「……うむ、さすがに人が少なくなってしまった」
画面をスライドして見ても目ぼしいポイントの奴はいない。多分ブースに入っていた人間が居なくなってるんだろう。
今日はもう止めようとブースを出て右手を確認すれば“3425”の数字。ポイントが取りにくいとはいえ明日一日あればどうにか間に合いそうだ。
「緑川……付き合う……」
「……S級……水沢……」
ふと、ブースに入らずその辺にいる訓練生の小さな声が聞こえた。拾えた四つの単語から内容を推測する。もしかして、緑川と和音ちゃんがランク戦でもしたんだろうか。ずっとランク戦ばかりだったから他の試合は見ていなかったな。勿体無いことをした。
「遊真」
次こそは、と思っているとふと聞きなれた声に呼びとめられる。訓練生達の話声も、あっという間に起こったざわめきにかき消されてしまった。
「迅さん」
「よ。ランク戦お疲れ」
相変わらず片手にぼんち揚げを持ちながら現れた迅さん。ひょいとおれの右手を覗きこんでくるからポイントを見せればおお、と声があがる。頑張っている後輩に差し入れだと言って、ぼんち揚げの袋の口をおれに向けた迅さん。そういうことならありがたく、とぼんち揚げをもらって口に放り投げる。
それを確認した迅さんが突然にんまりとした笑顔を浮かべた。
「ところで遊真。頼みがあるんだけどさ。」
「……これ、ワイロ?」
「賄賂はちょっと言いすぎだろー」
思わず疑いの眼差しを向けると、平然と迅さんもぼんち揚げを口に放り込んだ。もごもごと食べながら明日の話なんだけど、とおれの了承なく話を進める。
「明日もランク戦くるだろ?」
「うん、そのつもり」
「じゃあお前がポイント溜まって帰る時、和音連れてきてくれるか?」
和音ちゃん? と上げられた名前を聞き返せば肯定される。本部にくるのか聞けばランク戦ロビーかラウンジ辺りにいるだろうと。別にそこまでわかってるなら明日迅さんが自分で迎えに行けばいいのに。それが顔に出ていたのか迅さんは野暮用があるんだよ、と困ったように笑う。
「夕飯には間に合わせろよ」
「ふーん? わかった」
よし、と言って追加でもう一枚ぼんち揚げをもらってしまった。それもありがたく食べると迅さんは用が済んだのかさっさと行ってしまう。おれも見習って今日は帰ろうと本部を後にした。
そうして次の日。
訓練生の姿を頼りにランク戦ロビーへと進んでいるとやけに周りが浮き足立っていた。何かをひそひそと囁いていたり指を指していたりする訓練生達。この注目の先は誰だろうと周りの意識の先を探せば、見慣れた背中があった。とうとう本部で会う日がくるとは、とおれは早足で駆け寄ってその小さな背中を叩く。
「和音ちゃんとこっちで会うのは初めてだな」
「……あ、空閑君もランク戦にきたの?」
「そうだよ」
“も”ってことは和音ちゃんが向かう先も同じなんだろうか。今日は計測じゃないのかと尋ねてみれば、本当にランク戦に行くらしい。しかも相手はよーすけ先輩らしく、それで注目されているのかと納得する。
「ふむ、いいなぁ」
「空閑君はB級あがったらって話じゃなかった?」
「うん。だから今日は我慢する」
戦ってみたい気持ちも正直あったけど、時間が足りなくなるかもしれない。今はポイントが欲しいから、残念だけど今日は我慢しようと唇を尖らせる。困ったように笑う和音ちゃんと一緒に到着したランク戦ロビー。
そうしてふと昨日の迅さんからの任務を思い出したから、事前に声をかけておく。
「和音ちゃん、おれが終わるまで待っててよ」
「うん?」
「玉狛に連れてくるように言われてるから」
とりあえず、先に言っておけば和音ちゃんも待っててくれるだろう。そう思って先約を取り付けて手を振れば控えめに手が振り返された。了承の合図を確認したおれは足早にブースへと向かう。
「さて、今日は三バカ捕まるかな」
まだ人数も多いから今のうちに逃がさないよう申し込んでおかないと。おれは軽く右腕を回してからランク戦初戦を始めるべく転送装置を作動させた。