結局それから、奥寺先輩と小荒井先輩にしっかりと訓練してもらった。なんだかんだともう少しが続いて、色々と戦い方のアドバイスまでもらったくらいだ。
そうして最後に、二人の先輩たちはこう助言してくれた。
「訓練も大事だけど……正隊員になったんだし、実戦も増やしていったらいいんじゃないか?」
「そーそー、グラスホッパーだったら実戦の移動で使うのも訓練になるだろうし」
――と、言うことで。
「お、キミが金子さんか?」
「は、はい!」
「オレが米屋。それからこっちが奈良坂だ。今日はよろしくな」
申し込んだのは防衛任務の夜間シフト。いや、普通に防衛任務に出ようと思ったんだけど、直近だと夜間しか空いてなかったんだよね……。まぁ、いつ空閑くんからお誘いがあるかわからないし、少しでも多く経験を積んでおかないと。
今日一緒になるのはこの二人らしい。よろしくお願いします、と頭を下げれば奈良坂先輩も静かによろしく、と応えてくれる。
「後はもう一人……お、きたきた」
「おつかれさま……あれ、今日は金子も一緒か」
「え、空閑くん!?」
まさかの、空閑くんと遭遇。今日はつまり、この四人での防衛任務らしい。私の姿を見た空閑くんは、「B級になってたのか」なんて言って驚いている。が、まさか空閑くんと一緒なんて思っていなかった私も驚きだ。
「空閑くんは、玉狛第二で防衛任務するんじゃないの?」
「そっちもやるけど、それ以外にも防衛任務に入ったりするよ」
「混成部隊ってヤツだな。まぁオレらは同じ部隊だけど」
オレら、と言う米屋先輩を見上げると、隣の奈良坂先輩が「俺たちは三輪隊なんだ」と補足してくれる。なるほど、道理で同じような隊服を着ているはずだ。しかも、三輪隊もA級グループというから、やっぱり強い人たちなのだろう。
そこに空閑くんが加わったメンバーだからこそ私が配属されたのだろうか。そういえば東隊長も、上がりたてのB級隊員は他の隊員との兼ね合いでシフトが組まれるとか言っていたし。
考えていると、ふいに通信を受信する。
『本日のオペレーターを担当する、本部の水瀬です。みなさんよろしくお願いします』
「うむ、おねがいします」
「よろしく〜」
「よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします!」
空閑くん、米屋先輩、奈良坂先輩に続いて本部のオペレーターさんにも挨拶。本部にもオペレーターがいるんだ、なんて零すと奈良坂さんがまた補足してくれて。
「オペレーターは本部で訓練してから、各部隊に所属するんだ。ちょうど戦闘員が訓練生からはじまってB級隊員になるのと同じようにな」
「な、なるほど……ありがとうございます、奈良坂先輩」
クールな雰囲気だけど、私の疑問に気づいてくれて、答えてくれるなんて優しい人だ。ちょっと感動していると、そのまま転送準備始めます、とオペレーターの通信が入る。
いざ、防衛任務に出陣だ。今度も頑張ろうと、私は気合を入れ直した。
*
「金子さん、いいぞ〜。今度はあっちな」
「は、はい!」
米屋先輩に指示されるまま、私は目の前の近界民に向かっていくばかり。
何やら担当地区に二か所、ほぼ同時にゲートが開いたらしい。しかも、それぞれから数体ずつ近界民が出現したとのオペレーターさんの報告。年長者である奈良坂先輩と米屋先輩の相談の元、指示が下される。
簡単な話、二手に分かれようとのことだ。奈良坂先輩が射撃でそれぞれを援護するから、単独で向かう空閑くんと、私とそのサポートの米屋先輩という組み合わせで各地点へと移動。
「そいつ、刃が硬いから注意な〜。回りこんで仕留めるぞ」
「了解です!」
カニみたいな、虫みたいな……カマキリみたいに刃を振りかざす近界民を相手にしつつ、刃を受け流して逃げ回り、翻弄したところで米屋先輩が仕留めてくれる。
「いいじゃん? ほら、次だ次!」
「りょ、了解〜!」
米屋先輩は楽しそうに次の近界民へと目標を定めて向かっていく。ついていくのに精一杯だけど、それでいて米屋先輩はさりげなく近界民の気を引いて私を逃がしてくれたり、仕留めやすくしてくれたりもする。やっぱり強い人は、それだけ周りが見えているんだろうな。
「さーて、水瀬さん。他に反応は?」
『お二人の付近にはありません。空閑隊員の方もじき終わります』
「了解。じゃあ金子さん、合流する方向で移動するぞ」
「了解です」
どうにか一区切りついたところで移動。わりと、米屋先輩もスパルタだったな。先輩たちって皆こんな感じなのか。
とは言えこれについて行けるようにならないとなぁ。そう考えながら移動していると、ところで、と米屋先輩から声をかけられる。
