『今日の1,4時間目はサボっていいぜよ』
いいわけないだろ、義務教育なめんな。
* * * * *
朝のSHRの時間と1時間目は雅治とのメールのやり取りに費やすことにした。
もちろん授業もちゃんと聞くけど、今はそれよりもやるべきことがある。
文句は後で直接いってやろうと決めて、助言を仰いだ。腹立たしいことこの上ないが今は保身に走るべきだろう。
『どうじゃ? さすがに参謀にはもうバレたじゃろ』
……そうだよ、何でわかるかな。
俺は俺なりに完璧に仁王雅治を演じたつもりだったんだけどなぁ、と柳さんの菩薩スマイルを思い返す。思い返して、うっすらまぶたを持ち上げて俺をみやったあの顔を思い出し、震えた。
身体的な特徴とか癖とかはお互い違うし、俺は雅治のことそんなに観察してないから、じっくり見られたら別の人間であることはわかってしまうだろう。
だから、ありとあらゆるデータをもはやストーカーを通り越した域まで達して集めてる柳さんには通用しないわけだ。
しかし……着替える順番とかって、なぁ。
『バレたよ、でも協力はしてくれなさそうだ』
『ほう……じゃあ参謀には気をつけんしゃい。あいつ、ああ見えて意外とお茶目やからのう』
しかし……雅治、メールの文面くらいは標準語にしてくれないかな。
俺の送信フォルダに変な方言のメールが残ってしまうわけだ。まぁ…滅多に送信フォルダなんて覗かないし、いいか。
『お茶目?』
『意外じゃろ。けどあいつは俺と違ってたちが悪いき、気をつけんしゃい』
俺と違って、ってなおい、お前だって十分たち悪いよ。
てかお前よりたち悪いってそれどんなだよ。
まあ、俺も柳さんはたち悪そうだとは思ったけど。
「……こら仁王、授業中に堂々とスマホいじるなよ」
はっと顔を上げると教卓のところで1時間目の生物の先生がこちらを見ていた。
比較的若くて、若干気だるそうな表情を浮かべている。
「んなこといわれても今緊急事態なんじゃ」
「は、」
「俺の身にかかわる重大な問題じゃ」
「そ、そっか……」
雅治は「1時間目はサボっても大丈夫」といった。ということはこの先生は、多分雅治がサボってもあんまり怒らないタイプなのだろう。
現に、俺の勢任せでいったデタラメな言い訳に対し、それじゃあすまなかった、と何の理由も聞かずに彼は授業を再開してしまった。
……こういうのもなんだけど、内申点とか大丈夫なのか、雅治。
部活頑張ってるからある程度いいのかな、いや、よくないな。
俺の(というよりか雅治の)斜め前の席に座ってる丸井さんが、ニヤニヤしながらこちらを振り返る。
なんだろうと思っていたら肩を揺らしながら親指を立てた右手をこっそりつきだしてきた。
あ、なに、グッジョブって?
俺はそれに対して適当に笑って手を振っておいた。
* * * * *
「いや仁王お前最高!」
1時間目の終わった休憩時間に丸井さんがけらけら笑いながら近づいてくる。
いつから噛んでいたのか、ぷぅっと器用にガムを膨らませだ。
上手だなぁ……俺、ガム膨らませられないんだよな、実は。
「進藤センセもヤベェよなあ。優しいんだかテキトーなんだかわかんねーけどよぃ」
「お、おう」
進藤センセ……ってさっきの先生のことだよな、生物の。
確かにあの先生、大丈夫なんだろうか。
公立高校じゃないからそれなりに自由にやっているのかもしれないけど、少なくともうちの学校の先生だったら授業中にスマホなんかしてたら怒るか没収するかはしそうだ。
……って、そういえば、雅治メール返信してたけど大丈夫なんだろうか?
「お前さ、今日も4時間目サボんの?」
「ん?」
「だから、お前いっつもこの曜日の4時間目サボんじゃん? だったらさ、ちょい買い物頼めねえかなっと思ってさぁ」
「あ、」
雅治からのメールを思い出した。
そうか、1,4時間目はサボっていいって、いっつもサボってるからか。今日に限ってどっちも出てたら怪しまれるもんな……。
いやしかし、うーん、サボったことなんてないからどこでサボればいいとかどうしたらいいとかわからん。
「パシらせる気か」
「お前のおかげでコンビニ寄って昼飯買う時間なかったんだぜぃ? それくらいしてくれたっていいじゃねえかよぃ」
あ、やっぱり根に持ってた。
確かにそれはそれで申し訳ないんだけど……こういうとき雅治だとどうするんだろう?
あの極度の面倒くさがりなら断るだろうけど……でも意外と引き受けたりすんのかな?
大事な部活仲間のお友達だし。どうせサボる用事を探していたとこだったし、いいのかな……。
ちょっとぶらっとして、帰ってくればいいわけだし。
「……わかったぜよ。そんかわりおごるわけじゃないからの、金は自分で出しんしゃい」
「え、あ、お、おう。……マジでいってくれんの?」
え、やばい? この反応。
絶対不審がってる、雅治断るんだなこういうの。やっぱりといえばやっぱり、だけど。
「い、いいぜよ。ほら、ブンちゃんのお願いじゃし?」
「うわキモ! その呼び方やめろっていってるだろぃ!」
助かった……。
雅治のいっていた「丸井相手に困ったらブンちゃんって呼びんしゃい」作戦利いたな。
キモいキモいいいながらも、本気で嫌がっているような様子はなく、丸井さんはげらげら笑ってる。……面白い人だなぁこの人。
「じゃま、金は後で渡すよぃ。適当にパンとかおにぎりとかお菓子とか見繕ってくれればそれでいいぜぃ」
「おう」
それからシクヨロ、といって赤い髪を揺らすと自分の席に戻っていく。
し、しくよろ? よろしくのことか?
面白いっていうか、変な人なんだな……。
しかし雅治よ。
さっきのメールのやり取りの中で、柳さんを除く他の人たちに対するとっさの対応策を聞いたはいいけど。
まぁそれが通用することは今のでわかったんだけど。
『真田には適当なこといえばあいつは信じる、あと命令は聞くな』
『ジャッカルもまぁ、適当にいえば信じてくれるぜよ』
『丸井はブンちゃんって呼べば本題忘れるナリ』
『柳生にはアホなことばっかいってたらいつか諦める、困ったら眼鏡を奪いんしゃい』
『赤也は……まぁアホじゃし、大丈夫じゃろ』
お前部活の人なめてるだろ?
いつか友達なくすぞ、マジで。
緊急作戦会議
(しかし立海大テニス部にはまともな人はいないのか?)
(愉快な王者なんだな……いや、どこのテニス部もこんな感じなのかな?)
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