ストーカー? いえ反省会
 残念なことに、現実は厳しい。最初の一戦は好調子だったものの、結局勝ったり負けたりを繰り返したりでそう気持ちよくは終われなかった。まぁとりあえず、千二百点にまではポイントを戻したので良しとしよう。
 あまり続けると気が滅入ってきそうで、私は友人に通信を入れてみた。応答があったので休憩を提案し、そのまま――ランク戦の記録が見られる端末室へ。お互いの試合を参考にしようと考えたのだ。

「なるほど……すごいね沙智」
「最初の一戦は我ながら上出来だったと思う!」
「でも、影で丸わかりじゃん。どうせなら裏から回り込みなよ」
「……壁キックして戻る、みたいな?」
「ん〜、まぁ、そんな感じ?」

 一番頑張ったと自負している試合でも、向上の余地はあるもので。友人の意見に頷きつつ、参考にするためにはもっと動けるようにならないとなぁ、なんて考える。

「やっぱ壁とか使って移動できるように練習したいな……」
「まぁ壁じゃなくても、せっかく身軽な身体なんだから移動には慣れたいよね」

 本当に、と同意する。やっぱり理想はあのクガ少年だ。身軽に壁を蹴ってひらりと屋上に舞い上がってみせるなんて凄すぎる。
 ――と、脱線した。私は私で友人の記録を探して見てみることに。

「……うっわ、えげつな」
「なによ。射撃戦は障害物を利用しないと」
「それもお兄さんの入れ知恵?」
「まぁね」

 友人は得意げにしてるけど、えげつないのはそこじゃないんだけどな……。
 確かに、友人の基本戦法は建物とか物陰に隠れつつ銃で敵を狙うもの。それ自体は特筆するようなものでもない。さらに友人のトリガーはアステロイドらしいけど、見ている限りは曲がったり爆発したりしない、普通の弾丸って雰囲気。
 問題なのは、追いながら撃つその命中率。走った後、瞬間的に照準を合わせるのが早い。それでいて相手が避けるのをきちんと追って当てていく。

「動く相手にこんなに当たるもの……?」
「動く分だけ銃口ずらせばいいだけの話でしょ」
「……簡単に言うけどさ〜……」

 これまでの訓練生で銃を持っていた場合、比較的その場に構えつつ撃つ人の方が多かった。そもそもが射程のある武器なのだ。わざわざ動かなくても弾が届けばそれでいいだろう。それに狙って撃とうと思えば自然と人は足を止める。訓練生によっては大きめの銃を装備している場合もあるし、止まって打つのはある意味で自然だと思う。
 いっぽう、友人の装備は比較的小型の銃ではある。とは言え、走りながら、追いながら撃つってそんなに簡単にできるのだろうか。少なくとも私はできる気がしない。

「まぁ兄ちゃんに散々言われたんだよ。立ち止まったらやられるから、とにかく走れ。そんで動きながら撃てるようになれって。昨日からずっと練習して、今日やっと形になってきた感じ」

 言われて、改めて友人の記録を遡ってみる。確かに昨日の時点では、移動しながら撃った弾痕は波打っている。つまり、ランク戦を繰り返す内にある程度命中率を維持できるようになった、ってことか。

「いいなぁ〜、アドバイスもらえる人がいて」
「沙智ももらえばいいじゃん」
「誰に?」
「少年に」

 にんまりとした笑顔を向けられたので、ちょっとだけ困ってしまう。けど、正直友人を端末室に誘ったのは、まぁ、そういう理由もあるので。

「……あのさ」
「なに?」
「…………白黒少年の記録見ていい?」

 素直に伺えば、友人は面食らった顔で「ほんとに?」と答える。なにが、と聞いたけどなんでもないとのことなので、私はサクサクとデータベースを検索する。

「これ? なんて読むの?」
「苗字はクガ、って聞いた」
「……いよいよストーカーになったわけ?」
「違う! ほかの訓練生がウワサしてるの聞こえただけ!」

 失礼な言葉は聞かなかったことにしよう。私が一番気になっているのは、さっきのウワサで聞いた、ミドリカワという人との記録だ。並んだC級ランク戦の文字列の中にひとつだけ、ランク外対戦の文字が見つかったのでそれを選ぶ。クガ――空閑VS緑川の十本勝負。

