青空休日、洗濯日和
 結局その後ユーマとは、夜食を食べて私がケーキを食べ終えたくらいでお開きになった。まぁ、さすにが寝るでしょうと。私も眠かったし。洗い物は明日でいいやと全部流しで水に浸して、互いに自室へと引き上げた。
 そうして翌朝日曜日。いつもよりは少し遅い時間に起きて一階に下りると、既に出かける準備万端と言ったユーマが立っている。

「なに、今日もボーダー?」
「うん。ボスに呼ばれてる」

 へぇ、と相槌。毎日ボーダーに通い詰めて、働き者だこと。私なんて最低一日は休みがないとやってられないというのに。
 私がそう目を擦りながらも呆けている一方で、ユーマは「あ」と何かに気付いたように声を漏らす。

「思い出した、ボスに聞いたんだが」
「うん?」
「おれの持ってる端末、カエデに連絡してもいいってさ」
「……え、いいの?」

 聞くところによると、そもそもボーダーの専用端末を支給されるのは正隊員以上。そしてボーダー正隊員はその大部分を学生が占めていることから、私的利用はダメだが保護者相手なら問題ないらしい。まぁ確かに、それくらいは学生の隊員にとって、福利厚生の一種と捉えているのかも。
 書類上はユーマの保護者は私。ボーダーの偉い人達には色々事情がバレていても、対外的に私を保護者として扱うからには連絡の許可も下りる、と。そういうことならば安心だとほっと胸を撫で下ろす。

「だから、連絡先教えてくれ」
「……あれ? そっか、知らないんだっけ」
「…………カエデも人のこと言えないぞ」

 むぅ、と唇を尖らせながらも呆れ顔のユーマ。一緒に生活していると、知っていると思い込んでること、確かにあるのかも。まぁ、昨日の今日だしそこはお互い様だ。
 私はユーマから端末を借りて、とりあえず電話番号だけ登録する。ついでにユーマの端末から自分宛に発信しておけば、これで私もユーマの電話番号がわかるから、後で登録しておくとして。

「カエデ、この文字送れるヤツは? こっちもよく使うけど」
「電話番号で探せないかな……まだ時間があるなら登録までやるけど」
「まだ大丈夫だ。だから頼む」

 そう言って返そうとした端末を押し返されたので、私は自分のも取り出してそろってメッセージアプリの登録を始めることにする。えーと、電話番号検索……は、なんとなく嫌だから拒否してたんだっけ。じゃあ別の手段で登録を、と操作を進めていく。

「……カエデもやっぱり使えるんだな」
「なにそれ。ユーマも使うんでしょ」
「メッセージ? は送れるけど、それ以外はよくわからん」
「……使っていく内に慣れるよ、きっと」

 そうこうしていく内に、とりあえずは私の方でユーマのアカウントの登録が終わった。適当なスタンプを押してみれば震えるユーマの端末。受信を承諾して、試しにスタンプを一つ。無事に送れたことを確認して、晴れて登録完了だ。

「はい、これで終わり」
「ありがとう」
「時間大丈夫?」
「これで行く……あ、あと、着た服ぜんぶ置いておいたから、よろしくな」
「はーい。じゃあ気をつけて、行ってらっしゃい」

 ユーマは笑顔で「いってくる」と告げ、そのまま玄関へと向かっていく。ガチャン、といつも通りの扉の音が響けば、我が家は途端に静けさを取り戻した。

「……まぁ、そういうことならさっそく洗濯物でも回しますか」

 今日はいい天気だ。青空の下なら洗濯物もしっかり乾くはず。そう期待を込めて脱衣所へ。
 見ればユーマの言ったとおり、洗濯物がどっさりと山になっていた。まぁ数日帰ってきてなかったしね。自分の分も合わせると、微妙に一回では回し終わらない量だな、これ。
 とりあえずは洗濯物をどさどさと洗濯機に入れて、一回目。あとはしばらく待つだけなので、台所に戻って朝食を摂りつつ、昨晩の洗い物を片付けつつ。平日の内に溜めていた家事を片付けていれば時間はあっという間に過ぎるもので、一回目が終わればすぐに二回目もスタートだ。
 そうして諸々が落ち着いて、あとは二回分の洗濯物を干すだけ、というところまで来た。二回目終了のアラームを聞いて洗濯物を取り出し、カゴに山もりになるまで詰めていざ、二階のベランダへ。

「今日はちょっと暖かい、かな」

 そう低い日差しを見上げつつ空を確認。雲もないし、この調子なら午後までお天気はもちそうだ。
 あまり眺めているわけにもいかないので、さっそく洗濯物を干し始める。いい天気とは言っても、冬は夕方すぐに日が差さなくなってしまうので早い方がいい。だから淡々と、私の分とユーマの分の洗濯物を見極めて、上着はハンガーに掛けて、ズボンは洗濯ばさみで、とふるいにかけつつ作業を進めていく。
 そうして次にと手に取った靴下――と、思ったら……まさかこれ。

「……パンツ、かな」

 見慣れないボクサーパンツはたぶん、ユーマのものなんだろう。だってこの中に私のものじゃない洗濯物があるとしたら、それはユーマのものだから。
 それでも初めて見たな、と思う。かれこれ一緒に住むようになってそれなりに経つけど、洗濯物を預かることはあっても、その中に下着が紛れていることはなかった。だからたぶん、ユーマが事前に下着だけは抜いているんだろうと思っていたのだ。

「…………まぁ、私は気にしないけど……」

 男の子の下着だったら普通に干してもいいかな。でも、と思い直して洗濯ばさみで干しつつも、周りを囲うようにタオルを干して隠しておく。まぁさすがにそれくらいすれば大丈夫だろう。
 ユーマ、どんな顔をするんだろうか。混ざってたよ、ってわざわざ言うのもなんだし、ここは何食わぬ顔で普段通り洗濯物を畳んで返そうか。今日の夜にはまた帰ってくるだろうし。まぁ、いずれにせよ知らん顔するのが一番いいだろう。

「ふふ、どんな反応するんだろ」

 不思議な関係だ、と思う。最初は得体の知れない近界民と、ある意味で被害にあった一般人だった。それが匿うようになって、妙な共犯関係を築いてボーダーの門を叩くことになって。それまであった利害関係は段々と薄くなり、今ではまるで、ただ普通に一緒に暮らしているだけの同居人だ。
 ベランダに並ぶのは、私とユーマ、二人分の洗濯物。青空の下に互いの服と他もろもろが風になびいていて、それはあまりに――

「……平和だねぇ」

 近界民との同居生活。それそのものが、私にとっては平和の象徴となりつつあるのだ。
ALICE+