったのはきっと、目の前の澄んだ紅の瞳に見惚れていたせいだと思う。
「キレイなウソ、つくね」
すぅと瞼が下りるのを見届けていると、唇にふんわりと温かく柔らかいものが触れた。あぁ、キスをされている。目の前で白い髪がふわふわと揺れて、こんなにも近くにいる。
呆けている内に静かに唇が離れた。開かれた瞳、その紅と再び視線が絡む。あぁ、ずっと見惚れてしまっていた。私はそんな照れくささを誤魔化そうと、口を開く。
「キレイ、って……嘘、なのに?」
遊真が嘘をそんな風に形容するのは初めて聞いた気がする。キスの余韻でまだふわふわとしている頭の中、頭が回りきっていないけど、おそらく。疑問をそのまま尋ねれば、遊真は寂しげな声で、けれど目尻を緩ませた優しい笑顔で答えるのだ。
「ウソじゃなければよかったな、っていう、ウソ」
――さて、私がついた嘘は、何だったのだろう。
君の嘘に紅をさす
(君の嘘を彩り、朱を入れて笑う)
Special thanks ハルさん!素敵なタイトルありがとうございました!