「遅い! 何をモタモタやっとる!」
足を踏みいれた途端に飛ばされた鬼怒田さんの怒声。既にかなりのメンバーが一同に会しているこの会議室内。ぱちりと栞と視線があって互いに手を振り合えば、三輪君が城戸司令、と声をあげる。
「水沢も会議に?」
「そうだ」
三輪君は眉間に皺を寄せながらもそれに言及をする様子はない。隣のA級風間隊を率いる風間さんもまた怪訝そうな表情をしているが、私はその視線に応えないよう真っ直ぐに城戸司令を見つめる。早く始めてもらおうか、とその鶴の一声で会議が動き始めた。
その後、忍田本部長と鬼怒田さんから空閑君を会議に呼んだ理由が告げられ、姿を見せたレプリカと城戸司令とのやりとりが合った後会議は進められる。レプリカが提示した惑星国家の起動配置図を見ながら情報が与えられ、忍田本部長の指揮によって粛々と対策会議が行われた。
一通りの情報提供をうけ、各自確認や情報共有を行った後、今後の方針も確認したうえで会議は滞り無く終了した。私は殆ど発言することはなくただ交わされる会話や情報に耳を傾けるだけだった。ぞろぞろと人が解散し始め、私も帰ろうかとしたら鬼怒田さんに呼びとめられる。
「おい水沢。行くぞ」
「え、私ですか」
「いいから来い」
言葉少なに行くとだけ用件を告げるときは大抵計測が目的だ。そういえば年末年始奴らが出なかったから鬼怒田さんの所にいくのも久々の筈。拒否するわけにもいかないし、私は鬼怒田さんの後を追って技術開発局へと向かう。
「長く顔を出していなかったな」
「年末年始は平和でした」
「そんなことはわかっとる! 早く計測するぞ!」
わかってると言い切るあたり、鬼怒田さんの信頼が透けて見えてなんだか照れくさい。大人しく計測機器の傍にあるベッドに横たわれば手早く装置がつけられた。
ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。
いつも通りの計測音が何故か耳障りでぼんやりとそれを聞いていると、鬼怒田さんは一度私の顔を見て水沢? と不思議そうに尋ねる。
「どうした、何かあったか」
「いいえ、今日この音煩くないですか?」
「心電図の音か? 特に設定は弄っておらんが……」
ふむ、と一度唸って鬼怒田さんは機械を確認したあと我慢しろ、といって作業に戻った。私もどうして今日に限って、と少しだけ考えてまたどきりとする。トリガーに守られて、今も淡々と動き続ける私の心臓の音。それをこうして電子音の形とはいえ確認すると、生きているのだと自然に思う。生きている、音は、今がある音だ。
――引っかかった理由を察して、考えるのを止める。
意識を他の事へ散らそうと辺りを見回しても特に何もなくて、仕方なく動き回っている鬼怒田さんを眺めていると徐に向こうから声をかけられた。
「今日の会議はどうだった」
「どう、と言われましても……」
「迅が進言したんだ、何らかの成果はあるだろう」
ぴぴ、と複数の電子音を背景に鬼怒田さんは黙々と作業を進める。ぴーと計測開始の合図が鳴った後は聞きなれた定期的なリズムになり、それを聞きながら今日の会議の内容を自分の中で反芻する。
「直感ってなんなんでしょうね?」
「論理的ではないが、虫の知らせのような本能的なものだという説があるな」
鬼怒田さんは呟くように私の問いに答えながらも、バインダーの上の書類にさらさらとペンを走らせる。その表情は何時もとかわりなく、計測値も問題ないだろうと察する。そんな私の表情をちらりと見てから鬼怒田さんが口を開いた。
「……計測結果を予測してみろ」
「前回の結果と大して変わらないんじゃないですか?」
そう思ったままを告げればぴくりと眉が動く。じとりと私を見るので違いましたか? と尋ねれば悔しそうに当たりだ、と返ってくる。そんな鬼怒田さんがおかしくて、つい笑みがこぼれてしまった。
「これは勘じゃなくて、見てればわかるってだけです」
「大人をからかうんじゃない」
全然からかってるつもりはないんだけどなぁ、と思うが口にはしない。鬼怒田さんはペンをもう一滑り走らせてから計測終了だと書類を置いた。またあっという間に装置は外されて私は自由の身になる。
「もういい、会議もご苦労だった」
「はい。お疲れ様でした」
開放されて私は追い出されるように開発局を後にする。もう特にやる事もないし長時間の会議は少し疲れた。今日は真っ直ぐ家に帰ろうかと本部のロビーへ向かうと、出入り口傍のソファーに見慣れた白髪の少年が座っている。
「……空閑君?」
「お、迅さんの言うとおりだ」
迅さん? とここには居ない人物の名前をオウム返しすると、和音ちゃんの用事はすぐ終わるって聞いたから待ってたんだ。と言う。聞くとレイジさんが迎えにきてくれて、栞と支部長と陽太郎、三雲君は一緒に帰ったらしい。迅さんは用事があるとかでどこかに消えて、空閑君は私を待つ為に帰らなかったとのこと。
「用事?」
「うん、まぁとりあえず帰ろうよ」
行こう、と言うが早いか空閑君は自然な動作で私の手を握る。突然の出来事に戸惑いが浮かぶがそんな私を気にすること無くその手を引いて、連れられるがままに私は空閑君との帰り道へ足を踏み出した。