恋は短し凸せよ乙女
 好き、嫌い、大好き。
 女心は秋の空のように移ろいやすく、いつだって自分のために全力なのです。

「と、いうことで遊真君のパンツがみたいです」
「だめです」

 遊真君はそう言って何事もなかったかのようにランク戦ブースへと向かおうとしてしまう。これで通算29回目の惨敗だ。何回お願いしても取り付く島がない。いや、これで気軽にいいぞ、とか言われても困るんだけどね!
 けどやっぱり複雑な乙女心。いいぞって言われたいから今日も挑んだのです。惨敗だけど。とりあえず無駄だとわかっていても、ギリギリまでは粘ってみるのもお決まりのやりとりで。

「ねぇ、やっぱりブリーフなの?トランクス?思い切ってボクサーパンツ履いてみない?」
「あんたのことだからそれパンツの種類なんだろうけど、全部やだ」
「えっ!?じゃ、じゃあもしかしては、はいてな」
「なぁ、毎回言ってて飽きないの?」
「飽きないよ!今日こそもしかしたら!っていう期待があるでしょ!?」
「……おまえ、変なところで前向きだな」

 はぁ、と大げさな溜息。もう見るからに面倒くさいっていうオーラを放っているけどいつものこと。か弱い乙女なら遊真君の迷惑になるようなことしたくない……!って言えるのかもしれないけど、あいにく私は図太い乙女なので、とりあえず、挫折するまでは負けません。

「遊真君に褒められると嬉しいな!ありがとう!」
「……ま、おれはもうランク戦はじめるから、じゃあな」
「うん、ばいばい!」

 遊真君も遊真君で、段々と私の扱い方を覚えてきたらしい。だって遊真君にじゃあなって言われるの嬉しいんだもの!普通の会話はつっけんどんだけど、挨拶はちゃんとしてくれる。拒絶されてしまうまではその優しさにつけ込んでしまおうと、今日もまた、私は自己中街道を突っ走るのです。
 とは言うものの。


「こんにちは!遊真君!パンツ見せてください!」
「いやです」

 はい。おめでとうございます。これにて通算30回目の惨敗でございます。
 わかっていたことだけど、こうまで順調に記録を伸ばしてしまうとなんだか達成感がありますね。いや、惨敗なんだけど!一度も勝利していないんだけど!

「……なぁ、あんたさ」
「はい、なんでしょう」
「なんでおれのパンツみたいの?ヘンタイだから?ショタコンだから?」
「うわぁ遊真君。そんな単語誰に教わったの?」
「普段のおまえとおれのやり取り見てる先輩は皆そう言うぞ」

 なんと、敵は本能寺…じゃなかった、身内にあり、か。遊真君は日本のあれこれには疎いらしいから、そんな俗に染まった言葉なんて知らないままだと思っていたのに。

「で。ヘンタイなのか?」
「遊真君のパンツを見たいと思うことが変態だというなら変態ですね!」
「じゃあショタコンは?」
「遊真君のパンツを見たいと思うことがショタコンだというならショタコンですね!」

 自分から聞いた割りに、あんまり興味がなさそうにふぅん、と相槌を打つ遊真君。なんだ、少しは私に興味を持ってくれたのかと思ったのに違うらしい。

「先輩達に、せくはらに困ったらちゃんと相談しろって言われたぞ」
「ふむふむ。セクシャルハラスメントですね」
「それ、なんだ」
「直訳すると性的な嫌がらせですね。私がパンツを見せて欲しいということは多少性的な欲求があるので、それに対して遊真くんが嫌だと思うのならセクハラとして成立します」
「……あんた、そこまでわかっててなんでやめないの?」

 あぁ、げんなりとした表情の遊真君も素敵ですね!蔑むような視線もご褒美です!だって私ちょっとえむっけあるみたいだもん!いやでも、痛いのはあんまりやだなぁ。
 なんて、現実逃避しても仕方がないですね。

「あのね、遊真君って嘘がわかるんでしょ?」
「うん。わかるよ」
「だから遊真君への欲求は隠せないな、と思って」
「……ふむ?」
「どうせなら思いっきり赤裸々にしてしまった方が楽なんじゃないかな、と!」
「……おまえ、すごいね」

 いよいよ告げてしまった思いの丈は、想像よりあっさりと遊真君に受け入れられてしまった。まじまじと私を眺める視線はいつもみたいに呆れたような雰囲気じゃなくて、本当に、なんだか、感心されてるみたいだ。いや、願望がそう見せてるのかもしれないけど。

「お前、おれのこと好きなのか?」

 なんと、ここにきてまさかの告白チャンスがきてしまった。いつかきたら嬉しいな、と妄想で何度も練習したんだ。今こそその成果を発揮すべき時!

