本部に着いて迅さんと一緒に開発局へと足を運ぶ。昨日今日と体調を崩していたから念の為計測をと迅さんが進言すれば、鬼怒田さんは私をすぐに計測用のベッドへと押し込んでしまった。
「じゃあおれはもう行くから。お大事にな」
しー、と唇に人差し指を当てるその仕草は黙ってろよという念押しだろうか。そういって迅さんはまたふらりとどこかへ行ってしまう。鬼怒田さんはいそいそと計測を始めるがふむ、と満足気な声。
「安定してますか?」
「そうだな、随分と低水準になってきている」
一昨日の夜と、ついさっき。あの感覚が本当に空閑君にトリオンを供給したのだということを、鬼怒田さんの計測結果が裏付けているようにも感じる。
いつもより短い時間で問題ないと計測機器は外されて、また何かあったら来いと見送られてしまった。と思ったら開発局の扉から半身だけ出して呼び止められる。
「そうだ、水沢」
「はい」
「昨日の防衛任務の件、忍田本部長が探しとったぞ」
ほんの数秒の間。ざぁああっと血が下がる感覚がする。
「……えぇ、と」
「早く行け。無断欠勤なんぞだらしないぞ」
それだけ言うとばたんとドアが閉められた。ちょっとまって私防衛任務入ってたっけ……? とにもかくにも慌てて本部長を探しに駆けだした。
「忍田本部長!!」
「おや、水沢。具合はもういいのか」
丁度定例会の準備の為に会議室にいるという情報を聞きつけて、全力で会議室へと駆け込めば何時もどおりの忍田本部長がそこにいた。一歩部屋に入ってから全身全霊で腰を折る。
「昨日はすみませんでした! れ、連絡もせずに……!」
「……大丈夫だ。顔をあげなさい」
私の勢いに少し引いたように控えめに声をかけられる。おずおずと顔をあげればはぁ、と呆れた表情と溜息。
「任務直前に迅から水沢が体調不良だと聞いた」
「は」
「他にも急遽シフトが変わってな、その分は三輪隊が引き受けてくれたよ」
なんと、あのお見舞いはそこまで視えてのものだったのか。あの時何も言わなかったのは私を休ませる為だったのか? さらに三輪隊が代わりに担当してくれたとは……。
「水沢が無断欠勤なんて余程体調が悪かったのだろう。無論手当ては出ないがそこまで謝らなくていい」
ただ、次からはきちんと連絡を入れるように、との温かい言葉に、ありがとうございます、ともう一度深く腰を折る。これは穴を埋めてくれた三輪隊の人たちにお礼を言わなければ。
「すみません、早速三輪隊にお礼言ってきます」
「それがいいだろう。無理はするなよ」
重ねてありがとうございます、とお礼を告げてから部屋を後にする。手土産の一つでもあった方がいいだろうか。いやそれはまた今度にして取り急ぎ謝罪だけ済ませよう。
今度はパタパタと三輪隊隊室への道をひた走る。早々にたどり着いたそこにノックを三回。どうぞ、と了承の声を受けて静かにそこを開いた。
「あら、貴女は確か陽介くんの……」
「クラスメイトの水沢です」
一番に顔を合わせた月見さんに自己紹介を済ませ、隊員達の所在を尋ねれば皆訓練やらランク戦やら諸々だとのこと。それならばまずは月見さんに謝罪を済ませる。
「先日は防衛任務を代わって頂きありがとうございました。私の無断欠勤が原因でして、申し訳ありませんでした」
「あら、いいのよ」
本来任務の無かった夜に急遽防衛任務を引き受けてくれた三輪隊。今度改めてきちんとお礼に伺いますと告げれば、そんなに気にしないで、と月見さんが優しく声をかけてくれる。
「体調不良なのだから仕方ないわ」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。陽介くんが心配してたの。ランク戦ロビーにいると思うから行ってあげて?」
それに頷いて、もう一度ありがとうございましたを告げて部屋を出る。今度はランク戦ロビーか、とひょこひょこ早歩きで向かう。……さすがに病み上がりだからか少し疲れてきた。
さておきランク戦ロビーに到着すると予想通りブースにいるらしい米屋君、相手は誰かと眺めていれば珍しく緑川君だった。丁度十本目が決まった所で二人はこれまた珍しくブースから出てくる。延々と戦い続けることも多い二人だからこれは好機と慌てて駆け寄った。
「米屋君!」
「あれ、水沢? 体調大丈夫なのか?」
ひらひらと手を振る米屋君にも同じように腰を折れば、丁度ブースから出てきた緑川君が何事? と怪訝そうな声をあげる。
「昨日の防衛任務ごめんなさい」
「しょうがないだろ、具合悪かったんだし」
「……すっかり忘れて連絡もしなかったから」
無断欠勤? いけないんだーと緑川君に茶化されるけど、正直何も言い返せなくて唸るしかない。米屋君はこらこらと緑川君の頭をわしゃりとかき混ぜる。
「気にすんなって、大丈夫だから」
そういって笑顔を返してくれる米屋君に少しだけ安堵の息を漏らす。緑川君にはB級ソロは苦労が多いねぇと皮肉られたけども。相変わらず緑川君は辛辣だなぁと内心ダメージを受けるけど、今は私に非があるから緑川君相手でも強く出れない。
「用事はそれだけか? 早く帰って休んだ方がいんじゃね?」
「でもまだ三輪君と古寺君と奈良坂君に会えてないし……」
「そんなん今度でいいだろ。無理して体調悪化したらそっちのがやべーじゃん」
だから帰るぞ、と米屋君に突然右腕をつかまれた。緑川はそっちと米屋君の指示を受けて左腕を掴んだ緑川君と、二人に挟まれてずるずると本部玄関へと連れて行かれる。
「……何この連行の図……」
「肩で息してんじゃん。走ってきたのモロバレ」
「え? 体調不良じゃないの? バカなの?」
「……緑川君今日本当辛辣じゃない……?」
ほっとくと秀次達を探しに走り回るだろ? と言われて言葉に詰まれば、とりあえずはちゃんと帰って休めと再度念を押される。わかりましたと渋々頷く頃には玄関へと辿りついていて、そのまま外へと押し出されてしまった。
「早く身体治せよ」
「ばいばーい」
仕方なくおやすみ、と一度手を振ってから帰り道へ踏み出す。明日はまず手土産を用意してもう一度三輪隊の隊室にお邪魔しよう。予定を立てながら、私はまた少しだるくなってきた身体を引きずり帰った。