コトブキシティの要所は主に街の北西に固まっていることが、街の案内板から見て取れた。
私は特にテレビコトブキに行ってみたかったのだが、入口のところにいたふくよかなピエロがなんと頼んでもどいてくれなかったので、テレビ局の見学は早々に諦める運びとなった。
ポケモンセンターのジョーイさんが勧めてくれたグローバルトレードセンターという建物も、バッジがないと入れないらしく、あっさり門前払いされてしまい。そんなわけで、私に残された名所はこのトレーナーズスクールだけになった。

赤茶色の煉瓦造りの建物に足を踏み入れる。
広い玄関を抜けて、長い廊下を進むと、いくつかの教室があった。中では何人もの子供達が先生の講義を一心に聞いていた。まだポケモンを持っていないうちからトレーナーズスクールで熱心に学ぶ子供も多いと聞く。私はいずれこういう知識を豊富に持っている人とも闘うことになるだろう。負けないように頑張らなくては。

廊下の突き当たりの部屋は、今までの教室と雰囲気が違っていた。扉のガラス窓からちらりと中を見遣る。どうやらここは授業用の教室ではなく、生徒が自由に使えるフリースペースらしい。私はややためらいがちに扉に手をかけ、引き開けた。おずおずと中に入ると、この教室を監督しているらしい女性教諭がこちらに歩み寄ってきた。

「トレーナーズスクールへようこそ」

向けられた笑みに、とりあえず歓迎されているようで安心する。

「ここはフリースペースなの。学外の子供たちにも解放されているから、自由に見ていって」

教室を見渡すと、本棚にはポケモンの初歩知識が記されている本がずらりと並んでいた。部屋の中央に置かれた大きな机を囲むように座っている子供達は、ポケモンのタイプ相性について議論を重ねている。
壁に設置された大きな黒板には、ポケモンの状態異常についての詳しい説明が、子供の字で書き連ねられていた。

私は黒板の文字を読みながら、麻痺と眠り以外の状態異常についてあまり知らない自分がいることに気付いた。
凍りや火傷は聞いたことがあったが、メロメロなんて状態異常があることは今日初めて知った。

「そうなんだ……」

思わず納得を声に出して呟きながら白墨の文字を追っていると、不意に、服の裾を引っ張られたのを感じた。そちらに首をすっと向けると、私よりも小さな男の子が私に向かってノートを突き出して立っていた。

「見せてやるよ」

青いキャップを被った少年が、ちょっと生意気そうにそう言う。
私はその場にしゃがんで少年と同じ目線になると、「ありがとう」と微笑んでノートを受け取った。
お世辞にも綺麗とは言えない文字だったが、ノートいっぱいに授業で習ったことや自分が思ったことが書き留められていて、私は素直に彼を凄いと思った。ページをめくってみると、そこには大きな赤い文字でこう書かれていた。

『ポケモントレーナーのもくひょうは、ジムリーダーにかつこと!!』

ポケモントレーナーの目標。
私は、自分の道を歩くために旅を始めた。今の私には、ポケモントレーナーとしての目標がないことに、ふと気付く。

私は少年のノートを静かに閉じた。

「ありがとう。とっても勉強になった!」

そう言うと、彼はにかりと笑って、私の手を引いて走り出す。

「じゃあ、バトルしようぜ!」

どうやら、このスクールの中にはバトル用のコートもあるらしい。
私はジム制覇を夢見る少年に手を引かれながら、いつかデンジを倒すことについて真剣に考え始めていた。


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