遊真くんとデート。そりゃあ恋人なんだからデートくらいするだろう。年の差とか世間体とか……つまり、私が成人していて遊真くんが未成年だっていう問題があっても、今の私たちは恋人同士なのだから。
ショッピングデートと言ったからには目的は買い物だ。ついでに言えば、行こうとしているショッピングモールにはレストランだとかカフェもあるから、お昼にもお茶にも困らない。買い物して、お昼食べて、ちょっと遊んでお茶をして。女友達とショッピングするのと大差ない一日のイメージが思い浮かぶと、案外どうにかなりそうだ、なんて初デートへの不安も誤魔化せる。
とはいえ悩みのタネも同時に思い浮かんだ。当日の服装だ。手持ちの洋服を並べて眺め、これだと可愛いすぎるかとか、これだとラフすぎるかと頭を抱えて。いくら初デートとは言え気合を入れすぎるのもどうかと悩み抜いた結果、とりあえずスカートはやめて動きやすいパンツスタイルに決めて。
いよいよ迎えた当日。覚悟を決めて、待ち合わせ場所へといざ出陣だ。
「あ、遊真くん」
「すまん。遅かったか?」
「ううん、大丈夫」
――うわぁ、この会話ものすごくデートっぽい。そうくすぐったくなるような妙な恥ずかしさを堪えて、普段通りを意識する。
現れた遊真くんはパーカーにズボンとシンプルで、比較的見慣れた雰囲気の姿だった。やっぱりデートだからと気合を入れすぎなくてよかった、と内心で安堵したのは秘密。じゃあ行こうかと、自然な流れで私たちは待ち合わせ場所からそう遠くないショッピングモールへ。初デートとは言っても、二人で並んで歩く雰囲気はいつもの散歩そのものだ。
「大多数の男の子は、女の子の長い買い物に付き合うのは嫌らしいのね?」
「ほう」
「だけど、今日の私の買い物もたぶん長いです」
「……それ、最初におれに言ってどうするんだ」
「え? 事前予告なしに嫌な思いさせるのはちょっと罪悪感があるからさ」
ふぅん、と呆れたような表情の遊真くんの眼差しもなんのその。だって大規模侵攻の後、テスト前にも関わらずバイトを詰めたおかげで想定以上に稼いでしまったのだ。春休みも、友達がほとんど帰省してしまってからは遊び相手がいなくてバイト三昧。久々に遊べる日なのだから、今日はちょっとくらい散財したいじゃないか。まだ春物の洋服も買ってなかったし、ね。
そんなこんなで、私は遊真くんを連れてショッピングモール内、お気に入りのブランド店へ。店舗の入り口には既に春色の洋服が並んでいて、ちょっと気になったニットカーディガンを手に取って広げてみる。すると素直についてきた遊真くんが私を真似たのか、同じように洋服を広げてみせて。
「これ、透けてるけど着る意味あるのか?」
「……それはシャツの上とかに着るんだよ?」
透け感のあるVニットを見て眉間に皺を寄せる遊真くんに思わず突っ込む。へぇ? と不思議そうに頷いた遊真くんは納得いったのか、そうして興味を失ったのか服を元へと戻した。男の子って案外女の子の服装に興味ないんだろうか。それにしたって友達が着てたりしないかなぁと考えて、そういえば中学生だったと再確認。普段は制服姿しか見ないだろうしね、大学生じゃあるまいし。
そう一人で納得していると、今度はディスプレイされたマネキンを眺めている遊真くん。好きなコーディネートだったのかな。そんな期待とは裏腹に、眉間に皺を寄せている遊真くんが呟く。
「これ、ボロボロだけど金とるのか?」
「…………ダメージ系もね、そういうファッションとして人気があるからね」
ダメージジーンズを見ながらボロボロと言ってみせる遊真くん。いやまぁ、ダメージ系だからある意味ではボロボロって表現はあってるような気はするけど。遊真くんの反応で、改めて男性と女性のファッション感覚の違いを目の当たりにしてなんとも言えない気分だ。
