9:笑わせているつもりはない



『今日も屋上だぜぃ☆』


丸井さん……何がかくらい説明してくれませんかね?



* * * * *



そうこうしているうちに4時間目。初めてのサボりにドキドキしながらコンビニで立ち読みしたりしてぶらぶらしていた。
丸井さんの好きな食べ物を雅治に訊いたところ、
『ブンちゃんは好き嫌いないからの、お前のオススメでいいじゃろ』
となんとも困った返事が返ってきた。


どうなんだこれは、いいのだろうか。俺のセンスで選んで雅治じゃないとかバレない?
雅治っぽいものって何かよくわかんないしな……まさかコンビニにゲテモノが売ってるわけでもあるまい。
……ま、いいか。俺がぐだぐだ考えるより雅治のアドバイスに乗っかる方が正しいだろう


立海大付属の最寄りのコンビニに立ち寄って、いろいろと物色を始める。
完全に俺の好みだけど別にかまわないよな?
しかしまぁ……雅治に『渡された金額のギリギリまで使いんしゃい』といわれたがいいのだろうか、凄い量だが。あの小柄な体のどこにこんな量が入るんだ……?


そういや雅治はいつも購買で昼飯を買っているらしいので、ついでに自分の昼ごはんも買っておいた。確かに母さんは雅治の分の弁当を作ってはいない。俺は給食だし。
放課後の部活もあるから少し多めに買っておけとアドバイスをされたので、助言に従って少し多めに買う。


……しかし、雅治の普段の食生活を考えると少し多めがどの程度か……。
俺は少なくともこの年齢の男子の平均くらいはきちんと食べてる方だと思う。
一方雅治は面倒くさいのか小食なのかほとんどご飯をきちんと食べない。
焼き肉のときは例外だけど……。
雅治曰く「焼き肉は別じゃ、あれはきちんと食わんと元とれんし」らしい。じゃあ普段もちゃんと食えって。


……で、まあ。
丸井さんから主語も述語も抜け落ちたメールが届いたのはコンビニからの帰り道、ちょうど校門のところ。
時間を見るともう昼休みは始ってしまっていた、しまった、のんびりしすぎた。
ぼんやりと屋上を見上げると、小さな人影がうろうろしている。
一瞬きらりと光ったのはジャッカルさんの頭部だろうか。


「おーい仁王ー!」
「仁王センパーイ!」


校舎に近づくとフェンスにかじりつくような態勢で丸井さんと赤也くんがこちらを見下ろして大声で呼んでいる。
どうやらさっきの丸井さんのメールは「今日もみんなで屋上で昼ごはん食べるぜぃ☆」の省略形だったようだ。
顔をあげて手を振ると、赤也くんがぶんぶんと手を振った。ううん、後輩って可愛いなぁ。


「早く来いよー!」
「腹減ったっスー!」


ありゃ、もしかして俺を待っててくれてんの?
丸井さんは昼飯がないからわかるが、赤也くん達まで待つ必要なかろうに。
(後から柳生さんに訊いたら、「空腹状態の丸井くんの隣で食事などしたら自殺行為でしょう?」といわれた)
(ま、丸井さん……)


「今いくぜよー」


少しだけ大きな声でそう告げると、丸井さんと赤也くんは危ないだろというジャッカルくんの声と共にフェンスそばから消えた。
自然とくすりと笑みが漏れる。初めて会った人たちしかいないけど、楽しそうでいいね。
雅治がいい友達に恵まれているみたいで、よかった。


急いで上履きに履き替えようと下駄箱にやってくると、さっき出て行く時にはなかったはずの手紙が入っていた。
明るい色合いの、俺はよく知らないけど何かの可愛らしいキャラクターの描かれた封筒。
いかにも女の子のもののような感じのそれの表書きには癖の強い字で「仁王くんへ」と書かれていた。


ぼんやりとそれを開いて中を見る。
同じ色合いの便箋に、濃いピンクのペンで短い内容が書かれていた。


『話があるから放課後に校舎裏の木の下に来てね』


……目がちかちかする。しかも凄い独特の字で読みづらい。
何で女の子ってこういうよくわからない字を書くんだろうな。
俺もまあお世辞にも字がきれいな方とは言えないとは思うけどさ。
(よく神経質そうな字だっていわれる、ほっといてほしい)


