部隊、戦略、今後の目標
 二月十九日水曜日。今日の玉狛は夜の部にて、柿崎隊と香取隊と戦う。  

『さぁ、転送完了!』

 実況はおなじみ武富さん。そして解説席には出水先輩と、訓練生にとってはお馴染み嵐山隊の時枝先輩だ。
 開始早々に香取隊のエース、香取先輩が空閑くんに仕掛けていくわけだが……これがまた、かっこいい。空閑くんとあんなにバチバチ戦り合えるなんて、正直羨ましいくらいだ。香取さんはどうやら空閑くんと同じグラスホッパーとスコーピオンを使うようで、剣戟の激しさにただただ見惚れるしかない。
 ――けれど、そこで終わらないのが空閑くんで。

『思った以上に、空閑とスパイダーの組み合わせがいいな』

 スパイダー、というのがあのワイヤーの名前らしい。というか、ワイヤーを出すのがスパイダーというトリガーなのだろうか。それは空閑くんではなくて、三雲隊長、つまりは射手が設置していると。
 そうして整えられた舞台で、空閑くんは縦横無尽に宙を舞って敵を狩りにいく。その圧倒的な機動力に、空閑くんの多彩なスコーピオン攻撃も合わさって……感嘆の息が漏れるばかりだ。
 それに一旦は引いた両部隊だけれど、砲撃に追い立てられるように動き始める。

『おっと!? ここで照屋隊員が単身突破!?』

 私が空閑くんに集中している間にも、戦いは進んでいく。照屋先輩が、真っ直ぐに狙撃手へと寄っていくのだ。
 空閑くんが、香取隊と戦ってる三雲隊長に合流するまでの間、私は照屋先輩の動きを見ていた。照屋先輩はグラスホッパーを使っていない。けれどしっかりと雨取さんの狙撃を避けながら距離を詰めていく。
 雨取さんの撃つ様子を見るに、銃手や射手と違って狙撃は連射できるものではないのだろう。とはいえ、しっかりと照屋先輩を追う雨取さんの狙撃を、確実に交わしていく照屋さんの動きは熟練されている。

『照屋隊員が出た!』

 狙撃手の前に向かって行く照屋先輩。雨取さんの鉛弾狙撃を凌いで間合いを詰める。

『鉛弾の追尾弾!?』

 雨取さんは狙撃手だけど、追尾弾の撃ち方は射手そのものだ。障害物がない今、照屋先輩は避けきれずに、放たれた追尾弾に被弾してしまう。
 けれど照屋先輩はすぐに銃を手に持った。瞬時に射撃に切り替えて雨取さんを撃ち落とし、その後敵に落とされる前にと自発的にベイルアウトしていく。すごい、香取先輩といい、剣と銃をどちらも使える攻撃手、強いじゃないか。

『さぁ、残る香取隊長と玉狛第二の二人はどう決着するのか!』

 まさか、と一瞬は肝が冷えたものの、結果、玉狛第二の圧倒的勝利として決着したのだった。



 空閑くんに仕掛け、戦り合うほどの実力をもつ香取隊長。そして、柿崎隊長をサポートしつつもその身のこなしで雨取さんを追い詰めた照屋先輩。
 二人の共通点は万能攻撃手であるということ。近接武器で戦えるほどの実力があるのはもちろんだが、中距離武器も上手に使って相手と戦っていく様子はとても勉強になった。
 今は弧月のみだけど、いずれは私も万能攻撃手になりたいなぁ。そんな新たな目標を思い描いていたら、ふと眼前には嵐山隊長と木虎さん。ふ、と木虎さんと目があったので、私はまた反射で頭を下げる。

「お、お疲れ様です!」
「……お疲れ様。あなた、いつもそうなの?」
「はい?」

 木虎さんはなんだか少し引いているような気がしないでもない。いつも、とはなんだろうか。確かに木虎さんにもちょっとしたファン心理が働いていて、会うたび元気よく挨拶している気はするけども……。
 そんな私たちを見ている嵐山さん。私と木虎さんを見比べつつ、「なんだ、やっぱり仲良くなったのか?」なんて言っていて。仲良くなった、と言い切っていいのかわからなかったので、そのままを説明しようと口を開く。

「えっとですね、この前――」
「ま、待ちなさい! 嵐山先輩、すみませんが報告書をまとめる前に時間をいただけますか?」
「あぁ、構わないぞ。じゃあ俺は先に隊室に戻っているからな」

