ファン活開始、観戦、応援!
 結局、B級になったことを伝えて手続きをしないと、と空閑くんは早々に帰っていった。まぁ私としては、ギリギリの手続きで間に合うんだ、という疑問が残ったけど。
 ともかく私は帰り際に、改めてB級ランク戦についての通達を確認することにした。二月から三カ月、毎週土曜と隔週水曜に、昼の部と夜の部の二部編成で行われるB級ランク戦。各部では上位、中位、下位グループの部隊戦が行われるらしい。
 初日、二月一日のスケジュールは――

「……あった」

 玉狛第二の文字は確かに記載されている。空閑くんは確か、部隊の申請は既に済んでいると言ってたし、この部隊に間違いないだろう。
 ――と、その隣に訓練生への告知が出ている。どうやら、今週の合同訓練はこの前の一回のみだが、補講としてもう一回土曜日に行うとのこと。あくまで補講なので、参加自由だとも記載されている。

「う〜ん……?」

 さて、どうしたものか。一応B級ランク戦は記録も残るらしいから、後日端末室で見るという方法もある。けど、空閑くんの試合をリアルタイムで観戦したい気持ちもある。
 さらには合同訓練まであるとなると悩ましい。参加自由とは言え、ポイントをもらえるチャンスは逃したくない。……っていうかこれ、もしかして友人知らないんじゃないかな? 連絡したら参加するって言うかな。もし、そうだとしたら?
 考えつつ、私は一つ浮かんだ案を相談するべく、帰宅がてら友人と連絡を取ることにした。



「おつかれ、沙智」
「おつかれ〜!」

 いざ、二月一日土曜日。B級ランク戦の開幕初日であり、私たち訓練生の合同訓練、その補講が行われる日でもある。
 まずは自分たちの合同訓練だ。友人と共に集合場所の訓練ホールに行けば、今回は前と同じ訓練三点セット――地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練――が行われた。
 ランク戦もそれなりに経験してきている私たちはどれもスムーズにクリアすることができた。特に地形踏破訓練は、この前の近界民相手の戦闘訓練の時に“壁に着地する”感覚を掴めたみたいで、我ながらいい調子だった。
 ――で、合同訓練の後。空閑くんのB級ランク戦が始まるまで。

「じゃあ沙智、約束通り付き合ってよね」
「りょうか〜い」

 さすがにB級ランク戦夜の部までは長すぎるし、途中で夕飯も食べたいし。ボーダーに食堂があるのも利用してみたいし、その辺り、知っておくに越したことはないだろうと友人を誘った。
 合同訓練もあるからと、友人からは思いの外あっさりオーケーが出た。というのも、一人で受験勉強してると煮詰まって進まなくなったりで効率が悪いとか。一応は私も学年上位なので、勉強を教えてくれるならということで交渉成立したのだ。

「あと一週間ないってヤバイんだけど」
「ね……がんばろ」

 私も家から勉強道具は持ってきたし、ボーダー内、ラウンジと呼ばれる休憩スペースの隅に陣取って勉強開始だ。私も友人もそれぞれでテキストを進めつつ、声をかけられれば手を止めて相談にのる。
 そうしている間に――ふと、誰かが傍を通り過ぎて。なんだか気になった私は顔を上げて、通り過ぎた白い訓練生隊服の背中を見る。

「沙智? あれは少年じゃないよ」
「いや、そりゃあ見ればわかるけど……」
「バイパーの人じゃん。よくランク戦してたよ、私」

 その友人の言葉にようやく思い出した。確か、甲田って人だ。私をバイパーでこてんぱんにした奴。

「バイパーかぁ……どうやって戦えばいいんだろう」
「撃ち勝てばいいんだよ」
「私は弧月なんですけど」

 友人は私の呟きにゆるりと返答しつつも、勉強の手を休めることはない。
 私は小休止も兼ねてぼうっと策を巡らせる。どちらにせよリーチがある向こうが有利なのは揺るがない。私はまず、あいつを自分の間合いに引き入れなければいけないのだ。
 すると私が悩んでることを察したのだろう。友人がふいに口を開く。

「弾丸トリガーはさ、再装填っていう隙があるわけ」
「へ?」
「あいつ銃持ってないでしょ。射手って言うらしいけど、残弾数は宙に浮いてて見えてるんだから、それさえ凌げばやりようはあるんじゃない?」
「……なるほど」

