月曜、火曜と順調にランク戦に通い、ポイントは現在二千二百越え。一度甲田に勝てたこともあるし、ポイントが下の訓練生にはほとんど負けることもなくなってきた。上がり調子といったところだ。
だからと、水曜日の今日はB級ランク戦観戦へと時間を充てる。合同訓練がなかったので、私一人で。今日も今日とて、空閑くんの雄姿を応援しに。
『二日目、夜の部がまもなく始まります!』
実況担当は今日も武富さんらしい。しかも、解説席の二人はどっちも知っている顔だ。
一人はアズマ――東さん。一級戦功を取っていたとのことだが、私としては大規模侵攻の時の印象が強い。南部での住民救助を指揮していた時に多くの隊員から東さん、と慕われていたようだったけど、B級部隊の隊長だったのか。
もう一人は緑川くん。武富さんが話題にしている通り、C級の時の空閑くんとランク戦をしていたA級隊員だ。「次は勝つよ!」と宣言しているが、また空閑くんとランク戦をするならぜひとも記録を拝みたいもの。
『玉狛第二のお相手は――』
なんだか、この前に比べると会場がやけに賑やかだ。結構な席が埋まっているし、武富さんが言うには非番のA級隊員の人も見に来ているらしいし。まぁ、私はまだ、誰が誰だかわからないんだけど。
『……さぁ! ステージが決定されました!』
今日は試合開始前の解説が長い。本来ならこのくらい、事前に説明があるのだろうか。
とは言え勉強になるなぁ、としみじみ東さんの話を聞く。狙撃手有利、な地形があるのか。C級ランク戦では狙撃手と戦ったことがないし、どんなものかイマイチ想像ができない。
『転送完了!』
武富さんの声と同時に、大きなディスプレイには各隊員の姿が――って。
『各隊員は――』
武富さんは平然と実況を続けているけど、ねぇ、その各隊員について言及はないの?
だって空閑くんの恰好が変わってる。青い隊服は端々に黒いラインが入っていて、肩には何やらオレンジ色のエンブレム。腕にも黒いラインが入っていて、手の甲まで伸びた長い袖の先には黒い手袋をはめている。下は太もも部分がふっくらして、膝でぎゅうっと絞られた独特のシルエットを持つ黒いズボン。
えっ、なにこれ凄い似合ってる。かっこいい!
『転送直後は一番無防備な時間帯ですからね』
東さんの解説も入って我に返る。気付けば転送が終わり、各隊員動きがあったようだ。
呆けている間に諏訪隊と荒船隊が戦り合い、その間に登ってくる玉狛第二――空閑くん。グラスホッパーというらしいまさかの新技を引っ提げての登場に歓声を上げそうになったけど、堪えた私を誰かに褒めてほしいくらいだ。
そこからはひたすらに空閑くんの雄姿に集中し続け、気づくと試合は決着していた。最後、東さんの総評を聞き終え解散となると、会場はざわめき出す。
「おー、木虎ちゃんおっす」
興奮冷めやらぬまま、仕方なく帰ろうと席を立った頃だ。前方から聞こえた誰かの声に、思わず足を止めてしまった。木虎、ということはもしかして嵐山隊も来ていたのかな。
見上げればホールの最上部付近に、見慣れた赤い隊服の三人組。……嵐山隊って四人とオペレーターさんじゃないのかな。私が見る嵐山隊はいつも三人ばかりのような。
「オレ、これから遊真先輩のとこ行くから、そんじゃね〜!」
さらに聞き覚えのある名前を呼ぶその人。嵐山隊の人たちに手を振って去っていく姿をよく見れば、さっきまで解説していた緑川くんだ。なんだか楽しそうに、足取り軽く消えてしまったけど。
このまま階段を登っていくと、嵐山隊の人たちの傍を通ることになる。嵐山隊の人たちもそろそろ帰るようで席を立っていて、会場から出る人の流れに乗ろうとしている様子。なので私は反射的に足を止めて、前にいた時枝先輩に道を譲る。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
時枝先輩は後ろの嵐山さんを振り返り、自分の後に続くように促している。時枝さんが私の前に出て、続く嵐山さんもまた、私を見て「ありがとう」と言いながら階段へと出る。
その後に続く木虎さんと、瞬間、目が合った。
「……あなたは……」
木虎さんは確かに私を見ていて、ドキリと嫌な汗をかく。何かあっただろうか。ともかく、黙っているのも居心地が悪いので、「お疲れ様です」と言いながら頭を下げる。
「なんだ、仲良くなったのか?」
「……少し憶えがあるだけです」
ツンとした木虎さんの言葉に、さらにまたドキリ。
木虎さんと言えば、入隊したての頃に会話をしたことがある。合同訓練の時から空閑くんのファンだった私がしていたことは、カンニング――不正行為だったのではないか、と。
木虎さんには馬鹿なことを言うなと言わんばかりに窘められたのだけど、これ、もしかして。合同訓練では飽き足らずB級ランク戦にまでストーカーしに来たのではと思われてないかな。
「あ、あの!」
「なにかしら?」
「今日はちゃんと、できる先輩たちを参考にするために来ました!」
木虎さんは眉をひくりと動かして、けれど合点がいったようにそう、とだけ答える。
「まぁ、頑張りなさい」
「はい! ありがとうございます!」
木虎さんも私とのやり取りを覚えてくれていたのだろうか。激励の言葉をもらったので、お礼を言って再び頭を下げる。
木虎さんは私の前を颯爽と通り過ぎ、嵐山さん達と共にホールから出ていってしまった。そこでようやく緊張の糸が切れて、ほっと息をつく。
「……ちょっと、嘘だったかも」
確かに参考にはしていた。弧月を使う先輩たちの戦いは見ていた。けれど正直今回も、空閑くんの動きばかり目で追ってました、なんて。
なんとなく罪悪感を覚えた私は、けれど、とりあえずは帰ることにする。早めに帰らないと、家族が心配するだろうし。
なので、決意を新たに。明日ランク戦をする前には今日のランク戦の記録をちゃんと見返しておこう。木虎さんに言ったように、少しでも何かを参考にするために。