 けれど、チョコを買いに行った時に会った話をしようとしたら、思いっきり木虎さんに遮られてしまった。挙句そのまま嵐山隊長を見送ったと思えば、引っ張られるようにして廊下の隅に連れていかれてしまう。

「あなた、変なこと言わないでちょうだい」
「は、はい?」
「私は別に、……チョコ、なんて、買わなかったんだから」

 いつも凛々しい木虎さんが、少しだけ目を泳がせつつもそう私に訴える。私と会ったことというより、会った場所の方があまり知られたくなかったようだ。
 結局あの後チョコを買ったのかどうか、応援している人にチョコを渡したかどうかも定かではない。けど、たぶんそこが一番突かれたくないところなのだろう。私は素直に「わかりました」と頷く。
 すると木虎さんは訝しげに私を見たあとで、コホンと一つ咳払い。

「……そういえば、あなたはどうだったの?」
「え?」
「チョコ、買っていたでしょう。ちゃんと渡せたの?」
「はい! ちょうど一昨日、偶然会ったのでランク戦頑張ってって渡しました!」
「…………そう、よかったわね」

 少しだけ、呆れたような。けれどわずかに口角が上がっていて、まるでなんだか微笑ましいと見守られているような感じのようだった。母親……は、違うか。先輩だもんな。
 ――と、瞬間木虎さんも先輩なんだと閃いて。

「あ、あの!」
「なに?」
「私、今のポイント三千七百ちょっとなんです。それでB級になったら空閑くんがランク戦してくれるって約束したんですけど、その時にはトリガーセットちゃんとしておけ、って言われて」
「そうね。B級になったら使えるトリガーも増えるし」
「はい。けど空閑くんは玉狛でやってるからやり方知らない、って言ってて……私がB級になったら、トリガーセット教えてもらえませんか?」

 伺えば、木虎さんは「私?」と不審そうにしている。どうして自分に頼むのか、と言わんばかりの表情だ。

「空閑くんに、先輩に聞けばいいって言われて……私、先輩って言ったら木虎さんくらいしか思い浮かばなくて。嵐山隊はただでさえ忙しいのに申し訳ないんですが、お願いできませんか……?」

 正直、現状コネがないに等しい私にとって頼れる先輩といえば木虎さんくらいなのは事実。我ながら高嶺の花を狙ってしまったと思っているので、内心ビクビクしながら返答を待つと――木虎さんはふぅ、と息をつく。

「……いいわ。教えてあげる」
「い、いいんですか!?」
「後輩に指導するのも、先輩の仕事ですから」

 まさかオーケーが出るとは思わなかった。しかも思いの外、木虎さんの表情には困った、とか渋々、といった雰囲気がない。むしろよくぞ申し出た、と言わんばかりだ。

「連絡先を教えるわ。B級になったら連絡しなさい」

 そう言って木虎さんは「携帯は?」と私に訊ねる。当然、荷物は全てロッカーに預けていたところだったのでそのまま伝えると、それなら行くわよ、と木虎さんが先頭を歩きはじめて。どこへ行くのかと思えば、なんと、木虎さんはロッカールームにまで来てくれた。

「ほら、携帯」
「は、はい!」

 慌ててながらもロッカーから携帯を取り出せば、木虎さんは貸して、と手の平を差し出す。素直に渡せば木虎さんは手際よく操作して、はい、と返された画面にはアドレス帳の登録ページ。

「すみません、わざわざここまで……」
「言っておくけど、扱いはきちんとしなさい。あと、B級になったらまず本部の窓口で正隊員用のトリガーと隊員専用端末をもらってきなさい。いいわね?」
「はい!」

 元気に挨拶すれば、木虎さんが――笑ってくれて。

「それじゃあ、私はこれで」
「……はい、ありがとうございました!」

 一瞬見惚れてしまったけど、隊室に戻るのだろう木虎さんに慌てて挨拶。そのまま去っていく背中を見送りつつ、私はもう一度自分の携帯を見つめる。
 なんだか不思議な気分だ。木虎さんは嵐山隊所属の有名人なのに、そんな人の連絡先を持っているなんて。扱いはきちんと、というのも有名人だからこその心配なのだろう。それを教えてくれるあたり、面倒見がいいのだろうか。

「……とりあえず、そうと決まれば」

 もう心配事もない。あとはとっととB級になるだけだ。
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