カフェやまごやに居合わせたトレーナーとのバトルを終えて、おいしそうにモーモーミルクを飲むゴーストたち。彼らを微笑ましい気持ちで見ていると、ふと、窓の向こうに見慣れた黄色いポケモンが大量に集まっているのを見付けた。
「あ、コダックだ!」
私は椅子に座ったまま背筋を伸ばして、窓の外を見やる。あれは、カンナギタウンへ続く道だろうか、それを埋め尽くすほどのコダックの群れが、頭を抱えてそこに留まっていた。
どうしてあんなところに、あんなにたくさんのコダックがいるんだろう。疑問に思った私が僅かに首を傾げると、つい先ほどバトルをした紳士が親切にあのコダックたちのことを教えてくれた。
「このあたりのコダックはね、頭痛がひどくなるとああして一か所に集まるんだよ」
これはシンオウの、210番道路に生息するコダックだけに見られる珍しい現象だそうだ。頭痛が悪化すると、彼らはその痛みを分かち合うように一か所に集まる。そして、そうなるとてこでも動かない。結果、こんなふうに道を塞いでしまうことも少なくないのだという。
「道が通れなくなるのは不便だが……頭痛に悩まされている彼らを無理矢理どかせるのは少し気が引けてね」
コダックたちを気遣うような視線を窓越しに投げかけた紳士は、「みんなこうして、コダックたちのことを静かに見守っているんだよ」と言って、穏やかな笑みを浮かべた。
私は彼の視線を追ってコダックたちを見つめる。掴み所のない表情を浮かべて頭を抱える彼ら。私は紳士の言葉の通りに彼らのことを見守りながら、その痛みが少しでも早くよくなるように祈った。
カフェを出てから旅を再開した私は、トバリシティを目指して進路を東へ変える。
215番道路が近付くにつれて、からっと晴れていた空にだんだんと重たい雲が交じり始めた。タウンマップの簡易ガイドには、215番道路にはいつでも雨が降っていると書かれていたけれど、それはどうやら本当らしい。
「……雨が降りそうだね」
空を見ながら歩いていた私がそう言うと、ゴーストは私の真似をして空を見上げる。と同時にその額めがけて、ぽつり、と水滴が落ちてきた。
もちろん水滴は、ほとんど質量を持たない彼の体をすり抜けて雑草の生える地面へ吸い込まれてゆく。ゴーストは自分の体を通り抜けた水滴を視線だけで見送ってから私の方を見て、ごく冷静な声で一声鳴いた。降ってきたね、と言われたのだと思った私は、「そうだね」と返事をしてから、鞄を開ける。
取り出したのは、小さく折りたたまれたレインコート。私はそれを手早く広げると、さっと羽織って前を留めた。
初めて見るレインコートに興味を引かれたのか、ゴーストがまじまじと私を見つめてくる。そんな彼にレインコートの説明をしていると、弱かった雨足がだんだん強くなってきた。
レインコートが雨粒をはじく軽快な音を聞きながら、215番道路を進んでゆく。
これまでにも目にしてきたポケモンたちは、雨を避けるように木陰でじっとしていた。その代わりに、初めて目にする野生のマリルが雨の中を元気に跳ね回っていた。普通は水辺にいるはずのマリルだけれど、雨がちな環境のせいかここでは陸の方までその生活圏を広げているようだ。ばねのような尻尾を絡ませながら楽しそうにじゃれ合うマリルの姿に、思わず笑みがこぼれた。
私を笑顔にしてくれるのはマリルだけではない。鞄の上からでも羽織れるポンチョタイプのレインコートは、歩くたびに裾がひらひらと踊って目を楽しませてくれる。更に、雨なんかお構いなしの無鉄砲なトレーナーたちが勝負を挑んでくるので、退屈するヒマもない。
ナギサにいた頃は、ルクシオと外で遊べなかったり、海が荒れて怖い波の音が聞こえてきたりするから、雨の日はあまり好きではなかった。
けれど、今ならわかる。雨の日が好きではなかったのは、雨を理由に外に出ようとしなかったからだ。雨には雨の良さがある。雨だから出会えるポケモンや人がいる。
この先には、どんなポケモンやどんなトレーナーがいるんだろう。そう思うと、自然と歩調が速くなる。
私はぴしゃりと水たまりの水を跳ね上げながら、はやる気持ちのままトバリシティを目指して歩いた。
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