 その視点はなかった。そうか、銃のない射程持ちはいつも撃つ直前、付近にふわふわと弾丸の元みたいなのが浮いていた。あれって、残弾数の参考にもなるのか。

「わかった? わかったら今度は沙智が教えて」
「はーい、どれどれ……?」

 さっそく試してみたい気持ちも湧いたけど、今は約束優先。私は友人と勉強会を続けながら、時間が過ぎるのを待った。


 
『間もなくB級ランク線、夜の部、下位グループ戦がスタートします! みなさま、お席にてお待ちくださいね』

 B級ランク戦の会場はまるで映画館のようだった。大きなスクリーンが用意されていて、今はボーダーのエンブレムが映されている。ここでランク戦の様子を観戦するなんて非常に贅沢だ。
 観覧席の中央付近には関係者席のようなものがあるらしい。今のアナウンスもそこにいる職員らしき人が行っていたし、何かあるのだろうか。ともかく、私はワクワクしながら席を取る。もちろん、隣には友人だ。

「やばい、スクリーン大きいんだけど」
「はいはい、興奮するのはわかったから」

 空閑くん、どこに映るだろうか。ここから見れるかな。
 ふと、気づいた時には関係者席にはさっきの職員さん以外にも二人が座っていた。誰だろうか。そう思っている内に時間になったのか、アナウンスが入る。

『はい、ボーダーのみなさんこんばんは! 海老名隊オペレーター武富桜子です!』

 オペレーター、も部隊に所属しているのか。何の人だっけ、と小声で友人に訊ねれば、様々な情報をまとめて観測しつつ、隊員の援護をする人、だとか。わかるような、わからないような。
 ともかく、今日は彼女率いる関係者席の人が解説をしてくれるらしい。一人は嵐山隊、狙撃手だからか普段はあまり見かけることのない佐鳥先輩。そして――

『もう一方――玉狛第二の三雲隊長です!』

 武富さんのアナウンスに会場がわずかにざわついた。近くの訓練生が小声で「記者会見の時の……」と話しているのが聞こえる。
 そうしてようやく気付いた。ここからでは顔がしっかりとは見えないけれど、あれが、あの記者会見の三雲くん。
 ランク戦の前に、と断って武富さんが解説を佐鳥先輩に頼んでいる。佐鳥先輩がB級ランク戦の仕組みについて解説を終える頃、巨大スクリーンにはいくつかの場面が映し出された。そのうちの一つには空閑くんの背中も映っている。

『転送完了! すでに戦いは始まっている!』

 記者会見の三雲くんが玉狛第二の隊長。空閑くんが所属しているのも、玉狛第二。
 三雲くんは記者会見の時、攫われた訓練生もみんな取り返すと言っていた。ボーダーから発表されたのは近界への奪還プロジェクト。選抜試験を実施し、また基本的にはA級隊員の中から選抜する、と。
 そしてこの前の空閑くんだ。A級になって、遠征部隊を目指していると言っていた。あれはこのことだったのかと色々が繋がった気分だ。三雲くんも、空閑くんも、だからきっと同じチームメイトの雨取さんも、遠征を目指しているのだろう。

『あ……、大丈夫だと思います』

 ふと、気づいた時にはもう空閑くんが吉里隊を下したあとだった。いつも通り……いや、それ以上にも思えるほど俊敏な動き。吉里隊はまったく対応できないまま、ベイルアウトだ。
 やっぱり、空閑くんは確実に殺すために首を狙いにいくんだな、なんて。
 そうしている内に、残りの間宮隊は籠城するつもりのようだ。どうするんだろう、と眺めていたら――スクリーンの一つが、瞬間、真っ白に染まる。
 爆発だ。何が起こったのか、呆然と見ている内に空閑くんは間宮隊の近くまで来ていたらしい。建物が壊れて無防備になった間宮隊を瞬殺。試合が始まって五分も経っていないような気がするが、とにもかくにもこれで決着らしい。

『B級ランク戦、夜の部はこれにて終了です! みなさんお疲れ様でした!』

 期待の超新星。私の憧れの人は、そんな初戦を飾ったのだった。
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