「おチビが夜の防衛任務に入るのはよくあることだけど、金子さんはなんで夜間に申し込んだんだ?」
「部隊組んでないと訓練する機会がなくて……防衛任務のシフト夜しか空いてなかったので、とりあえず」
「偉いな〜。学校は大丈夫なのか?」
「あ、もう受験は終わってるので、大丈夫です」
「へぇ? どこ行くんだ?」
「六頴館です」
聞かれるがままに答えていたら、最後の答えを聞いた米屋先輩が「奈良坂とおんなじか〜」と呟く。なんと、ここでも六頴館の先輩に出会ってしまうとは。綾辻先輩に引き続いて二人目だ。
「聞いてたか〜奈良坂。金子さん春から六頴館だってよ」
『そうか。よろしくな』
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
と、和気あいあいとした会話ができたのもつかの間、すぐに通信が入る。そうしてゲートが開いてはその場に急行し、近界民を倒してちょっと雑談すればまたすぐにゲート発生。この前の東隊と一緒の防衛任務が易しく感じるほど忙しい。
米屋先輩いわく、日によるけど夜間は比較的ゲートの発生数が多いらしい。普通の人が寝ているだろう時間こそ、隙があると狙ってのことなのか。しかも前回は初めてだからと普通の半分程度の時間で交代になったのに、今回はフルで八時間。……正直、思った以上にしんどい。
どうにかこうにか、黙々と防衛任務をこなし続ける。気づけば朝日が昇っていて、もうすぐ任務終了時刻だ。前回とは日にならないほど近界民も多かったし、疲れた。私はため息をつきつつ終了の通達を待つ。
『任務終了時刻です。みなさん、お疲れ様でした』
「おう、水瀬さんもお疲れ様」
米屋先輩の明るい挨拶に、私もへとへとになりながらどうにか後に続く。それを見かねた奈良坂先輩に大丈夫か? と心配されるものの、大丈夫です、と答えるのがやっとだ。
「慣れてないのにいきなり夜じゃ大変だよなぁ。そうだ、おチビ暇なんだろ? ちょっと送ってってやれば?」
「うん? いいよ」
――と、米屋先輩から爆弾発言。しかも空閑くんもあっさりと引き受けてしまって、私は慌てて首を横に振る。
「え、あ、いや、大丈夫です……」
「無理しない方がいい。慣れるまではみんなそんなものだから、心配するな」
奈良坂先輩にも優しく諭されてしまって、私は渋々と頷くことに。いや、本当に疲れただけで申し訳ないんだけど……っていうか米屋先輩も奈良坂先輩もピンピンしてるのはどういうことなんだろう……。
と、これまた奈良坂先輩は私の疑問を察したように口を開く。
「訓練とは違って、防衛任務では実際にトリオンを使っている。普通に身体を動かしているのとは違っても、疲れを感じるのは当然のことだ。回数を重ねていけば鍛えられるから、それまでの辛抱だな」
「……金子、了解です……」
木虎さんに“トリオン”について教わったことを思い出す。そういえば、そういう見えない内臓を持っているけれど、トリガーを使わないかぎりそのエネルギーは使われないものなんだっけ。今の私はいきなりそのトリオンを消費して、生成するようになったばかりなのでぐったりしてしまうのもしょうがないということか。
ということで、米屋先輩と奈良坂先輩と別れ、空閑くんと帰り道を歩くことに。
「空閑くんは大丈夫なの? 疲れてない?」
「おれは平気だよ。慣れてるしな」
ピンピンしているあたり、さすが空閑くんは大物だ。さすがは私より一月近く先にB級になった先輩だけある。いやまぁ、一応同期というくくりではあるはずなんだけど。
「しかし、金子もトリガーセットしたんだな。じゃあこれで、いつでも個人ランク戦ができるようになったわけだ」
「そうだよ……! だから、次会えた時は……」
「ふむ、というかそれなら、金子も端末もらったんじゃないのか?」
「え? あ、うん。もらった」
――あれ、もしかしてこの流れって。
「連絡先教えてくれ。暇な時あったら連絡する」
「……ほ、ほんと!?」
「おう。最近はかげうら先輩とかむらかみ先輩とも戦ってるから、あんまり時間ないかもだが」
「だ、大丈夫! 待ってる! 都合つけるから、連絡ちょうだい!!」
若干食い気味にお願いしてしまったが、空閑くんは特に引いた様子もない。平然と「わかった」と頷いてくれて、端末を取り出して。よかった、これで偶然に頼ることなく、空閑くんとランク戦できるかもしれないわけだ。
今日の防衛任務は出来高以上の収穫があって、疲れも吹き飛んだ。無事に家についてからも、私は何度も端末を見ては表示された“空閑遊真”の文字ににやけながら、枕に顔をうずめるのだった。