※攻撃手夢主 遠征捏造
から、から、から。きっとこの星は空も、大地も、そんな音からできている。
玉狛支部が匿っていたらしいアフトクラトルのネイバー、ヒュースの道案内によって訪れたこの星は、もう既に息絶えた後のような有様だった。戦争の名残なのだろう。集落らしき付近を見ても、家屋はことごとく破壊されて見るに堪えない光景が広がっている。
それでも、まだ軌道上を動いているからこそ私達は予定どおりこの星に下り立ったのだ。つまり、マザートリガーは生きているはず。情報収集は見込めないかもしれないが停泊する必要はあるため、まずは現状を確認すべく少数グループで偵察にきた、という次第だ。
小さなキャンプを張り、そこを拠点にして狙撃主組が周囲を警戒する。キャンプの周囲は銃手、射手が巡回して狙撃主を守りつつ、いざという時には攻撃手を援助できるよう注意を払う。そうして攻撃手はバディを組みつつ、なるべく他バディから離れすぎないよう注意しながら周辺建物を偵察する、という布陣を組んだ。そうして私は今、遊真と共に目の前にある廃墟を調べようとやってきたのだ。
ちらり、と向けられたアイコンタクト。黙ったまま頷けば、遊真は目の前にある扉に手をかける。人の気配は感じない。万が一がないわけでもないと警戒するが、結局それも杞憂に終わりそうだ。
真っ先に目が映ったのは、微かな陽光に透かされたステンドグラスだった。惜しむらくは、乾ききったこの星ではもう空がくすんでいること。きっと在りし日はさぞ美しかったのだろうに、もうその輝きを見る事はないのだろうか。それでも、天井や壁はあちこちに亀裂が走り崩れているのに、そのステンドグラスだけは何故かほとんど欠けないままに残っていた。
「……教会、かな」
「そんなかんじだな」
遊真はだいぶ警戒を解いたのだろう。あまり気取ることもなく淡々と進んでいき、瓦礫に足をかけながらも聖書台の前へと立つ。私も辺りを見回しつつ後を追うが、どこからも人の気配は感じない。
「それほど古い感じはしないな」
「壊されてからあんまり経ってない?」
「多分」
遊真はそっと聖書台に残されていた本を手に取った。砂を払い、ぱらぱらとめくり、ふむ、と頷いてからぱたりと閉じる。ネイバーにも信仰はあるのか。どんなことが書いてあるのだろう、どんな神様がいたのだろう。聞いてみたいと思ったけれど、今の任務には関係ないことかと思考を振り払う。
「奥まで見るか?」
「そうだね。こういうトコには人が隠れていそうだし」
もしここが本当に教会だとしたら。いや、教会とは呼ばずとも神様を祀る場所であったとするならば。やはりいざという時、ここに駆け込む人は少なからずいるだろう。困った時の神頼み、なんて揶揄られてしまうけれど、人々の拠り所であることは間違いないだろうから。
しかしこんな瓦礫の山の中、人が長く隠れていられるだろうか。そう思ってふと目線を下げた時、私は思わずあ、と声を漏らしてしまった。
「何?」
「今踏んでる、それ」
「んん?」
「それ、神様の像じゃないの?」
遊真は渋々といった様子でかけていた足を下ろし、瓦礫から少し距離をとった。そうすることでようやく私が見えているように、そこにある瓦礫がおそらく破壊された偶像の一部だということに気づいたのだろう。しかもよりにもよって遊真が足をかけていたのは、偶像の頭、こめかみのあたり。けれど遊真はふむ、と頷いてみせるだけ。
「……罰当たりじゃない?」
「なんで?」
「なんでって、神様だよ? さすがに悪いかなぁって」
私としては他人事なのにも関わらず罪悪感があるのだけど、踏んでいた当人は平然としている。あんまり信仰心がないタイプなのかな。これ、私にまで天罰下りたりしないかな。
「別に、これくらい平気だろ」
「えぇ……? さすがに神様を足蹴にするのは、ちょっと」
「もう神様じゃないんじゃないか」
凛とした声。人気もなく、乾いたこの建物の中では互いの声がよく響く。誰かがいるならいい加減気づきそうなものなのにとは思うが、敵か味方かわからなければ姿を現すことはないのだろう。そもそも、姿を現すことができるのかもわからないが。
さておき、遊真の声はどこか冷たさを孕んでいた。まるで鈴がころころと転がって鳴り続けるかのように、鋭くも柔らかい声色がまた教会に響く。
「この星はもうすぐ死ぬんだろうから」
抑揚のない声はどこか恐ろしく感じられた。命に対して悼む気持ちが感じられるわけではなく、同情も、悲しみもない。ただ事実を告げる声は、まるで託宣のようにすら聞こえる。
「……そっか」
私はそっとしゃがみこみ、静かに両手を合わせた。本当ならこの星で信仰してきた人々のマナーがあるのだろうけれど、今となってはもうわからない。それでも手を合わせることは、およそどの宗教でも失礼にあたらないことが多いはずだと信じて。
少しの間黙祷し、目を開ける。傍では不審げな遊真が私を見下ろしていた。
「神様じゃないのに、拝むの?」
「仏様だって拝むじゃない」
「ふぅん?」
遊真はイマイチ理解ができてないようだったけれど、咎めるつもりもないらしい。興味を失ったのか、いよいよその場から離れて教会の奥へと足を向ける。離れるわけにはいかないからと私も腰を上げ、改めて崩れた神像を見下ろす。
あぁ、悲しいものだ。きっと人々を見守る穏やかな表情だったのだろうに、頬の辺りに数発銃弾を喰らったような跡があるせいで泣いているかのように見えてしまう。あげく崩れて床に横たわる様は、ただ痛々しいばかり。
「行くぞ」
呼ばれて、今行くと答える。神様だったものを置き去りに教会を荒らすのはどことなく良心が痛むけど、そんなことを言っている場合でもない。争いにきたわけではなくとも、私達は決してこの星を助けるために訪れたのではないのだから。
「困った時の神頼みの末路が、これかぁ」
虚しい、とは口にできなかった。それでも私が言葉の裏に滲ませた感情を汲んだのだろう、足を止めた遊真が振り返る。
「神様なんて、そんなものだろ」
そう告げる遊真の顔に浮かんだ表情には、どこか見覚えがあって。
あの神様の像が崩れる前。この星に根付く人々の営みを慈しみ、見守っていた頃に浮かべていた顔はきっと、あんな笑顔だったんだろう。
私は少しの間遊真に見惚れて、けれど急かされるから慌てて遊真の背中を追う。なんとなく、背後からの石像の眼差しを感じながら。
星と神様の心中物語
(空閑遊真と教会の廃墟は親和性がヤバイ)
(結婚ごっこをするなら?のアンケを見て滾ったけど結婚ごっこしなかった…)