「今日も来てくれたのね、ありがとう」
そう言ってオサムのかあさんが少し表情を和らげた。病室には久々に私服姿のオサムがいて、ベッドに腰掛けて待っている。
「鍵は預けておくわね。私は退院の手続きをしてくるから」
多分車の鍵をオサムに渡してから、オサムのかあさんは病室を出た。オサムは手元のそれを見てからおれ達に行こう、と声をかける。まとめてあった荷物を担げばオサムはすまなそうにしていたけど、傷に響くからな。チカにも少しだけ手伝ってもらって一緒に車へと荷物を運ぶ。
少しして戻ってきたオサムのかあさんに玉狛へと送ってもらった。三人そろって支部へと足を踏み入れれば、待ち構えていたのはようたろうだ。
「おさむ! 退院おめでとう!」
雷神丸に跨ったようたろうの出迎えの挨拶に、照れたように笑うオサム。その声はやけに響いたようで、どこからかばたばたと栞ちゃんも現れた。おかえり、と笑う声に応えたオサムは早速案内されるままに作戦室へ向う。机の上には書類が何枚かとお茶が準備済みだ。
「さてさて、早速初めての作戦会議だね!」
そういって手を打つ栞ちゃん。改めて頭を下げるオサムに合わせてよろしくと声をかける。
「じゃあまず部隊の基本的な仕事から説明するよ」
そういって一枚の紙をオサムに渡した上で部隊の説明が始まった。防衛任務のシフトのことや部隊のユニフォームのことを簡単に聞き流す。一通り説明が終わった後で、今度はオサムが会議をまとめることになった。
「まず、明日の初戦のことだ」
「オサム、出られるのか?」
「医者には止められた」
だから、と一度言葉を切ったオサム。
恐らく最初から決めていたんだろう。その視線は真っ直ぐにおれとチカに向けられる。
「初戦、任せてもいいか」
間髪いれずに頷くおれとチカを見て、オサムはほっとしたように息をついた。それじゃあと言って差し出された紙をおれとチカで覗きこむ。
「初戦の相手は間宮隊と吉里隊になりそうだ」
どうやら資料は栞ちゃんが準備しててくれたらしい。おおよそ目を通す。まみや隊は射手のみで構成された部隊で一斉攻撃に要注意。よしざと隊は近・中距離に重点を置いたバランス型の部隊だとメモが書いてある。
「間宮隊はほとんど三人揃って行動する。こうなると不用意に近づくのは危ない」
使用トリガーはハウンド。どんなトリガーだったかと首を傾げる。すると栞ちゃんがこっそり、対象を追尾する誘導弾だよと教えてくれて頷いた。オサムはチカに、おれの援護をするようにと指示を出す。
「吉里隊も同じだ。だがこっちは空閑に任せる」
真っ直ぐに見据えられて頷きを返せば、作戦はそれだけらしい。少なくともオサムはこいつら相手なら“問題ない”と判断したんだろう。それなら隊長の指示通り、普通にやれば問題ないだろう。
最後に、何か問題が発生したら各自の判断に任せると会議がまとめられた。
よくわからないけど、当日オサムはおれ達に指示を出せる場所にいないらしい。それでもオサム自身がいなくても問題ないと判断したのだから大丈夫だろう。なら今一番に優先すべきはオサムの怪我の回復だ。
「オサム、そろそろ迎えに来るんじゃないのか?」
「あ、そうだな。千佳、お前も一緒に帰るか」
「うん。お願いします」
声をかければ帰り支度を始めたオサムとチカ。退院した荷物を置いたらまた迎えにもどってくると、さっきオサムのかあさんが言っていたからな。とりあえずは二人を見送ってから栞ちゃんに声をかける。
「なぁ栞ちゃん、相手のデータって映像ではないか?」
「うん、勿論あるよ」
「一応動きを見ておきたいんだ」
任せて、の笑顔を頼りにもう一度作戦室へと戻ってきて映像を見せてもらう。とりあえずよしざと隊はオサムの言うとおり問題なさそうだ。普通に倒せる。ただ、まみや隊の方は確かに近づくのが面倒くさそうだな。
「必ず集合するんだな」
「そうだね。そこからの“ハウンドストーム”はちょっと怖いかな」
「じゃあ栞ちゃん、ここチカに撃ってもらってくれ」
そう言ってディスプレイを指差す。
栞ちゃんは少し考えてから了解、と笑った。
「しょくん、きのうは初しょうりおめでとう!」
ようたろうは相変わらずの先輩っぷりを見せながらおれ達を激励する。ありがたいお言葉とやらを聞き流しながらドーナツを齧っていると、こんどはこなみ先輩から褒める言葉と一緒に頭をなでられた。
しかし、B級中位以上は昨日のようにはいかないとの忠告も受ける。
レイジさんの声をきっかけに作戦室へ移動してデータの見方を改めて教わった。三人でそれを眺めながら意見を出しあって相談していると栞ちゃんも合流する。どうやらおれ達は戦うステージを選ぶことも出来るらしい。
「じゃあ残り三日、ステージの選定も含めて作戦を練るぞ!」
了解と声を返して改めてデータを眺めて考える。レプリカ以外のヤツと戦術の話をするのも面白い。今はそっちに集中しようと、何かが足りない手を資料に伸ばして誤魔化した。