これはいわゆるあれだよな、え、えっと、こ、告白?
果たし状じゃないよね、果たし状にハートマークとか付けないしね。
雅治って見た目だけはいいもんなぁ、中身は最悪だけど。
こういうの、慣れてるんだろうなぁ。


俺はそんな甘酸っぱい経験ないけど。


つまり、だ。
もしこれが本当に告白なんだとしたら、俺は人生初の女の子からの告白を雅治として受けることになる。
でも相手が見ている対象は俺ではなく雅治だ。
……なにこの屈辱。


見た目は似ているけど、いかんせん中身がこう何というか残念な俺。
性格が悪いのは100人いたら100人が雅治っていうだろうけど、雅治にはテニスという特技があり、俺には何もない。
……いいのかな俺、こんな、雅治のふりして女の子から告白されるとか、いいの?
ってか俺相手の子知らないしさ、雅治に彼女いるかとかわからないしさ。
第一雅治とそういう話しないしさ、あいつに好きな子いるとか分かんないからさ……。


……え、これやばくない?


と、とりあえず放課後までに雅治に訊いておこう。
今はみんなを待たせていることをどうにかせねば。
ブレザーのポケットに便箋を仕舞い、上履きのかかとを踏みつぶしてはいて、急いで階段を駆け上がった。



* * * * *



重たい屋上の扉を開けると、最初に文句が飛んできた。


「遅ぇーっての!」


丸井さんの声だ。俺に昼食の買い出しを頼んでいたのだから、確かに待たせてしまったことは悪かった。でもここで謝るとまた不審がられるだろうから、適当に笑ってごまかす。


「プリッ」
「ま、いいけど」


流された。丸井さんってホント気持の切り替え早いな。
目線は俺からもう俺の手元に移ってるし。


「ほれブンちゃん、餌じゃ」
「餌じゃねえよ!」


パンやらおにぎりやらお菓子やらが詰め込まれた袋を手渡すと、にんまり笑ってすぐに機嫌を直す。
サンキューっと明るくいう声がすがすがしい。
……なんていうか、今日初めて会ったはずなのになぁ。
もうずっと前からこの人のこと知ってたような気がするのはなんでだろう。


「腹減ったっスー、ほら仁王センパイ早く!」


手招きしている赤也くんの横に腰かけると、向かいに座っている柳さんがくすりと笑った。
な、なんだよ柳さん、怖いよ。


「……仁王、お前、これ」
「ん?」
「なんだこれ、この干し梅とか、おしゃぶり昆布とか」


袋の中から俺が買ってきたものを引っ張り出して怪訝そうな顔をする丸井さん。
おやつを買ってこいといわれたから、俺の好みで選んだんだけど、なにか変だったろうか。


「な、何かいけんかった?」
「昼飯はともかくお菓子頼んでんのに珍味を買ってくる人間がどこにいるんだよぃ」
「……ああ」


なるほど。
いや、うん、そうか。ごめん、普通にポテトチップスとかそういうのだったよね。
でもおにぎりとかサンドイッチとかいろいろ選んでたらあんまりもらったお金が余らなくて……。どの程度の量のお菓子を買えばいいかもわからなかったから、とりあえず俺の好みで、そんなにお金がかからないお菓子を選んだだけなんだよ。


「俺のオススメじゃ」
「……もういい、お前に頼んだ俺が馬鹿だった」


がっくりと肩を落とす丸井さんを赤也くんがげらげら笑って、それに丸井さんがキレている。
あ、何かすまないことをしてしまった気分だ……。
いや俺も珍味は好きだけど昼飯後に食べたいとは思わないもんな……。


ちなみに丸井さんが赤也くんにキレて追いかけまわしている間、柳さんはずっと笑いをこらえているような表情で肩を震わせていた。
俺と目が合った瞬間、こらえきれなかったのかふき出してたけど。


……すいませんね! センス悪くて!



笑わせるつもりはない



(こら柳さん、笑いながらメモしない!)


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