奮起、トラウマ、蹴り飛ばせ!
 玉狛第二の完封勝ちは、訓練生の間でも話題になった。それはたぶん、メンバーがあの記者会見の三雲くんや、白い悪魔と恐れられる空閑くんであることも理由だろう。さらに、私は知らなかったが雨取さんも、狙撃手界隈では有名人らしい。何かの間違いじゃないか、とか、圧倒的で凄かった、など色んな声が聞こえてくる。

「沙智、準備は?」
「大丈夫。行こう」

 そんな喧噪に気をとられつつも、今日も元気に合同訓練。空閑くんがいないので残念なのだけど、私はまだB級には手が届きそうにないので、真面目に訓練に取り組まなければ。
 今日の集合場所は珍しくC級ランク戦ロビーだった。向かえば、既に集まっている訓練生たちがこれまたざわついている。たまに耳に入る単語だけでも、玉狛、とかB級ランク戦、なんてものばかりだ。おそらく今は彼らが話題をかっさらっているのだろうな。

「さて、諸君! 時間だ、訓練を始めるぞ!」

 そんなざわめきを気にも留めず、場を仕切るのはまたしても嵐山隊だ。訓練生の面倒を一番見ている部隊なんじゃないかな、なんてボンヤリ考えている間に、今日の合同訓練の内容が発表される。

「皆は、土曜のB級ランク戦は観戦しただろうか。君たちは今、一対一のランク戦が主だろう。そこで今日は、B級ランク戦のような四つ巴の戦闘訓練を行う!」

 ざわ、と発表された訓練内容に湧き立つ訓練生。普段からランク戦でよく見かける顔はわくわくしているようだし、逆に合同訓練でしか見ない人はどこか不安そうだ。

「ルールは簡単だ。自分以外は全て敵。倒したらポイントが手に入る。ただ、負けてもポイントは獲られないから安心してくれ」

 あ、不安そうだった人がほっとしたのが見える。まぁ、ポイントが獲られないっていうのは大きいだろう。ランク戦は獲って獲られてだけど、合同訓練では基本的にポイントが減ることはないし。それは今回の疑似ランク戦でも同じようだ。

「一人につき三回戦ってもらうぞ。では各自、ブースに入ってくれ!」

 言われるがままに訓練生がブースへと散っていく。ここで四つ巴のランク戦なんてできるのか。そういえば空閑くんもB級とC級でランク戦できると言っていたし、案外融通が利くんだな、この訓練室。
 ブースに入ればしばらくして、マッチング中、とアナウンスが響く。今ブースに入っている訓練生からランダムに四人選ぶのだろう。
 さて、と私は深呼吸一つ。ポイントが獲られないのならそれほど気負うこともない。だとしたら今日は、できれば射手とマッチングしてほしいな、なんて。この前友人にもらったアドバイスを実践に活かしてみたいし。と、私は祈るような気持ちで転送を待った。



 ――で、確かに。マッチング相手は射手なんだけど。

「なんで、よりにもよって最後にアイツなんだ……!」

 順調に倒していった最終三回戦目。私が隠れた壁の裏まで抉るような弾道で撃ってくるバイパーを必死に避ける。
 相手はそう、残念なことに甲田だ。意外とやるな、だかなんだか褒められているらしい言葉が聞こえてくるのがまた嫌味ったらしい。
 正直、甲田はなんだかんだ強い。特に弾道が他の訓練生より的確だ。どうやって設定するのかは知らないが、常にこちらの予想とは違った弾道でバイパーが襲ってくるから性質が悪い。

「っ、ぶな」

 どうにか生き延びているのは、これまでのランク戦で培った反射神経の賜物だ。さらに地形踏破訓練をある程度楽にこなせるようになったくらいには機動力もついた。これらが無かったらたぶん、普通にあのバイパーに撃ち抜かれていたはずだ。

