「手が冷たい……」
「ふむ?」
二人並んだ帰り道、寒さに負けて呟いた言葉に遊真は不思議そうに首を傾げる。
「確かに冷たいが……おれの手が冷たいのか?」
繋いでいる手をぎゅうと握り込んで、遊真は私を伺う。遊真にまで言われるほど私の手は冷たいのか。まぁ、寒いからね。しかも私の下心で、手袋もしないまま手を繋いでいるのだから、なおさら。
言い訳くらいはさせてほしい。遊真は寒いと愚痴を零すこともないし、体現するかのように防寒意識がほとんどない。室内ならまだしても外にいる時だって。遊真はコートを羽織るだとか、マフラーを巻くだとかをしない。だってたぶん、平気だから。
だから、繋ごうと伸ばされる手はいつだって手袋もしていないそのままの手だ。それを手袋をした手で握り返すのはなんだか――なんだか。
「うぅん。大丈夫、遊真の手はあったかいよ」
「ほう」
そういうわけで私も手袋はしない。ちゃんと遊真の手だってわかる方が好きだし。風の当たる手の甲は少し冷たいけど、遊真と合わさっている手のひらは少しだけ温かくて、柔らかくて好き。遊真と手を繋いでるなってちゃんとわかるから、嬉しくなる。
けれどそれはあくまで、繋いでいる手の話。
「じゃあ何が冷たいんだ?」
「……こっちの手だよ」
私は遊真と繋いでいる手と反対の、手持ち無沙汰な方をひらひらと振って見せる。二人並んで歩けば当然繋ぐのは片手だけ。空いた片手は、肩にかけたカバンのひもがずり落ちた時くらいにしか役目がないじゃないか。しょうがなく、行方は上着のポッケの中。いやだって、片手だけ手袋してるっていうのもなんか変じゃん。
そうしてポッケの中で温めていたつもりでも、外が寒ければ冷えるものだ。だいぶ歩いてきた今になると、ちょっと冷たさが堪える。今日はいつもより寒いのかもなぁ。
「……なるほど」
とは言えそんなことは冬の常だ。そう他愛のない話にも関わらず、遊真はふいに足を止める。あれ、どうしたんだろう。釣られて私も足を止めると、遊真は今度、私の進行方向を塞ぐように仁王立ちして。
「ん」
遊真は私に繋いでいなかった手を差し出してきた。言葉少なに、けれど手を出せと言っているようだ。まるで犬がお手でもするように、私は従順に手を差し出す。
「お、ほんとにこっちのが冷たいな」
「でしょ」
遊真の左手は私の右手と。私の左手は遊真の右手と。帰り道の途中で二人、両手を繋いで輪になっている。何してるんだろうな、私たち。なんだかおかしくて自然と笑ってしまう。
「どうした?」
「だって、これじゃあ歩けないじゃん」
「まぁ、そうだが」
このまま帰るなら、遊真がずーっと後ろ歩きしてるのかな。そんな不格好な様子を想像すると余計におかしくなってしまう。二進も三進もいかないこの状況でどう帰れというのか。遊真が一歩、私の方へと足を踏み出したのなんてただの悪足掻きじゃないか。
――と、油断していたら、キスされて。
「こういうことするには、ちょうどいいだろ」
にんまり、目の前には意地の悪い笑顔を浮かべる遊真がいる。
私はびっくりして恥ずかしくて、顔を隠そうと……したのに。ぐん、と引っ張られた両手。あぁそうだ、両手を繋いでいる今はにやけてしまいそうになる口元も、恥ずかしくて赤くなってしまいそうな頬も、泳いでしまう視線だって隠せないのだ。
「……み、見ないで」
「なんだ? いつもキスの後はそんな顔してたのか?」
「だから見ないでってば」
遊真のいうそんな顔って、どんな顔だろう。絶対変な顔してる。隠したいのに隠せなくて、なんかもう遊真ってずるい。遊真にはウソがつけないから私の本音なんて全部駄々洩れなのに、こんな顔まで見られちゃうなんて。
「かわいいぞ」
そう言った遊真からもう一度キス。びっくりして目を瞑って、唇が離れたらぱちりと目が合う。
あぁ、私も初めて知った。キスをした後の遊真って、こんなに幸せそうに笑ってたのか。
二人の世界で見えるもの
(たまにはいちゃ甘な夢が書きたかった)