夜の箱庭、鍵をかけて
 すぅ、と小さな寝息。響くこの部屋は暗く、それでも長くここにいるから夜目に慣れてきた。
 目の前のベッドの上では名前が心地よさそうに眠っている。枕へと頬をすり寄せてすぅすぅと寝息を立て、時たま何やら唸ってはまた寝息を立てる。髪が少しだけ頬に張り付いているのでそっと指先で払ってみれば、それがくすぐったいのかまた唸りながら身じろぎし、払いのけたはずの髪がまたはらはらと頬へ落ちて。その繰り返し。
 眠ることができない。眠くもならない。そんな時間、最近はよく名前の傍で過ごすことが増えた。
 穏やかな寝息の傍にいると、そんなはずないのに、自分も眠ってしまいそうだと思う時がある。周期的に繰り返される呼吸。黙って聞いているだけでそのリズムにひきずりこまれそうな、妙な心地がするのだ。人の寝姿というのはどうやら、誰かの眠りを誘うものらしい。

「……ゆ……にゃ」
「……ん?」

 呼ばれたかと思ったけれど、それにしては舌足らず。言葉になりきれてないそれは恐らく寝言だったのだろう。伺ってみても返事はない。
 空閑遊真。その、“ゆ”の音だけで自分が呼ばれてると思うくらいには、きっと名前に何度でも名前を呼ばれているのだろう。夢の中でもおれを呼んでいたのなら面白いけど、大抵朝起きて聞いてみても、名前は夢をあまり覚えていないと言うので期待はできない。けど、眠っている夢越しに名前はおれの名前を呼んでいるかもしれなくて、なんだかくすぐったくなる。
 
 穏やかな時間だった。夜は誰もが眠っていて、とても静かだから。この部屋で聞こえるのは名前の寝息が立てる音。たまに寝返りを打った時のベッドの軋みと、それから布が擦れる音。おれがたまに姿勢を変える時の、ちょっとした物音くらい。
 気を張る必要もなく、何かを考えることもない。いや、考えてはいるけれど、頭を使わなくていいことばかりだ。ただ自然と浮かぶ感情を言葉にして、落とす繰り返し。ぼんやりと名前を眺めるだけの静かで、きっと意味もない時間。
 それでも確かに、ここには何かがあったのだ、と。おれが気づいたのはだいぶ先の話。

夜の箱庭、鍵をかけて

(闇の底へと沈めてしまおう)

special thanks!
貴方は時間があるなら『寝ている相手の髪をいじっている世界線の空閑遊真』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
https://shindanmaker.com/524738

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