ズイの遺跡を出ると、あたりはすっかり夕闇に包まれていた。ミカルゲとの約束もあった私は、急いでズイタウンに戻る。
途中、丁度別れたあたりで私たちのことを待っていたミカルゲと合流してから、みんなで交番に向かった。
ジュンサーさんに霧払いの秘伝マシンを見せて事情を説明すると、彼女は手元の資料に目を通しながら、「うーん、秘伝マシンは貴重品扱いにはならないし、届け出もないみたいだから、ウチじゃ預かれないわね」とはっきりした声で言った。
「それ、あなたが持って行ってくれると一番丸く収まるんだけど、どうかしら?」
警察官らしい押しの強い口調に圧倒されて、私は霧払いの秘伝マシンを持ったまま「はい」と頷く。するとジュンサーさんはにこりと笑って「助かるわ」と言ってから、思い出したようにこう付け加えた。
「そうだわ、トレーナーさん。霧払いが使えるなら、ロストタワーの霧を晴らしに行ってくれないかしら?」
このからっとした気候のズイタウンで霧? と思った私が首を傾げると、ジュンサーさんはロストタワーが亡くなったポケモンのお墓がたくさんある塔であることと、最上階で時折原因不明の霧が発生することを、手短に教えてくれた。
「ロストタワーの管理人から毎度ウチに霧払いのお願いがあるのよ。ズイタウンは平和そのものだから普段なら時間もあるし、お墓参りも兼ねて私が行くんだけど……最近、妙な連中があちこちで問題を起こしてて、時間が取れなくってね……」
困ったように頭をかくジュンサーさんに代わってロストタワーへ行くことを、私は快諾した。妙な連中、というのはおそらくギンガ団のことだろう。国際警察に加えてジュンサーさんたちもギンガ団のことを調べてくれるなら、心強いことこの上ない。明らかになる情報の中には、あの水色の髪の男に関するものもあるかもしれないし。
「任せてください。ジュンサーさんも、お仕事がんばってくださいね!」
私は心の底からそう言って、交番を後にした。
一夜明けて翌日、私はフワライドに霧払いを覚えさせてから、ロストタワーに向かった。
ズイタウンから209番道路に入ってすぐのところに、ロストタワーは建っていた。オベリスクのような風貌をしたその建物に、私たちは静かに入ってゆく。
浅葱色の床に灰色の墓石が並んでいるのが真っ先に目に飛び込んできた。
それを見た私の脳裏に、今は亡きルクシオの姿が蘇る。今は、ナギサの街を見下ろせる高台に眠っている彼。月命日には必ず花を手向けていたけれど、旅を始めてからは当然、墓前に立てていない。彼は私が来ないことを寂しがっていないだろうか。いつまでも現れない私のことを恨んだりしていないだろうか。
思わず、右手をぎゅっと握りしめる。
その動揺は、ゴーストに伝わってしまったらしい。彼はガスのひやりとした手で私の右手を優しく握るようにとる。そして、柔らかな声をかけてくれた。
彼の手の冷たさが、どきんどきんと妙なリズムを刻んでいた心臓を落ち着けてゆく。平常心を取り戻した私は、「ありがとう、もう大丈夫」と言って少し微笑んで見せた。それを見た彼の顔に、いつもの不敵な笑みが戻る。
「行こうか」
私の声に、ゴーストとミカルゲが頷く。
彼らはゴーストポケモンだからだろうか、ここがどういう場所なのか敏感に感じ取っているようで、ふらふらと飛び回ったり声を上げたりすることなく、私の後をついて来た。
大小様々な墓石の並ぶどの階にも、花や線香を手向ける人たちがいた。その静かな横顔をなんとも言えない気持ちで見ながら、私は階段を上ってゆく。
最上階に近付くにつれて、辺りに霧が立ち込め始めた。聞けば、普段は最上階で霧が発生するたびにジュンサーさんが霧払いをしに来てくれるのだが、ここのところは彼女も忙しく、そうこうしているうちに霧が階下へ漏れ出してきてしまったらしい。私がジュンサーさんに代わって霧を払いに来たことを告げると、カウガールのベスさんは少しだけ口角を持ち上げて笑ってくれた。
「ロストタワーのお墓の中と、あたしの思い出の中に、あの子の居場所があるの。ここがこんな霧におおわれてちゃ、あの子が暗い気持ちになっちゃうわ。ナマエさん、どうかお願いね」
彼女の思いを受け取った私はしっかりと頷いてから、最上階に向かった。
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