久々限定師弟関係
 年が明けて新年の浮ついた空気が落ち着いてきた本日一月八日。冬休みが明けて学校が始まった初日にも関わらず、どうしてシフトを組まれてもいない防衛任務の手伝いをしているのだ私。

「あのー」
「ぼーっとしてると危ないぞー?」
「いやそうでなくてですね」

 しかし警告には従って辺りに気をやればバムスターが背後から現れる。斜線上だまずい、と気付いた次の瞬間には砲撃を放つそれをギリギリでかわして、その隙にバイパーを核へと打ちこんだ。

「今日は数が多いなー」
「迅さんに釣られたんじゃないですか?」

 不本意ながら手助けしてしまったことを悔しく思うが、どちらにしろ一段落するまで迅さんは何も話すつもりはないらしい。

「今頃二人は入隊の説明を受けてるだろうなー」
「迅さんは様子見に行かなくて良かったんですか?」
「京介が行くって言ってたし大丈夫だろ」

 お互いに他愛ない会話を挟みながらも着々とトリオン兵を狩っていく。悔しいけど次々と鮮やかにトリオン兵を斬り伏していく迅さんの姿は、正直凄いと思うし憧れる部分もある。悔しいけど。

「何? おれのかっこよさに見惚れちゃった?」
「今日機嫌いいですね。何かいいことありました?」

 つれないなーと返す言葉は不満気でも声色が明るい。こう見えて迅さんも空閑君と千佳ちゃんの入隊に浮かれてるのだろうか。それならそれでいいが、目下問題なのは繰り返すが、何故私をここへ呼んだかだ。

「お前ちょっと腕なまってるんじゃないのかー?」
「だって年末年始はお休みでしたし」
「身のこなしは基本中の基本だぞ」

 もしかして、私の鍛えなおしが目的なんだろうか。城戸司令の指示を受けて年末年始は防衛任務もゼロだった。さらに言えば奴らも現れることがなく、休みばかりの冬休みだったのだ。

「城戸さんの許可もとったし、暫くはおれと防衛任務だなー」
「……え、それ本当ですか」
「おう。だから久々に鍛えなおしてやるよ」

 最後の一体を迅さんが斬り伏せてズン、と巨体が地面へと倒れこんだ。そうして今度はスコーピオンを構えて私を見据える。ゴーグル越しの瞳は静かに燃えていて私に拒否権はなさそうだ。

「私、今スコーピオンセットしてないですよ?」
「それでいいんだよ」

 え、と問う前に迅さんが地面を蹴った。反射的にその場から飛び跳ねればしゅるりと刃が私がいた地を裂く。あっという間に間合いを詰められて反射的にバイパーを放てば、迅さんは少し距離を空けたものの、弾は全て切りすてられた。

「射手は攻撃手との直接対決は不利だよな」
「少なくとも私は苦手です」
「でも小柄なお前とその反射神経なら避けるまではどうにかなりそうだ」

 迅さんはそういってスコーピオンを両手に構える。つまり不利な相手からどうにか逃げ切れということなのだろうか。それがいくつかある未来の中で優先すべきだと迅さんが判断したということ?

「そんじゃ、おれと遊ぼうか、和音」

 にっこりと笑った迅さんは再び地面を蹴る。その最中光る楽しそうに細められた青い瞳。私は懐かしさを覚えながらも構え、それを迎え撃った。



「……迅さん、疲れません?」
「そうだなー」

 気付けば街全体が夕日色に染まっている中、私達は未だ戦っていた。最初の内は久々の迅さんの動きについていけなくて何度も切られていたけど、段々と感覚を思い出してきてからは互いに一歩も譲らないやりとりが続いている。私のバイパーは全て読まれて切り捨てられるし、迅さんのスコーピオンは避けるか若しくは集中砲火で壊していく。
 迅さんはバックステップで積み上げられたトリオン兵の山の上へと降り立つと、今日は終わりにするかーとのんびりした声をあげて座り込んでしまった。私も号令を受けてトリオンキューブをしまうと、近くへと駆け寄る。

「ええと、ありがとうございました」
「続きはまた次の任務の時な」

 ふぃーと息を吐いた迅さんはあと、とそれに言葉を付け足す。

「来週には大規模侵攻対策会議があるんだ」
「あぁ、例のですか」
「うん。お前も呼ぶから本部に居ろよ」

 はい? と聞き返せば城戸さんにも進言してあるからと迅さんは言う。いよいよ差し迫っているらしいその日に向けての対策会議は当然として、何故自分がそこに参加しなければならないのかが甚だ疑問だ。

「直感って、根拠もない本能だけのものじゃないんだ」
「……私の話ですか?」
「無意識の内に脳内で情報を統合して状況を判断している」

 とん、と迅さんの指先が自らの頭を指す。と思ったらその指はそのまますいと私を示した。

「今度の為にお前にも、情報は持っててもらいたいんだ」
「……それは私が役に立つと見越してるんですか?」
「だと思うよ」

 よろしくな、と迅さんが言うから一度は頷く。もし本当に私が役立つ未来が見えているとしたらそれは恐らく、奴らがまた、来るということなんだろう。
 そんな事をぼんやり考える私の背後で迅さんの端末が鳴り響く。私を気にせずそれを手に取った迅さんの話題は入隊説明会のことのようで、あいつら目立ったろう、と自慢気に話す迅さんは楽しそうだ。

 私は、来るその日に一体何が出来るんだろうか。そんなことを考えながらぼんやりと沈んでいく夕陽を眺めた。



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サヨナラの引力

 

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