「……さて」

 猛攻が止む。もしかしてこれが再装填の隙だったのだろうか。だとしたら惜しいことをした。けれどその隙に、私は足を止めることなく対策を練る。
 いずれにせよ、既にお互いが他のメンバーを一人ずつ倒してあるので、残りは私とあいつだけ。しかしなかなか勝負がつかないままここまで来てしまっている。
 私の方は既に何度か弾に掠ってしまっているものの、とりあえず動くことに支障はない。一方であいつはほぼ無傷だ。現状はこちらが劣勢。なにより私は未だあいつを間合いの内に捉えられていないのだから。

「どうしようかな……」

 友人が言う再装填の隙を狙うにしても、結局あのバイパーから逃げ惑っている内にこっちも引かざるを得なくなっている。そうなるとジリ貧だ。じわじわと削られていずれは負けてしまうかもしれない。
 ――じゃあ、空閑くんならどうするだろうか。
 考えても、サクっと距離を詰めて一閃する姿しか思い浮かばないんだよな。その、どうやって距離を詰めるかがわからないというのに。

「そこにいるのはわかってるんだぞ!」

 甲田の勝利宣言が聞こえてしまった。マズイ。私はともかく遮蔽物の多そうな方へ向かっていき、反射で避けながら、遮蔽物でしのぎながら逃げていく。
 その尻目に、私がさっきまで忍んでいたところは完全に撃ち抜かれているのを確認。いやはや毎度のことながら、潜伏場所から逃げそうなルートまで的確に狙っているのには参ってしまう。
 ……じゃあ、あの弾道っていつ決まるんだろう。

「しぶといヤツだな。なかなか、逃げ足も速い」

 甲田はそう言いながらじわり、じわりと隠れた私を探しつつ寄ってくる。
 弾丸系トリガーは主に四種類。どのトリガーを使った訓練生とも対戦したことがあるはず。アステロイドは特別な仕掛けもないまっすぐな弾。メテオラは真っ直ぐ飛んで、着弾した直後に爆発。ハウンドは逃げた時の弾道を見るに、誘導……ホーミング弾って感じだった。
 だとしたらバイパーは恐らく、弾道を自由に決められる弾丸だろう。少なくともそうでなければ、甲田が撃ってくる弾道の理由に説明がつかない。じゃあその弾道ってどの時点で決定するのか。普通に考えたら、放つ直前。つまり、一度決めた弾道は撃ち始めてからは変わらない。
 幸か不幸か、甲田は他の訓練生に比べて綺麗な弾道を引く。そしてその理由の一つには、ある程度あいつの中で弾道をあらかじめパターン化しているのだと思うのだ。現に、なんだかたまに必殺技名みたいなの叫んでるし。
 ――だとしたら。

「……じゃあ、ここで決着をつけようか」

 わざと甲田に姿を見せる。どうにも、こいつはカッコつけというかそういう性格のようだ。だとしたら、こうすることで甲田の手は大体予想がつく。

「いいだろう。その勝負、受けて立つ」

 ふわん、と浮かんだキューブがパキリと割れる。チャンスは一度。私は相手が放つ前に真っ直ぐに駆け寄る。

「輝く鳥――ヴィゾフニル――!」

 甲田は、どうにもこの技には自信があるらしい。決められそうだ、という時にはかなりの高確率でこの弾を撃ってくる。
 私が向かってくるから、甲田は後ろに飛びのく。そうして私の脇目掛けて撃つ。外した、と思わせて――くるりと軌道を反転させて、相手の背後を狙う弾。
 だから私は弧月を構えて、切ると見せかけて横へ飛びのく。

「……へ?」

 私が避けたことで、当然甲田が放ったバイパーはそのまま、自分目掛けて戻ってくるのだ。半ばパニックになったのだろう。慌てて避ける甲田にはもはや、私が見えていない。

「……昔の、お返し!」

 胴体を一閃。真っ二つに裂けた甲田のトリオン体は、しばらくしてバシュンと飛んでいった。

『――試合終了。ブースに戻ります』

 事実上の勝利宣言だ。私はようやく、初めてボーダーに入隊した時からの密かな因縁相手、甲田を下すことができたのだった。
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