「ランク外、ってどういうこと?」
「相手の緑川って人、A級なんだって」
「は!? 精鋭部隊のメンバーってこと!?」

 友人もようやく純粋に興味を持ってくれたらしい。始まった映像を二人で覗き込み、息をのむ。
 一本目、二本目は緑川――くん、でいいのかな――が取った。とは言えまずこの時点で凄い。二人とも動きが段違いなのだ。一言でいうと速い。正直映像でも目が追いつかないから対戦したらまったく相手が見えないかもしれない。
 で、三本目。空閑くんの反撃が怖い。まるで緑川くんの剣を見切ったように最小限の動きでかわして、身体の中央を一突き。あんな確実に急所を狙えるものなのだろうか。

「空閑少年、すごいね。A級から一本取るの」
「……たぶん、すごいのはこれからだよ」

 それからの残り七本は圧倒的だった。二本緑川くんが先取したのが嘘のように、空閑くんがあっさりと緑川くんを下していくのだ。見ている観客としてはなにが起こっているのか、目まぐるしくて頭が追いつかないほど。
 結局あっという間に決着。八対二で空閑くんの勝利となり、記録の再生は終了した。

「……はぁ」
「あの少年、本当に特別だったんだね」

 そうだね、と思ったものの言葉にならなかった。感嘆のため息が漏れるばかりで、なんとも呆けてしまう。

「沙智、少年と同じトリガーにすればいいのに」
「え? この、スコーピオン?」
「そうしたら少年を参考にできるじゃん」
「いや、凄すぎてまだまだ参考にできないよ……」

 なにか得るものがあれば、なんて期待した気持ちも少なからずあった。けれど現実得られたものと言えば、圧倒的な力の差に途方に暮れる心ばかりだ。

「……私、B級になれるのかな……」
「ほらほら、昨日の意気込みはどうしたの」
「だって、こんな人がうじゃうじゃいるんでしょ……? 運動部の熾烈なレギュラー争いって感じじゃん」
「それは違うんじゃない?」

 呆れた様子の友人は、きっぱりと私の弱音を遮る。いわく、運動部のレギュラー争いというものは枠があるからだと。枠に入れる人数には限りがあるから互いに蹴落とし合わざるを得ないのだと。

「でもここは違うじゃん。ポイント取れればB級の席は作ってくれるんだよ」
「……結局、訓練生同士の点の獲り合いじゃん」
「それ、気づいたんだけど、移動するポイントも決まってるわけじゃないんだよ?」

 え? と間抜けな声を上げてしまったが、さらに友人いわく。どうやらランク戦では対戦相手とのポイント差が重要らしい。強い相手に勝つといっぱい点が獲れるけど、同程度以下の相手ではほとんどポイントが獲れない。逆に弱い相手に負けるといっぱい点が獲られて、格上に負けても大きくはポイントが獲られないのだとか。

「……ってことは、弱い内はそんなにポイント獲られないんだ」
「しかも、合同訓練でもポイントもらえるわけじゃん。なくなるってことはなさそうだし、あとは訓練あるのみじゃない?」

 アドバイスを終えた友人は、さて、と言って端末に向き直る。友人は友人で、他にアステロイドを使用している訓練生を探して記録を見るつもりらしい。私もいつまでも呆けているわけにもいかないし、自分の端末に向き直る。
 あんな風に――空閑くんみたいに――戦えたらなぁ。
 ボーダーに入隊して早数日。私の中にはしっかりと、話したこともない空閑くんへの憧れの気持ちが根付きつつあった。



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