明けて迎えた水曜日はあっという間に夜になった。
朝は普通に学校にいって、放課後になってすぐに本部へ移動。最終打ち合わせが終わればB級ランク戦の開始はすぐだった。オサムの立てた戦術は想像以上にすわ隊とあらふね隊に通じて、終始余裕をもって迎撃対応ができた結果、無事に勝利を収めた。
その後で、試合を見に来ていたらしいミドリカワに声をかけられた。続けて今度は個人ランク戦で三十本勝負。もちろんおれの勝ち越し。そうしたらロビーで次の対戦相手の一人、むらかみ先輩に出会った。データ代わりに直接個人ランク戦を申し込んだら、六本とられて敗けた。
そんな一悶着を終えて玉狛支部に帰ってきて、ようやくむらかみ先輩の話を聞いた。
次のランク戦までは中二日しかないからどうにか対策を考えなければ。そう思って集中すべく、おれはいつも通り屋上へとやってきたのだった。
「……ふぅ」
身に染みついているレプリカの声に答えて、とりあえずは手を出しつくしたと思う。おそらく今持っているトリガーで考えられる手段はこの位だろう。後はまたこなみ先輩に付き合ってもらって試してみようか。そう思ったから考えることを一旦やめて、屋上の縁へと寝転ぶ。
「……ちゃんと勝ったぞ、和音ちゃん」
呟いたところで届くわけではないんだけど。
初戦の時もそうだったし今回も、和音ちゃんが見に来た様子はなかった。頑張ってと応援してくれる割にはその結果を見に来てはくれないんだな。と、自分にこんな感情が湧き上がることにもまだ慣れない。
そろそろ日付が変わるだろうか。だとしたらもう木曜日だ。今日と明日でむらかみ先輩を打ち破る手は浮かぶかな。それでもやらなきゃいけないんだけど、さすがに少し煮詰まった。
「……和音ちゃん、おれにもアドバイスくれないかな」
使われるって言葉でオサムが、おれを囮にする作戦を思いついたように。
話の中でチカが、狙撃ポイントを誘導して散らせない策を思いついたように。
おれにも何か閃くきっかけをくれないかなぁ、なんて。
「その前におれは答えを出さなきゃいけないんだけどな」
左手を宙にのばせば、人差し指の指輪が鈍く光った。これのお陰でおれは、死ぬはずだった未来を先延ばししている。
ただ、いつまでもその時を後回しにすることは出来ない。その前に兆候があるのだろうか。いつか訪れるだろうその瞬間を考える。
「その時に恋人がいたらなんて、考えたこともなかった」
だっておれが未来に思いを馳せた所でどうしようもないんだから。考える必要はなかったし、そもそも望む必要だってなかった。同情のその先があるだなんて考えもしなかったから。
「……そう、思ってたんだけどな」
和音ちゃんは無理に選ばなくてもいいとも言ってくれた。おれがそれを考えたくないなら目を逸らしてもいいだなんて、よく言えたな。逃げ道を残してくれたんだろうけど、それは自分をソマツにしてるだろ。だけど来るだろう未来は、おれが和音ちゃんを傷つけるもの。
「このままでいるのと、終わりがある関係になるの、どっちがいいんだろうな」
そんな独り言に応えるようにユーマ、と耳奥で聞き慣れた声が響く。なんだ戦術指南はもう終わったんじゃないのか。ぼうっとしていると、レプリカは静かな声をおれの脳裏に響かせた。
――それを決めるのは、ユーマ自身だ。
「……その為には、もっとちゃんと和音ちゃんの気持ちが聞きたいな」
ぎゅうと左手を強く握りこむ。多分、おれだけがそれを望んでも意味がないんだ。
――それにようやく、昨日浮かんだ一つの問いの答えに気づく。
お互いに同じことを望んでいたいと思う、これがきっとそうなんだ。
また一つかちりと、何かがはまる感覚。本当におれが何を選んでも良いというんだったら。伝えたその時に、いつもの笑顔で“ありがとう”って言ってもらいたい。
多分おれは、和音ちゃんと同じことを、選びたいんだ。