曲がる弾、爆発する弾、射程持ち
「ふっ……これこそが俺の真の実力だ」
『C級ランク戦、終了。勝者、甲田』

 敗北のアナウンスをブース内のベッドで聞き、私は耐え切れず悪態をつく。

「なんなのあいつら……! さっきからあいつらと当たる確率高くない!?」

 苛々しつつもベッドから起き上がり、端末を眺める。甲田、とか言ったっけ。な〜にが真の実力だっていうんだ。二千ポイント以上持ってるくせに、入隊したての私から点獲っていくとか性格悪くない!?

「あ〜もう、あいつら絶対いつかギャフンと言わせてやる!!」

 実際にブースに入ってみてわかったことは、他の訓練生から指名された場合は試合を断ることができないということだ。でなければ、あの甲田とかいう奴に三回もコテンパンにされる前に試合拒否してる。あ〜もう、拒否したかった。
 さらには、どうやら予約みたいなシステムがあるらしい。だから、甲田に当たったと思えば「今度は俺の番だぜ」ってどうにも仲間っぽい腹立たしい三人組の顔を連続で見る羽目になるんだろう。とにかく、腹立つ!

『対戦ステージ「市街地B」、C級ランク戦、開始』
「あ、沙智じゃん」

 次に転送された先、向かい合った相手はなんと友人で。

「えっ? 待って、今指名したの千二百点くらいだったはずなんだけど……」
「なんで千ポイント切ってるの? ボロ負け?」
「う、うるさい! 仲間ぐるみで散々負かされたんだもん!」

 同じようにスタートを切ったはずの友人といつの間にかものすごい差がついてしまっている。うわ、なにこれ悔しい。そうでなくてもさっき散々に負かされたばっかりなんだ。なんか泣きそう。
 なんて、試合が始まっている以上そんなわけにもいかない。

「もう、射程持ちなんて大っ嫌いなんだから!」
「あはは、手加減ナシだよ」
「当然!」

 私は弧月を握りしめて地面を蹴る。もう、とにかく、挑戦あるのみだ。
 と半ば自暴自棄に特攻したら、あっという間に戦闘不能。ベイルアウトしてベッドの上に戻されて、起き上がる気力も湧いてこない。

「も〜、なんなのさ……」
『いやこっちがなんなのって感じだよ。射線上に突入してくるとか無謀すぎでしょ』
「……え、なに? ここでもなんか話せるの?」

 驚いていると、変わらず響いてくる友人の声。どうやらランク戦を申し込むこの端末を通して通話できるらしい。まぁもちろん、相手のブース番号がわかっていないとダメみたいだけどね。
 端末越しに友人から操作方法を教わりつつ一息つくと、友人が続けて『今日はもう帰ろうよ』と提案する。

「……なんか後味悪いんだけど」
『やめときなって。投げやりになってポイントなくなったら、困るのは沙智だよ?』

 友人に諭されて、私は不服ながらも渋々頷く。そうと決まれば、私たちはロッカールームに戻って荷物をまとめ――財布を見てジュース代のことを思い出したので友人にきっちりと支払い――本部を後にするだけだ。

「射程持ちずるくない? 近づく前に撃たれたらどうしようもないじゃん」
「沙智が真っ直ぐ突っ込むのが悪い」
「だって曲がる弾……バイパーだっけ? 撃ってくる人もいるんだけど」

 言いながら、実際にバイパーを撃たれた試合を思い出してついイラついてしまう。なにを隠そうあの甲田含む三人組の奴らだ。正確にはその内の二人が射手。弾って真っ直ぐ飛ぶものだと思ってた私としては衝撃だった。し、近寄ったところを思いもよらないところから撃たれて負けてしまった。悔しい。
 いっぽうで友人も思うところがあるようで、私も、と声が上がる。

「レイガストってトリガー使ってる人には歯が立たなかったんだよね」
「……なんだっけそれ。当たってないかも」
「よくわからないけど、盾みたいな感じで防がれた」

 へぇ、と相槌。盾使えるなんてずるいな、とボンヤリ考えていると友人が話を続ける。

「だから、自分が選んだ以外のトリガーも勉強した方がいいのかもね」
「確かに……。どんな性能かわからないと、どう対策していいのかわからない」
「でしょ? ま、その辺はお互い協力していこうよ」

 なんだか友人にうまく誘導されたような気がする。けど、その提案は確かにいい対策だと思ったし、だからだろうか頭も冴えてきた。
 その日は早々に友人と別れて帰路につく。明日は最低一勝する、と気合新たに。



 そうして翌日、意気揚々と訪れたランク戦ロビー。友人と別れ各々ブースに入ろうとした私だったけど、ふいに訓練生の話し声が聞こえてきて。

「昨日のランク戦、凄かったよな」
「緑川に勝ったのってあれだろ、ウワサの白い悪魔」

 思わず足を止めた。確信があったわけじゃないけど、白い悪魔、という呼び方になんとなく白黒少年を思い出したのだ。私はちょっとだけ申し訳ないと思いつつ、電子掲示板を見るフリしながらこっそり聞き耳を立てる。

