「改めまして、先日はありがとうございました!」
頭を下げてここに来るまでに用意した手土産を三輪君に差し出す。最初は怪訝そうにしていた三輪君だったけど米屋君のフォローのお陰で、何故自分が謝罪されているのかにようやく合点がいったらしい。
「……俺達は上からの指示に従っただけだ」
「原因は私の無断欠勤なので……ごめんなさい」
「次からは気をつけろ」
そういって三輪君は差し出していた土産を受け取ってくれた。脇から何事かと様子を伺っていた奈良坂君は無表情でそれを眺め、古寺君に至ったはほっとした様子で息を吐いている。
「気にしなくていい、って言ったのに」
「それは私の良心が痛みます……」
優しい月見さんの声もして、三輪隊は勢ぞろいだ。さすがにA級チームの存在感すごいな……。一応米屋君に相談に乗ってもらって無難そうな和菓子にした。奈良坂君の好きなチョコ味もあるしお茶請けにいいかと思ったのだ。情報提供者の米屋君にも今度何か奢らないといけないなぁ。
「……なんか、イメージと違いますね」
奈良坂君はまじまじと私を値踏みするように見ていて、落とされた言葉が理解できずについ首を傾げてしまう。古寺君が背後で慌てるのも気にせず奈良坂君はマイペースに話し始めた。
「万年B級とか不真面目とか上層部とコネがあるとか」
「……はい?」
「何だそれ、水沢の話か?」
「他にもありますよ、聞きますか?」
奈良坂君はそう言って指折り数えていく。
止めを刺さずに返り討ちを誘う手の抜いた戦い方(それ本気で止めさせなかっただけだよ)。間一髪で攻撃を避け続ける反射神経と隙を突く実力(迅さんにスパルタされてからの話かな)。B級昇格後は部隊に入らずランク戦もしない(A級昇格が目標じゃないからね)。開発局に入り浸り鬼怒田さんに取り入ってるとかなんとか(トリガーの計測と点検が理由なんだけどな)。
「変人だと思っていたんですが、常識はあるんですね」
「水沢すげー言われようだな。おもしれーけど」
米屋君はへらへらと笑っているし、古寺君に至ってはあわあわとしている。まぁ確かに目の前で変人かと尋ねられてそうですねとは頷けないし、かといって常識があるのかと問われたらなんと返すべきか悩んでしまう。三輪君は一通り聞いた後に怪訝そうな顔でこちらを睨んだ。
「……なんの為にボーダーに入ったんだ」
まぁですよね。疑問に思うよねそれだけ聞くと。隊員は皆強くなりたくて日々研鑽を重ねてる。その結果が今目の前にいるA級チームだったりするんだ。そういう彼らから見たら努力もしないでここに居る私は、さぞ不可解だし疎ましくもあるんだろうな。
「……それは。秘密です」
きっと何を言っても彼らには届かない。私は改めてすみませんでした、と頭を下げて踝を返す。米屋君のまたなーと言う明るい声を背中に受けて私は三輪隊隊室をあとにした。
やっぱり、中途半端なんだなぁとは自分でも思う。ブラックトリガーを使わないなりに強くなるのならまだしも、心のどこかでそう望むことを拒んでいる。
強いものは必ず何かを惹きつける。それは羨望だったり嫌悪であったり嫉妬だったり様々だ。輝くほど闇は濃くなり、それを背負う覚悟が必要になるんだろう。だから城戸司令は私の今の選択を許したのだと思う。戦士に必要なのは戦う意志で、守る覚悟だろうから。
だけど大規模侵攻のその日が着々と近づいている今、きっと迅さんは私にその意志と覚悟を持たせるべく動いている。太刀川隊相手にブラックトリガーを用いた模擬戦闘をさせたのも、クラスメイトにその存在を示唆したのも、栞に根回ししてあったのだってきっとそういうことだ。
多分迅さんはそうやって、私に大丈夫だよって伝えたいんだろう。力を持つことは怖いことじゃないって教えてくれようとしている。
――だけど。
「あれ、水沢。謝罪行脚は終わったのか?」
ひらりと手をかざして私を呼びとめたのは出水君だった。背後には太刀川さんの姿も見えるから防衛任務帰りだろうか。
「うん、三輪隊に行った帰り」
「おっし腹黒。ランク戦するか」
「……遠慮しておきます」
わくわくとした顔の太刀川さんの提案を即刻却下する。えぇ、と不満気な表情で返されるが、出水君がそれをなだめてくれて、目立つとヤバイんですよ多分、とフォローを入れてくれる。
「だったら隊室内の訓練でもいいぞ」
「ご希望のトリガーは城戸司令の許可が必要なんです」
はっきりと何とは口に出来ないがこれで意図は通じるだろう。案の定太刀川さんはげ、と言わんばかりに表情を歪めて、面倒くせーなと小さく呟いてから私に悪態をついた。
「勝ち逃げは卑怯だぞ腹黒チビ」
あ、とうとう悪口が一個増えた。腹黒は納得いかないけどチビに至っては強く否定も出来ない。どうしようかと悩んでいたら太刀川さんの背後からちょっと、と待ったの声がかかる。
「あんま和音苛めないでやってよ」
「迅? なんだお前が相手してくれんのか」
「忙しいから今はだめー」
ぼんち揚げくう? とひとつふたつを出水君に押し付けると、二人を通り過ぎて傍にきたと思ったらぽふぽふと私の頭を撫でる。
「太刀川さんと違ってこの子は平和主義なんだから。あんま無理に誘わないでやって」
迅さんはそう言って私を庇う。驚いて迅さんを見上げればな? と優しい笑顔で返されて、ありがとうございます、と一度お礼を告げる。
「何だ、やけにそいつの肩持つじゃないか」
「おれは全ての女の子の味方だからね」
そのまま迅さんと太刀川さんがやいやいと言い合いを始めて、その隙にと出水君がこっそりと私に声をかける。
「もう体調は大丈夫なんだよな?」
「うん、ありがとう」
一応確認されたそれに笑顔を返せばそっか、と笑顔で応えてくれる。ウチの隊長が悪いななんて謝罪を受けながら世間話をしていると、迅さんがお、とまばたきして小さく声をあげた。
「今日の夕飯は小南のカレーだな」
「玉狛の話か」
「おっし和音、飯に行くぞー」
そんじゃ、と早々に話題を切り上げた迅さんに引っ張られるようにして、出水君に軽く手をふってからその場を後にした。