「遊真くん」
「……なんだ」
普段と違ってわざとらしく遊真“くん”なんて呼んだからか、怪しい、と言わんばかりに疑わしげな視線を向けられる。けれど、別にやましい気持ちがあるわけではない。ただ一つ、おねだりしだいだけで。
「私の抱き枕になってください」
言えば、遊真はしばらく私を眺めたあとにいいけど、と呟いた。けど? とその先を促すも黙って首を横に振るので、それならばと私はさっそく布団に入ることにする。シーツはきんっきんに冷えていて、肌が触れたところからどんどん熱が奪われてしまう。これだから冬は嫌なんだ。いや、暦上はまだ秋のはずなのにどうして最近はこんなに冷えるんだ。
「うう、寒い。遊真、はやく」
そう、寒くて寒くて仕方がない最近。さすがに冬支度をするには早すぎるけど寒さをしのぐなにかが欲しい。ということで今日は、家にやってきた遊真を私が寝るまではと引き止めて今に至るのだ。
ねだれば遊真は渋々と言わんばかりにやってきて、はぁ、と一つため息。そんなに嫌なのかなぁ、とちょっとはつきりと胸が痛む。
「……やっぱりやめる?」
「いや、おれはいいんだが……」
ぼやきながらも遊真はするりと私の隣、布団の中へと身体を滑らせて侵入してきた。身体を寄せてくれる遊真に甘えて抱きつきにいけばされるがままの遊真。ふかふかの白髪に鼻を埋めて抱きしめると遊真の鼻先が胸元に触れる。
「……おまえ、平気なのか」
「なにが?」
顎を引いて見下げれば、私の胸元に顔の下半分を埋めた遊真が見上げている。不満気に眉をひそめて、けれど口元は埋まってるからもごもごとした声。唇が動くのと、喋る度に漏れる吐息があったかくて少しくすぐったい。そう眺めていれば遊真は急に顔を押しつけるかのように私を強く抱きしめる。
「胸、当たってるけど」
まさに。言うなれば遊真は私の胸の谷間に顔を埋めている状況だ。挟めるほどあるかはまぁ、おいておいて。
「女の子のおっぱいに顔を埋めるのって、男の子の夢じゃないの?」
「男側に立って話をしてどうするんだ」
「嬉しくない?」
真意を聞けば途端に黙ってしまった遊真。なんだ、やっぱりちょっとは嬉しいのかな。それでも素直に肯定しないあたりは珍しく意地を張ってるのか。
と、思えばはぁぁ、と長いため息。胸元にあたたかく吐き出されてほかほかとする。
「……もう少し恥じらいを持った方がいいんじゃないか」
「わざわざ嘘ついてどうするの。ちょっとは照れるけど遊真なんだから、恥ずかしいより嬉しいって方が大きいもん」
「嬉しい?」
「嬉しいよ。胸がどうとかじゃなくて、ただ、いっぱいくっついていられるのが嬉しい」
遊真は少し黙って、ふむ、と何やら頷いた。納得したのかなぁ。けれど遊真はもぞもぞと身体を動かしたと思ったら私の寝間着、その襟ぐりを引っ張って――露わになった胸元にちゅうと吸いついてくる。
「……っ、え?」
「キスされるのは嬉しくなかったか?」
私の意見を聞いたわりに、返事を聞くこともなく繰り返し吸いついてくる遊真。これは、さすがに。
「……そこにキスされるのは、恥ずかしいかな」
素直に言えば、遊真はくつりと喉を鳴らして笑う。
「おまえの恥ずかしいはよくわからん」
からかうようにくつくつと笑うので、私は遊真をぎゅうと抱き込んで戒めた。まったく、そもそも寒い布団の中で少しでも暖かく過ごそうと遊真を迎えいれたのに。これじゃあ、布団の中で睦み合うただのバカップルじゃないか。
「ところで」
もごもごと、私の胸元で何やら声をあげる遊真。このままじゃ聞き取りづらいから抱きしめる腕を緩めれば、またしても胸元に顔を埋めている遊真が私を見上げている。
「おれは口にもキスしたいんだが、それも恥ずかしいか?」
……あぁもう、バカップルでいいかなぁ。誰に見られているわけでもない、私と遊真だけの出来事なんだから。
「恥ずかしいけど、キスはしたいかな」
顔を上げた遊真。おかげですうっと冷たい風が胸元に走ったけど、もう寒さは気にならなくなっていた。だって、遊真が何度もキスをするから。恥ずかしくて、嬉しくて、もう全身ぽかぽかになってしまった。どうやら今晩は寒い思いはせずにすみそうだ。
人間ゆたんぽ大活躍
(一緒にいれば、心も体も温かい)