防衛任務の交代時刻。前任の隊と落ち合って引継ぎを行う。隣に立つ迅さんは笑顔で隊員と挨拶を交わしていて、そのフレンドリーさに感心しながらも遠巻きに傍観していた。
済んだらいよいよ、迅さんと二人で担当地区へと足を踏み入れる。
「和音、調子悪いのか?」
「はい? 普通だと思いますけど」
突然伺うような視線を向けられて困惑していると、そうか、と迅さんは早めに話題を切り上げた。私も追及せず背中を追えば、視えていたのだろう、目前でゲートが開く。一閃煌いたスコーピオンをどうにか視界に捉えるけど、次の瞬間にはすぱりと体が真っ二つに分かれてトリオン兵が崩れ落ちた。
――あぁ、やっぱり綺麗だ。
「和音!!」
叫ばれて、意識をどこかにやっていた自分に気付いた。背後にあった気配に反射で飛びのけばモールモッドの爪が空を裂く。危なかった、と弾道を引いて誘導すればきらりと再び瞬く刃。切り捨ててもう動かないモールモッドの背中に乗った迅さんは、呆れたような視線を私に向ける。
「……なるほど? また何か考えてるな?」
「えーと?」
「お前は他に心配事があるとそっちに集中するからなー」
だろ? とほとんど確信を持ってこちらを伺う迅さん。あぁそういえば、任務と並行して稽古をつけてもらってる時。あの時も同じように集中しきれず迅さんに吹っ飛ばされたんだった。
出来ないことばかりだと一度深呼吸をすると、今日はそんなに忙しくないから大丈夫だよと迅さんが言葉を重ねる。
「どうする? 話聞いてやろうか?」
「いえ、さすがにそこまでは……」
「なんだよ、今更だろ?」
遠慮するなよ、なんて楽しそうな笑顔を向けられても困ってしまう。こんな感情を迅さんに話してしまったら、多分、私は。
「話せないってことは、遊真のことだろ」
ずぐりと気持ち悪くうねった心臓に体が震えた。誤魔化しきれなかったと迅さんの表情を伺うと、確信を持った青い瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。だけど、話すとっかかりが何も見つからず、結局私は口を噤む。
そんな私に困ったのだろうか、迅さんは少しだけ口をもたつかせる。
「……あんまりおれに出来る事もないし、口を出すつもりもないけど」
「すみません、やる事はちゃんとやります」
「いやまぁ、それはそうなんだけどさ」
とん、と軽く地を蹴った迅さんは簡単に私の隣へと降り立った。
少し躊躇ってから私の頭を優しく撫でるように叩く。
「あんまり思い詰めるなって。考えすぎなんだよお前は」
だから、と迅さんが何かを言いかけた声を、耳元で通信を告げる電子音が遮った。水沢、と私を呼ぶ声は聞きなれた鬼怒田さんのもの。こちら水沢、とすぐさまそれに応答する。
『トリガーの反応がおかしい、一度本部に帰還しろ』
「……水沢、了解」
ノイズと共に通信が切れて、同じ通信を聞いていた迅さんは曖昧に頷く。すみませんがお願いしますと後を任せると、迅さんはひらりと手を振って見送ってくれた。
本部へと向かう最中、破裂音が聞こえて思わず視線をそちらへやる。あぁこの区域は空閑君達の担当じゃ、と気付いた時にはもう遅かった。輝く一閃。スコーピオンの輝きを纏う空閑君に一瞬意識を奪われる。
綺麗だ。そう思うほどに、自分が汚いように感じる。
その強さに見惚れるほどに、自分の弱さが情けなくなる。
――好きなだけでいられれば、よかったのに。
空閑君を好きだって、その一つの感情で世界の見え方を変えてしまった。そうした色眼鏡で通した世界。私は、好きの気持ちと嫉妬の感情を一緒に育てていく。好きだと、特別を願うほどに釣り合わない自分が嫌になっていく。
私が出来ないことは、誰かがそれを補ってくれる。そうやって皆が補いあうことが、仲間であること。私にもきっと出来たことはあった。だから、風間さんにありがとうと言ってもらえた。栞にも仲間だと、そういって応援してもらえる。
なら、ならば。
――私は空閑君に何が出来るんだ?
「っ、もう!」
思考を遮ったのは破裂音と右手が痺れるような感覚。近くに門が開いていたのに気付かなかった自分がいけなかった。もう一撃を放とうと構えるトリオン兵のその核目掛けて、瞬時に弾幕を一筋突き刺すように放つ。崩れ落ちるトリオン兵を見届けてから、再び本部へと足を向けて蹴りだした。
空閑君を好きな気持ちがあれば頑張れると思っていた。だけどそれは、日に日に私を苦しめているかのようだ。
それでも好きなのをやめられないのだから厄介だと、今はそこまでで考える事を止めた。