カチャン、とひそやかに扉が閉められた音で目が覚めた。
覚めた……そう、私は寝ていた。なんでだっけ? うん、単純に防衛任務と学校とで疲れちゃって、放課後ランク戦に向かったものの勝率が悪すぎて家に帰ってきたんだった。
遊真も一緒だった。今日は誰ともランク戦の約束をしていなくて、たまには、と。それじゃあ一緒に夕飯食べて、この前一緒に見ようって約束してた映画でも見たり? けれど眠くてしょうがなくて、遊真に謝って十五分だけって仮眠を取りたくて――
「……すまん、どうした?」
扉の向こうから遊真の声がする。電話かな。あぁ、扉を閉めたのは寝ていた私を起こさないようにするためか。
「…………悪い、今日はムリだ」
電話口の向こうが誰かはわからないが、いやにハッキリと断るものだ。と、いうことは修くんや千佳ちゃんではないな。部隊のなにかがあったのなら「ムリ」だと言って断ることはしないだろうし。
今って何時だろう。枕元に置いていたスマホを探せば時刻は……いや、普通に一時間近く寝てない? 遊真、起こさないでいてくれたのかな。
「……うーん、ムリだな」
相手も結構粘るなぁ。どういう話だろう。ランク戦行こう、だったらまた約束すればいいような気もするけど……。今日限定、ってどんな用件かな。
というか、遊真はまだ私が寝ていると思っているんだよな。起きてるよ、ってアピールした方がいいかな。何となく起きた体勢のまま動けないでいるんだけど、大事な用事っぽいなら、行っておいでよって声かけた方がいいんだろうか。
「……おぉ、よくわかったな…………ダメだな、今寝てる」
うわ、これ私の話してるっぽい? どうしよう。ちょっと、起きてるんだけど。心配しなくていいんだけど。
「え? ……んん? 付き合ってるって話はしたろ」
……私、これ以上盗み聞きしてもいい感じ? 大丈夫?
おそらく向こうは私のことも知っている人。っていうか、遊真に電話をすることを考えても、ボーダー隊員であることは間違いないだろう。遊真ってばその人に、私と付き合ってるって話もしてるんだ。え、しかも今私が寝てるとか、そんな話しちゃってるの?
恥ずかしくて、でも私が知らないはずの遊真と誰かの会話に自分が登場していることに、嬉しさもあってそわそわする。遊真の口から(私と)付き合ってる、って言葉が出るなんて。うわ、ドキドキしてきた。私はその恥ずかしさに耐えるように、身体をぎゅうと丸めて息を詰める。
「……別にいいけど…………うん、じゃあまたな」
お別れの挨拶だ。どうやら電話は終わったらしい。
その後、扉の向こうの遊真がそわりと動く気配がした。端末をポッケにしまったとか、そんな感じかも。それからゆっくりと扉が開いて――
「あれ、起きたのか」
「…………ごめんなさい、聞いてました」
「ふむ?」
ベッドに丸まったまま、けれど目はぱっちりと開いている私。部屋に戻ってきた遊真としっかり目があって、遊真は少し驚いたような顔をする。
おはよう、の挨拶より先に謝罪をすれば、遊真は存外気にしていないようだ。「聞いてもいい?」と伺えば「うん」と頷くので、私は「誰と電話してたの?」とそのまま訊ねる。
「しゅんだよ。今日までなら安くなるから、焼肉食べに行こうって」
「……えぇ、それ断ってよかったの?」
「いいよ別に。なんのために家に来たと思ってるんだ」
遊真はそう言ってゆるりとベッドに腰かける。マットレスが沈む振動に揺られながら、私もゆるりと身体を起こして。それから、そうっと遊真の背中に抱きつく。
「……ごめん、ね?」
「ちがうな」
「…………ありがとう」
「うん」
遊真が少しだけ、私に寄り掛かるように力を抜く。ちょっとだけ感じる重さが嬉しくて、私はまた抱きしめる腕にぎゅうと力をこめる。
「……焼肉はムリだけど」
「うん?」
「夕ご飯、せめてピザくらいは奢ってあげる」
「よし、じゃあ頼もう」
私の提案を受け入れつつも、遊真は私に体重をゆるりと預けたまま。起きるつもりがないような、それですら嬉しくて私は肩口に擦り寄る。くっついたまま、どんなメニューにするか話し合って。
ピザを頼んだら、届くまではこうしてくっついていたいな。それが、遊真が家に来てくれたからこそ、できることだしね。
ちょっとだけ、優越感
(彼女としての特別扱い?)