「す、好きだよ!」
「……そこは照れるのか」

 練習の甲斐も虚しく言葉に詰まってしまうとはなんたる失態!けれどきちんと言えたのは偉いぞ自分、凄いぞ自分!

「それならなおさら、もっと良いとこ見せようとか思うんじゃないの?」
「うん、もちろん見てほしいよ!」
「……じゃあなんで、せくはらばっかするんだ」

 あぁ、呆れたような眼差し再び!信じられないって思ってるのかなぁ。いやでも、嘘がわかるんだからそれはないか。
 それにしても、段々と心臓が早くなってきた。おかしいな。自分の素直な欲求を口にすることには慣れたと思っていたのに。自分の本音を伝えるのって、やっぱりこんなに緊張するんだな。
 けれど今こそ女を見せる時。勝負時。私はこっそり深呼吸をして遊真君に答える。

「私は嘘をつかないために恥を捨てて欲望に赤裸々になれる自分が結構好きです!」
「……ほう」
「それに、どちらかというと良いとこは遊真君に見つけてほしいです!」
「……ほう?」
「遊真君が私の良いとこ見つけてくれたら、私、そういう自分がもっと好きになれる気がする。だから、見つけてもらえるように、正直な私を見せてるんです!」

 飾り立てて自分を律して、それで遊真君に好きになってもらいたい。そういう気持ちが全然ないわけじゃないし、好きになってもらえるならそうしたい。
 けど、わからないじゃないか。どんなに頑張ったって、好きになってもらえるかなんてわからない。それなら、私は私であるように頑張りたい。

「それ、難しいな」
「そうでしょうとも!わかってます!ありのままの自分を好きになってくださいとか図々しいですよね!」
「お前も大変なんだな」
「わかってくれてありがとうございます!」

 まさかの理解を得てしまった。そ、それはそれでなんだか申し訳なくなってくるな……。どうしよう。同情してくれちゃったりするかな。それはそれでラッキーチャンス?でも寂しくもなりそうだし、なんてまたしても首をもたげる図太い乙女心。

「よし、今のお前の頑張りに免じて教えてやろう」

 普段はあまり見ることのできない、遊真君の楽しそうな笑顔。なんと、今の話の流れでそんな表情を拝見できるとは思いませんでした。
 ……と。今遊真先生は教える、と申しましたような?

「は、はい、何を?」
「オサムに聞いたら、おれのパンツはとらんくすというらしい」
「はっ!?」
「ちなみに今日は青色だ」
「なんですと!?!?」

 突然の爆弾発言に思わず叫んでしまった。喉が痛い。大丈夫かな。なんか顔が熱くて仕方ないし目の前がよく見えないんだけど、これ、脳の血管ぷっつんしてないかな。大丈夫?私生きてる?

「あ、あの!」
「うむ」
「できれば黒のボクサーパンツを履いて見せてほしいです!!」

 けれどここしばらくで鍛えた私の精神はとても逞しく。今なんとも言えないご褒美を頂いたというのにまだ図々しくも本音を駄々漏らしてしまう。
 あぁちょっとくらい遠慮しようよ!いやそうしたら嘘つきになっちゃうのかなぁそれも嫌だな!と、いろんな考えてぐるぐるパニックな私に、遊真君は満面の笑顔を見せるのだ。

「嫌だね」

 何それ。なにそれ!表情と言葉があってません先生!
 嫌だっていうならいつもみたいに可愛そうなものを見るような目と呆れた表情で言ってくれないと!そんな楽しそうな、面白そうな、満足そうな笑顔で言われたらなんかもう何を言われても喜んでしまいます!

「あの!次私が頑張れたら今度はパンツのサイズ教えてください」
「はいはい」
「そうしたら黒のボクサーパンツプレゼントするので履いてください!」
「はいはい」

 あぁもうなんだか、どうにかなっちゃいそう。けどそれは、自分が壊れちゃいそうだとかそういうのじゃなくて。今ならどんなことでもできてしまうし、どんな私にもなれちゃいそうな。これまでの自分を全部ぶち壊してしまうような、無敵な自分になれそうな予感!


恋は短し凸せよ乙女

(何度だって殻をぶち破れ!)

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