はやる気持ちのまま展望台ゲートをくぐり、辺りを見回す。その様子を見た受付のお姉さんは、すぐに私が旅のトレーナーであることに気付いたらしく、「大湿原へようこそ!」と眩しい笑顔でサファリゾーンの説明をしてくれた。

ノモセの大湿原では、生態系保護のために、バトルはもちろん、湿原に生息しないポケモンの持ち込みが全面的に禁止されているらしい。
トレーナーたちは、支給されるエサをうまく使ってポケモンをおびき寄せ、これまた支給のサファリボールを使って湿原のポケモンをゲットするのだそうだ。

「大湿原には、深い沼地もあります。深みにはまると、靴はもちろんお洋服も絶対に泥だらけになりますから、無料貸し出しの長靴とツナギに着替えることをおすすめします。あちらに更衣室がありますから、ぜひご利用くださいね。
ボールがなくなるか、閉園時間になるとゲーム終了です。大湿原の自然とポケモンを、たっぷり楽しんでください!」

これは、今までにない体験ができそうだ。そう心を躍らせる私を見たゴーストは、眉間にぐっと皺を刻んで私に声をかけてきた。はじめは、自分だけサファリゾーンへ入れないことに不満を漏らしているのかと思ったが、違う。
なにやら心配そうな声色。……推測するに、どうやら彼は、私が目の届かないところへ行ってしまうのが不安であるらしい。私には危なっかしいところがあるから、よくよく気を付けるよう言ってくれているようだ。

私は心配してくれたことにお礼を言ってから、ふと、この建物の2階部分が展望台になっていることを思い出した。

「そうだ! ゴースト、私のこと展望台から見守っててくれる?」

早速向かった先の展望台は、ドーム状の壁がガラス張りになっており、湿地帯とノモセの街をぐるりと見渡すことが出来た。
高いところから見下ろすと、ノモセの街が湿地帯に囲まれていることがよくわかる。ノモセシティは、湿地帯の自然を守るために集まった人々によって作られた街だというが、……こうして見ると、ノモセシティが湿地帯に守られているようにも見える。

ここでは、街と自然がお互いを助け合いながら共存しているんだなあ。そう思った私がほう、と深いため息をついた矢先。
ゴーストが勢いよく空を滑り、望遠鏡のある一角へさっと躍り出た。彼はそのままサファリゾーンを最もよく見渡せる位置に陣取り、なにかを思案するような顔をする。かと思えば、今度はふわりと飛び上がり、自分の体が展望台を取り囲むガラスの壁をすり抜けることが出来るかどうかを念入りに確認し始めた。

あ、もしかして、私に万がの一なにかがあったときには、そのままガラスをすり抜けてサファリゾーンへ助けに来るつもり?
しばし辺りを飛び回り、それからこちらを振り返ったゴーストの満足そうな顔を見て、私はこの懸念が確信へと変わるのを感じた。

ゴーストはきっと、私がどんなにサファリゾーンの自然保護を説いても、万が一の事態が起こればそんな規則は無視して私を助けにくるに違いない。
だって彼は、いつだってそうだったから。どこまでも優しい彼は、規則も倫理も、時には自分の体すら顧みないで、私のために戦ってくれたから。

……けれど私には、彼に規則や倫理、それから自分自身を守ってもらうためにできることが、ひとつだけある。
それは、私自身が強くなることだ。トバリの倉庫街の時の様に自分で危険をはね退けられれば、ゴーストは私を信じて待っていてくれる。そうすれば、彼は規則を破るような悪い子にならないですむ。

私は満面の笑みを浮かべる相棒の、実体を持たない輪郭をそっと撫でながら思った。
私が強くなりたい理由のひとつは、間違いなくあなたなんだよ。あなたが私のために捨てたものは、私があなたのために全部拾っていきたい。それが私とあなたを守ることに繋がると、私は信じているから。

「それじゃ、行ってくるね。
ちゃんと無事に帰ってくるから、待ってて」

私の思いの全部が伝わったかどうかはわからない。でもゴーストは、一応は私の言葉に頷いてくれた。それから、私の右手にガスの体を押し付けながら低い声で短く鳴いて、ひらりと飛び上がり、サファリゾーンを一望できるベストスポットへ体を落ち着ける。

……一応は私の意見を尊重してくれるようだ。でもその真っ直ぐな眼差しは、なにかあったら真っ直ぐにお前のところに飛んでいくぞと言っているようにも見える。

私はゴーストが少しでも安心して待っていられるように自信たっぷりに笑って手を振ると、大きく息を吸ってから踵を返した。
さあ、精一杯サファリゾーンを楽しまなくちゃ。もちろん、彼の意見を尊重して、精一杯安全第一で。


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