「遊真くんは、あんまりこういうの興味ない?」
「汚くなくて、動きやすければいいだろ?」
「……まぁそれが一番だけど……」
遊真くんはダメージジーンズを一瞥すると、ふいとまた他の商品へと視線を移す。ボロボロかぁ。遊真くんにはそういう風に見えるなら気をつけよう。……っていや、これはあれ。遊真くんの趣味に合わせようとかそういうのじゃなくて、一意見として参考にしようっていうやつで。
と、誰にするでもない言い訳を内心でしている間に、遊真くんは興味の赴くままに店内を物色しはじめた。それならそれでいいかと、私も私で服を探しはじめる。あれもいいな、これもいいなと二、三着好みのものを手に取りつつ、買うかどうかが悩みどころ。そう悩んでいる内にいつの間に戻ってきたのか、後ろから遊真くんになぁ、と声をかけられて。
「買わないのか」
「今悩んでるとこ」
「これは?」
これ、とはどれかと改めて遊真くんに向き直れば――その手にあったのはシンプルなフレアスカート。
「……なんでこれを選んだのか聞いてもいい?」
「湊川さんがこういうの着てるの見たことないから」
それはまぁ、そうだろう。遊真くんと会う時って基本的にバイトの後そのままで、つまり下はズボンばかりだ。そして今日も悩んだ末にパンツスタイルを選んだ私は、確かに遊真くんの前でスカートなんてはいたことがない。そうとは言っても、まさか、遊真くんに洋服を提案されるとは思ってもいなかった。
「……これはちょっと、私の好みではないんだけど」
「そうか」
正直に言えば、遊真くんはあっさりと引き下がった。手元にあったスカートを元に戻すのだろう、くるりと振り返って店内へと消えていく。あれ、遊真くんの好みだったのか、単純に私に似合うと思って持ってきたのかによって感想が変わるんだけど。…………まぁでも、機会があったら今度はスカートはいてきてもいいかな。とか、思ったり思わなかったり。
それにしても、お店に入って服を選びはじめてからそこそこ経つ。なのに、つまらないとか恥ずかしいだとか文句も言わず未だ店内を物色しているあたり、遊真くんって結構付き合いがいいのかも。とはいえ、フレアスカートを戻したらしい遊真くんを見つけて様子を伺えば、また服を見ながら眉間に皺を寄せているんだよな。楽しんでいる雰囲気ではなさそう。それよりはただ、ひたすらに不思議がってるような感じ。
さすがに可哀そうかな。そう思った私は勢いで二着……いや、やっぱり一着を選んでレジへと向かう。気づいた店員のお姉さんがすぐにレジに入ってくれたので、手早く会計を済ませて遊真くんの元へ。
「おまたせ」
「おぉ、やっと買ったのか?」
――やっと、って言葉が出るくらいには飽きていたんだなやっぱり。
「嫌だった?」
「嫌ではないけど、つまらなかった」
「ごめんごめん。じゃあ、今度は遊真くんの服、見に行こうよ」
私の提案に、少しだけ困った顔をする遊真くん。おれ、別に服に困ってないけど。と、一言で返されたので食い下がる。
「いいですか、遊真くん。洋服というのは何着あっても困りません」
じぃ、っとジト目で睨まれてもなんのその。いやまぁね? 確かに買いすぎるとクローゼットを圧迫するとか、しまうタンスがないとか、多少の不都合はでるけども。それでも、いつでも好きな服を着られる、そういう選択肢が増えるのは悪いことじゃないはず。
「ほら、せっかく一緒に買い物来てるんだし」
「まぁいいけど」
おや、なんと潔い。不満げな顔のままだけど、どこ? と行き先を尋ねてくるくらいには切り替えが早いようだ。いや、諦めが早い? とにもかくにも次の目的地は決まった。せっかく遊真くんがのってくれたので、私は意気揚々と男性向けブランドのお店へを目指して歩き出した。