トバリシティに着く頃には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。雨の降りしきる中まっすぐポケモンセンターに向かうと、宿を借り、雨に濡れたレインコートや靴を乾かしてからこの日はすぐにベッドに入った。



一夜明けたトバリの街は、215番道路の土砂降りが嘘のように綺麗な青空が広がっていた。

険しい岩場を切り崩して出来たというトバリシティは、「石に囲まれた空間」という看板の通り、舗装された道から家の建材まですべてが灰色の石で出来ている。トバリにはデパートやゲームコーナーなどの華やかな施設が集まっているが、その灰色の街並みのおかげで、街は全体として落ち着いた雰囲気に包まれていた。

石の街並みを楽しみながら散策していると、南東のはずれに、街を作っている石とは明らかに質感の違う墨色の石がいくつも転がっているのを見つけた。石の大きさは大小様々だった。一抱えほどあろうかという目立つ石が数個あり、その周囲にはそれよりも小ぶりなものがいくつも散らばっている。まるで無造作に転がっているように見えるが、その石たちは直径数メートルの窪地状の地形の中に収まるように配置されていて、そこになにかの意図や意思があるように見えなくもない。
窪地状の地形の縁に沿って歩きながらそんなことを考えていた私は、ふと窪地の縁の近くに手のひらサイズの石が転がっているのを見付けた。私は純粋な好奇心からそれに近付いて、拾い上げようとしたのだが。

「わ、重い……!」

見た目は表面のでこぼこしたただの小石だ。しかし、それは見た目からは想像もできないくらい重くて、私では持ち上げることすらできなかった。
私の様子を見て興味を持ったのか、ゴーストが石を指先でつつき始める。ふたりでしばらくそうして石を眺めていると、通りかかった街の人が、これは宇宙から降ってきた隕石であることを教えてくれた。

「この街が出来たときからその隕石はここにあったんだって。重すぎて誰にも動かせないから、そのままになってるらしいよ」

岩場を切り拓いてできたから石の街なのだと思っていた私は、トバリを形成する石の中に隕石までもが含まれていたことに大きな驚きを覚えた。その感情のまま「トバリは本当に、石の街なんですね」と感心した口調で言う。するとお兄さんはくすっと笑ってから「隕石も街並みも見るのはタダだからね。ま、気が済むまで見ていくといいよ」と茶目っ気たっぷりに言ってくれた。

お兄さんを見送ってから、改めて隕石に向き直る。
ついさっきまではただの小石だと思って拾おうとしていたのだけれど……隕石だと知った今、もはや簡単に手を触れることが出来ないから不思議だ。

どこか神聖な気持ちで隕石に向かい合いながら、私は胸の中に今まで見てきた星空を思い描く。この隕石は、遥か彼方で輝くいくつもの光の間を旅してきたのだろうか。そんな遠くの宇宙から、なにに導かれてこの星の、この街へやってきたのだろうか。

……たぶん、本当は、意味なんてないのだと思う。この隕石はただ重力に従って宇宙を漂い、たまたまここに落下しただけに過ぎないのだ。
けれど、それになにか運命めいたものを感じてしまうのが人間というものなのだろうな、とも思う。私は隣で隕石を見つめるパートナーの横顔を見ながら、彼と出会った時のことを思った。コリンクの去った暗闇から現れたあなた。きっとあれも、今思えばただの偶然に過ぎなかったのだろう。でも、その偶然が、私にとっては運命だった。

私の視線に気付いたらしい彼が、すっと視線をこちらに向けて、「なに?」と言うように首を傾げてみせる。
私は少し悩んでから、それに「ううん、なんでもないよ」と答えた。

本当は、少しだけ訊いてみたいことがあった。
――私はあなたとの出会いに運命を感じているんだけど、あなたはどう?
でも、それはうまく言葉にならなかった。ただの小石が隕石だとわかった途端に触れられなくなるみたいに、私と彼の出会いもまたとても大切で、だからこそ簡単に触れてはならないような気がしたのだ。

私は彼との出会いの記憶を、またそっと記憶の宝箱の底におさめる。
そして、気持ちを切り替えるように「さあ、行こうか!」と言って、隕石に背を向けて歩き出した。

「デパートとゲームコーナー、どっちにしよう?」

私の隣に並んだガスの体にそう尋ねると、彼は嬉々とした声で短く鳴いて、一気に加速すると私を追い越して走り出した。ついて来い、と言うようににんまり笑う彼。つられるように私も笑ってから、彼に追いつくために石の地面を強く蹴った。


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