私は、夢を見ている。とは言ってもそうとわかるのは、夢から覚めたその瞬間なのだけれど。
ベッドで横になる私の隣で、遊真は気持ちよさそうな寝息を立てている。すぅ、すぅ。繰り返される呼吸音は明らかに眠っている人のそれだ。穏やかに眠る遊真にそっと擦り寄ってみる私。ぎしりとベッドが軋んだからだろうか、遊真は少しだけ眉根を寄せて表情をゆがめる。お詫びの気持ちも込めて、頬にかかっている髪を払いながら数度髪を撫でればまた表情が穏やかなものに。
無防備に眠る遊真の姿を眺めていると、なんだか胸の奥がむずがゆくなってしまうのだ。こんなにも穏やかで、微笑んでいるようにすら見えるほど心地よさそうに眠っている姿を、私の傍で見せてくれる。それは、なんと嬉しい信頼だろうか。なんと愛しい、愛情だろうか。
あまりにも優しい熱が、私の瞼までもとろけさせてしまう。あぁ、けれどまだ眠りたくはないのだ。だってもっと遊真の寝顔を眺めていたい。こんなにも傍で気を許してくれている姿を見つめていたい。目に焼き付けたい。
――だって。
「……おぉ、やっぱり起こしたか?」
唐突に思考が遮られて呆然とする。眠っていたはずの遊真は、いつの間にやら起きていたらしい。ちょうどまさにベッドに戻ってきたと言わんばかりの遊真と目が合うと、ゆったりと微笑んで囁くような声を落とす。
「すまん。喉が渇いたから起きたんだ」
そう言って遊真はふわりと私の髪を撫でる。一撫で、二撫でした遊真はもぞもぞと掛布団を引っ張りながら潜り込み、伴って揺れるベッドに思考もぐらぐらと揺れる。
「ほら、寝よう」
当たり前のように私の隣で横になる遊真。寝ようと言う遊真はけれど、目を細めるだけで瞼を下ろす気配はない。私が眠るのを待つつもりだろうか。別に、眠ってくれてもいいのに。
――だって?
「……ゆう、ま」
喉が引きつるような感覚。起きたばかりだからだろう、口の中が渇いていてうまく声がでなかった。そんな耳触りのよくない声でも、遊真は穏やかに微笑んだまま緩く首を傾げてみせる。伝わっているとわかって、私は一度咳ばらいをし、改めて声をかける。
「遊真、いつ起きたの?」
「ついさっきだ」
「……寝て、た?」
「うん? うん」
違う、違うはずなんだ。わかっているはずなんだ。
なんら違和感なく会話は続くけれど、根本的に言葉の意味が違う。起きた、というのは眠っていて目が覚めたというわけではない。ただ、横になっていた状態から身体を起こした、というだけのこと。寝てた、というのだって、休む必要のない遊真にとっては横になることが寝ていたという状態を示すのだと、それだけのことなのだ。
だから、私たちの会話は間違いなく噛み合っている。それなのに、夢を見たばかりの私にはなんだか目の前の遊真に現実味がなくて。
「……寝よう、か」
私の誘いに、遊真はなんの迷いもなくうん、と一つ頷いてみせる。だってそうだろう。いつものことだ。わずかな時間ですら惜しいから、私が眠ってしまうギリギリまで傍にいてくれる遊真。まるで恋人が睦み合う様を真似るかのように、一つの布団で熱を分け合って夜を明かすのだ。
「おやすみ」
きっと私はいずれ眠ってしまう。けれど確かめるまでもなく、遊真は眠らずにそこにいるのだろう。だからせめて、あの夢の私のように。私が遊真の傍にいると幸せだということだけは、伝わってくれるといいのだけど。
愛言葉の伝え方
(寝顔を眺める、一つの幸せ)