「戦闘訓練で一秒切りしたヤツだよな、たしか」
「そうそう、訓練生軒並み歯が立たないってよ」
「そりゃA級に勝つくらいだもんな、やべーよ」
「クガだっけ? 名前、憶えておかないとな」

 私も、憶えた。と同時に私は何事もなかった風を装って近くのブースに入る。

「……あの少年、クガくんって言うのか」

 やっぱり少年は有名人らしい。そりゃそうだ、私だって戦闘訓練で度肝を抜かれたし、その後の合同訓練だって少年はいつも好成績だったはず。っていうか、全部一位とかじゃなかったっけ?
 段々気になってきた。確か時枝先輩、他の訓練生の記録も見られるって言ってたような。ってことはクガくんの記録も見られるのかな。……いや、さすがにそこまでしたらストーカーっぽい? でも、木虎さんもできる人間に倣えって言ってたしなぁ。

『ランク戦の申し込みを受理しました。転送開始まであと十秒――』
「げっ、いつの間に」

 ブースに入ってぼうっとしてる内に、どうやら誰かに試合を申し込まれたらしい。当然拒否権はないので、私は気持ちを切り替えて深呼吸。
 少しの間をおいて転送された先は、どこかの工場、といった雰囲気の舞台だった。

「お願いします」
「お願いします」

 見知らぬ訓練生と互いに礼。試合開始の合図と共に、私は弧月を握って地を蹴った。――駆けたはいいものの、よく考えたら相手のトリガーがなにか見てなかったな。
手には剣も、銃も持ってない。となると昨日の甲田みたいな、銃を持たない射程持ちかも。引き付けていきなり弾丸、とか来たらいやだなぁと思ったので、いつでも引ける心持ちで弧月を構える。

「メテオラ!」

 相手の号令、射程持ちっぽい。私は駆け寄る足を踏ん張り、瞬時に飛びのいた。
 弾丸が宙に浮かんですぐ、地面に落ちた――瞬間、爆発が起きる。土煙が巻き起こり、私はそれに紛れて一度距離をとることに。なにこれ、爆発する弾丸とかあるの。ってことは下手に近づくと爆風でやられるな、これ。

「いけ! メテオラ!」

 土煙が晴れる前に相手の声が聞こえた。まさか、と思ったけど間違いなく弾丸が撃ち込まれている。それも、私が身を潜めていた路地付近を一掃するように。
 私は巻き込まれないように慌てて後ろに引き、そのまま走り続ける。隠れてても普通にバレちゃうのか。建物が崩れる音が響いていただろうに、足音もない中どうして居場所がわかったんだろう。
 と、考えてレーダーの存在を思い出した。私は足を止めずにレーダーを起動。中央が自分のハズで、近くの点は……なるほど、およそ同じ場所で点滅し続けている。ということは、向こうもほぼ同じように追いかけてきているのだろう。おそらくレーダーを頼りに。

「……つまり」

 脳裏に過ぎったのは、探知追跡訓練での一幕。
 私は裏路地を回るようにしてさっきの爆発地点の近くまで戻る。そうして付近に手ごろな建物がないか――目標発見。ちょっと古ぼけたアパートだけど、ベランダがあるなら問題ない。
 レーダー上は距離を詰めてきた私に驚いたんだろう。相手の動きが若干惑っている間に、私は壁キックに再チャレンジ。ちょっと失敗しそうになったけど、咄嗟に手すりを掴めたのでそのままよじ登れば、どうにか三階のベランダには潜り込めた。

「……勢いで来たけど、下りれるかな、これ」

 まぁ、何事も挑戦。レーダーを見つめて待てば、点がほぼ中央に重なる。
 ベランダの隙間から窺うと、相手も不思議そうに周りを見回している。レーダー上は自分と私がほぼ重なっているのに、付近には誰も見当たらないからだろう。どこを撃つべきか迷っていると見える。
 だから。相手の背中が見えた隙に、私は隠れていたベランダから飛び降りた。
 はっ、と相手が気づいて空を見上げた頃にはもう、頭上に私が迫っている。相手がメテオラと言い切る前に、私の弧月が相手を切り裂いて。

『C級ランク戦、終了。勝者、金子』
「……や、った!」

 確かな手応えがあった。対近界民の戦闘訓練と同じ、確かに弧月が相手を切ったとわかる感触が。

「よっし、この調子でガンガンいこう!」

 昨日は負けっぱなしだけど、今日は幸先いいスタートが切れた。千点切ってしまったポイントをどうにか稼ぎ直すべく、私は意気揚々と次のランク戦を申し込んだ。



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