正式にボーダー隊員となれる入隊日まであと二週間くらい。一言で表すと暇である。
遊真くんは小南先輩との模擬戦を通してトリガーのあれこれを学んでいるようだ。そのあとには、観戦していたレプリカと一緒に反省会。それを時間の許す限りやっているのだから、遊真くんとしては楽しい毎日だろう。
……けれど。もう一度言わせてもらいたい。私は暇である。
(……今度は私のやることがなくなったよ〜……)
カルワリアにいた頃は、右も左もわからなかった私を拾って面倒みてくれた皆に愛嬌を振る舞うのが仕事だった。有吾さんが亡くなってからは特に、ちょっとでも遊真くんを慰められればと傍にいた。
けれど、それ以降は行き当たりばったりだ。日本に行くというから連れていってもらって、着いたらはぐれたから迅さんに拾ってもらって。それからは遊真くんの指示もあり、玉狛でなにとはなく過ごす毎日。
三門市に来た遊真くんは無事に目的を見つけた。修くん達と一緒に遠征部隊に選ばれるべく、バチバチ楽しく戦っていく。これからもっともっと強くなっていく。
――なら、私はどうしよう? 私のしたいこと、なにかあるだろうか?
『……では、リア。はじめるぞ』
……少なくとも今は、レプリカに遊んでもらうことだと気持ちを切り替える。
今日のレプリカは一味違う。なぜなら、豆粒レプリカに括り付けられた紐の先には可愛らしいネズミのぬいぐるみがくっついているからだ。迅さんが買ってきてくれた猫用のおもちゃとレプリカの合体型である。
『これまでの私はリアを甘く見ていたようだ。本気でいかせてもらう』
(望むところです!!)
なぜレプリカが本気を出したのかは謎。大方、この前犬から全力疾走した私に野生の可能性を垣間見たとかそんなところだと予想している。
『ゆくぞ』
(はい!!)
遊真くんたちみたいに訓練しているのだ、という気持ちで臨む猫じゃらし遊び。名目は遊びだけど、レプリカはこれまでにない速さでねずみを操り、私を引っかけて弄ぼうとしている。
しかし私だって、今まで散々レプリカに遊んでもらってきたのだ。なんとなくのクセみたいなものは察している。左右どちらかに思い切り振ったあと、大抵は――宙に引っ張りあげる、とか。
『なんと!』
(一勝! です!!)
まぁ、そんなこんなで疑似的十本勝負は終了。勝敗は途中からどうでもよくなったので数えてないが、私としては目いっぱい遊んでもらったので満足だ。
運動を終えれば毛づくろい。そうしたらあとは日光浴という、カルワリアにいた頃とそう変わらない平和な日課。
けれど玉狛支部は賑やかなので、今日も今日とて誰かの足音がトタトタと響いてくる。
「リア! ちょっときてくれ!」
バタンと勢いよく扉を開けて入ってくる陽太郎くん。……一応、ここは遊真くんが使ってる部屋なんだけどね。まぁ今は遊真くんがいないから、怒る人もいないけど。
ともかくとして、陽太郎くんはじいっと私を見つめて待つばかり。陽太郎くんは意思疎通ができるからか、私の了承なく無理に連れていくということは滅多にしないのだ。
(いいよ、どこへ?)
「しただ! しおりちゃんがまってるぞ!」
おや、栞ちゃんがいるとなると今は休憩中なのかな? 私は陽太郎くんの後ろをついて歩き、予想どおりというか、食堂へとやってきた。
机の上にはおやつがのっていて、遊真くん、修くん、千佳ちゃんがそれぞれ休憩中。師匠としては小南先輩だけのようで、あとは機器操作担当の栞ちゃん。五人が今の特訓メンバーらしい。
「お、来たね……それじゃあさっそく」
さて、栞ちゃんはどうして私を呼んだのか。不思議に思っていると、食堂にやってきた私をひょいと抱えあげ、そのまま――実はソファーの傍にいたらしい――雷神丸の背中へ下ろした。
「……これぞ、異種動物間のふれあい! いいねぇ〜癒しだねぇ〜」
……まさかそれだけのために呼ばれたの……?
「栞ちゃん、それ雷神丸嫌がってないか?」
「ゆうま、あんしんしろ。らいじんまるはふところのふかいやつだからな」
背中にいる私には雷神丸の表情は伺えないんだけど、どういう状況だろうか。普段は陽太郎くんが乗ってるくらいだから、重くて嫌、とかはないと思うんだけど。でも、いつもと違うなにかが乗るって、やっぱ抵抗があったりするのだろうか。
雷神丸は微動だにしない。私はどうにか落ち着く場所を探そうと、爪を立てないよう気をつけつつ足場の確認。座るのにちょうどいい場所を探して、どうにか腰を落ち着ける。
「うさみ、今みかんってあったっけ?」
「うん? たしか戸棚にまだ残ってたんじゃないかな」
ふいに小南先輩がそんなことを尋ねたと思えば、とたとたと移動。どうやら残っていたらしいみかんを手に戻ってきて、今度は――
「リア、動いちゃだめよ」
……みなさんほんと、猫に対して無茶をおっしゃる……。とはいえ私はじぃっとして、小南先輩が私の背中にみかんをのせられるよう身体を固めた。
土台には大きな雷神丸。その背中に私。さらにその背中にはみかん。
「かわい〜〜! 鏡餅みたい〜〜!!」
「今年の正月飾りはこれで決まりね!」
栞ちゃんと小南先輩のテンションは急上昇し、いよいよ二人はスマホを取り出した。様々なアングルからパシャパシャと写真を撮られている。しかも栞ちゃんが「陽介にも送ってあげよ〜」とかいってるのが聞こえた。そんなに映えてましたか……。
ちなみに、遊真くんは鏡餅を知らないのか我関せずといった様子でおやつを食べている。修くんはなにか言いたげにしつつ同じようにおやつを食べ、千佳ちゃんだけがちょっとだけ「かわいい」と言ってくれている。
それを聞き逃さなかった栞ちゃんは、にこにこ笑顔で千佳ちゃんへと声をかける。
「かわいく撮れたよ〜千佳ちゃんにも送っておくね!」
「リア、本当にいい子ね。もう下りてもいいからね」
小南先輩がようやく、私の背中からみかんをどかしてくれた。ほっと一息。雷神丸にも悪いしでさっさと下りれば、雷神丸は特になんの反応も見せないままぼうっとしていて。
(重くなかったですか……?)
にゃぁん、と問いかけても反応しない雷神丸。けれど陽太郎くんが、私の代わりに答えてくれて。
「だいじょうぶだぞ、リアはすごくかるいからな」
「リアってば、そんなこと心配するの!?」
「かわいい〜〜! 女の子だねぇ!」
一番に反応した小南先輩といい、さっきからにこにこ笑顔のままの栞ちゃんといい、玉狛支部は今日も平和です。そう、怖いくらいに。