ショッピングモールの中には色んなブランドのお店が入っている。とはいえ基本的には女性の方が買い物客が多いからか、男性専門のお店より、男性部門と女性部門がそれぞれあるようなブランドのお店が多いものだ。
だから私も入ったことのある、男性向けの洋服も取り扱っているブランドショップへ。さっきまでの女性向けな雰囲気とは違うからか、遊真くんは店内を見まわしながらほぅ、と感嘆の声を漏らす。
「こっちの方が楽しそうだ」
「そりゃそうだろうねぇ」
私が提案した時は渋ってたのに、いざ来てみれば興味を惹かれたのか、遊真くんは自ら進んで店内へと入っていく。プリントTシャツに普通のシャツやベスト、ジーンズからちょっとゴツめのベルトやら靴まで並んでいて、いかにも男性向けの洋服ばかり。けれど遊真くんがふらりと歩み寄った先でその手に取ったのはパーカーだ。
「遊真くん、結構パーカー持ってないっけ?」
「何着あっても困らないんじゃなかったか?」
浮かんだ疑問を素直に尋ねただけなんだけど、ここでそれを言われると何も言い返せない。そうわかっているのか、遊真くんはからかうような雰囲気でにんまりと笑顔を浮かべてみせる。ので、質問を変えることにした。
「パーカーが好きなの?」
「着やすいし、楽だよな」
「……それなら」
目線を下げていくと、目につくのは遊真くんの履くプレーンシューズ。
「靴は? スニーカーとかの方が動きやすそうなのに」
「これだったら学校にも履いていけるって言われた」
「……確かに……」
よほど履いているのだろうか、細かい皺があったりするのが遊真くんの言葉を裏付けているようにも感じる。普段はあんまり気にしてなかったけど、もしかしたら大体この靴を履いているのかも。こういうのって履くほどに馴染んでいくからなぁ。
「お休みの日は靴を変えたりしないの?」
「なんで?」
「学校には制服だからそれにしても、私服の時はもっとラフなのとか、スタイルに合わせて靴を決めたり?」
「しないな」
確かに遊真くんに必要なのは学校の制服に合わせて履けるプレーンシューズなんだろう。癖がないから三門高校の制服にも問題なく合わせられるだろうし、案外どんなスタイルでも無難に合ってしまう気がする。今も、上がラフなパーカースタイルとはいえ、遊真くんの雰囲気がそうさせるのかそこまで違和感があるわけでもないし。逆に、ここでスニーカーとかにしてしまう方が子供っぽくなってしまう気もする。
再び目線を上げれば、目につくのは遊真くんのパーカー。いかにも冬物といった厚手のパーカーは、そろそろ春っぽい薄手のパーカーに変えてもいいんじゃないかな。そう思って遊真くんの隣に立ち、私も目の前に並んだパーカーから遊真くんに似合いそうなものを探す。
「ねぇねぇ、こういうのは?」
「うーん……いや、こっちの方が好きだ」
春っぽく柔らかい紅色も遊真くんに似合うんじゃないかと手に取って見せるも、遊真くんの好みではなかったらしい。唸った後に遊真くんが手に取ったのは白と黒のツートンカラーのパーカー。ぴりっとした傾向のチョイスにへぇ、と思わず声が漏れてしまう。
「それじゃあ……」
とりあえず、遊真くんたっての希望なのでパーカーは決定。けれどあんまり季節感がないから、春らしい色が欲しいかも。トップスが鋭い雰囲気だから、ボトムは柔らかめな……ベージュ系とかどうだろう。そうなると白黒ベージュと地味な色が続いちゃうし、一枚色物を追加してみたり。パステルカラーは遊真くんの趣味じゃなさそうだし、ニット系も好きじゃなさそうだから、ジーンズ地で軽めな青のベストとか。
「……ってことで」
「うぉ」
「これで試着してみよう?」
私から一式を押し付けられた遊真くんは少し驚いていたけど、そのまま試着室へと押し込む。着替えればいいのか? とカーテンの向こうから聞こえてきたので、早く、と急かして。
――ふと、我にかえる。
なんていうか、さっきまではどんなのが遊真くんに似合うかなぁと考えるのが楽しくて、ついつい勢いのままに洋服を選んで押し付けてしまった。やっぱり似合うかどうかは確かめてから買いたいし、サイズとかもあるし、着てみて動きにくいとか気に入らないところがあったら選びなおしを、と思ったから試着室にきたんだけど。
……このカーテンの向こうで遊真くんが着替えてるって思うと、ちょっとドギマギしてしまう。のは別に、私が変態だからとかじゃない、よね?
「着たぞ」
「へっ?!」
とか考えていたら、勢いよくカーテンが開いた。同時に遊真くんに声をかけられて、素っ頓狂な声を上げてしまう。さすがに動揺してしまった――と、誤魔化すより先に目の前の遊真くんに目が釘付けになって。
「……う、動きにくいとか、ない?」
「うん。思ったよりいいな、これ」
話題を逸らしつつ、いや、でもこれ。
「それで、どうだ?」
「……え?」
「感想は?」
「……かっこいい……、かも」
本当だったら、かっこいいよ! ってさらっと言ってしまえばいいだけで、もっと言えば私の見立てがいいからだね! とか冗談かませばいいものを。いざ目の前の遊真くんを見たら……なんというか。下手に大人っぽく背伸びした感じじゃなく、かといって子供っぽいわけでもなく。将来絶対かっこよくなる、っていう雰囲気がありながら既にそのかっこよさの片鱗が見えているというか……。
いや、うん。やっぱり素直にかっこいいと思う。
「そうか。じゃあ待っててくれ、もう一回着替えるから」
「……うん」
これまでどうして気付いてなかったんだろうなぁ、とぼんやり考える。いやまぁ、第一印象が非行少年だったからね。驚きとか、ちょっとの怖さとか、そういうのであんまり遊真くんの……かっこよさに、気づけなかったのかもしれない。いやでも、まさかそんな年下に素直にかっこいいと思うなんてちょっと、びっくり。
「さて」
再びカーテンが開いて現れたのは、元通りの恰好をした遊真くん。それなのに、さっきの名残なのかやっぱりちょっとかっこよく見える、かも。なんて思っていると、遊真くんはすたすたと歩いていく。……レジ、へ。
「か、買うの? 全部?」
「うん」
「え!?」
選んでおいてなんだけど、まさか即決とは予想外だ。どうしよう、さすがに一式ってそれなりのお値段するよね? 買わせるのってどうなの?
「ちょ、ちょっと出すよ」
「なんで?」
「選んでしまった責任というか……あんま値段見ずに決めてたし……」
「いいよ別に。それくらいある」
最近の中学生ってそんなにお金持ちなの?! と思わず突っ込みそうになったけど、あんまり金銭の話に深入りするのは失礼だろうし。と、言葉に詰まっていたらそれに、と話を続けて遊真くんが笑う。
「かっこいいんだろ?」
――再び黙ってしまった私の馬鹿!
遊真の服は某ブランドとのコラボ時のイメージ。好きです。