昨夜の小さな違和感をコトブキシティに残して、私は218番道路に向けて出発した。
私たちは昨日までの練習の成果を存分に発揮して、ゴルダックと一緒に218番道路を西へ進んでゆく。
沖から深く切れ込んだ湾内には岩場や小島が多い。ゴルダックの小回りのきく泳ぎでそれをすいすいと避けながら進んだ。
ゴーストがきちんとついて来ているかを振り返って確認する。ゴーストは私のすぐ後ろをすーっと滑るように飛んで、ゴルダックの泳ぐスピードにも問題なくついてきていた。どうやら、心配はいらないらしい。
私は安心したように息をついてから、その視線をゴーストの向こうにある岩場に移した。
岩場に広がる磯に目を凝らすと、そこには鮮やかなピンク色をしたカラナクシの群れがいるのに気が付いた。エサを探しているのだろうか、頭上の突起を揺らしながらゆっくりと湾の奥の方に移動していくカラナクシたち。
テンガン山の東側で出会ったカラナクシは、淡い水色をしていたっけ。覚える技や生態は全く同じなのに、テンガン山の東西で体色がこんなに違う理由は、まだよくわかっていないらしい。とても身近な存在だけど、ポケモンにはまだまだ謎が多いことを改めて感じた。
視線を右手に転じると、ごつごつした岩の向こうに沖が広がっていた。そこから流れ込んでくる暖かい海流に乗って、ケイコウオたちがやって来る。彼らは遠浅の湾の底で太陽をたっぷり浴びて育った海藻を食べながら、岩の間を素早く泳いでゆく。
昼間にこうして太陽をたっぷり浴びた尾鰭の模様は、夜になると鮮やかに輝くのだという。マゼンタの光がいくつも揺らめく夜の218番道路は知る人ぞ知る夜釣りの名所なのだと、波乗りの稽古をつけてくれた釣り人さんに教えてもらったのは記憶に新しい。
いつか夜にも来てみたいな。そんなことを考えながらケイコウオの群れを眺めていると、不意に、尾鰭を力強く動かした1匹のケイコウオが海面から大きく跳ね出てきてこちらに向かってきた。私は慌てて重心を左に逸らす。ゴルダックは私の意志を汲み取って、その進路を即座に左に転じた。活きのいいケイコウオが、私の頭の横をかすめて飛び、飛沫を上げて海に帰ってゆく。よかった、衝突せずにすんだ。
「ゴルダック、ありがとう」
私の思いの通りに泳いでくれたゴルダックにお礼を言うと、彼は泳ぎを止めることなく器用に鳴いて応えてくれた。
途中、岩場で何度か休みながら波乗りで泳ぎ進むと、しばらくして対岸の陸地が見えてきた。
次第に浅くなる海底に気を付けながら慎重に岸に近付いて、ここだというタイミングでゴルダックの背から陸地に向けてぴょんと跳んだ。ゴルダックの泳ぎのスピードを借りて私は大きく跳躍し、ミオシティ側の陸地に確かに着地した。
「やった! 着いたよゴルダック!」
おもむろに岸に上がって来たゴルダックに駆け寄って、彼の背を労うように撫でる。ゴルダックは自分の仕事に満足したようにやや長く鳴いて、静かにボールに戻っていった。
ゴーストと一緒に、218番道路をなおも西へ進むと、すぐに街が見えてきた。
街の近くでは数人の船乗りたちが3体ずつポケモンを出し合って、ポケモンの立ち位置を細かに指示しながらバトルをしていた。
聞けば、これは遠い外国で発明されたローテーションバトルという対戦方法なのだという。相手に攻撃技を出してもいいのは、陣形の前衛にいるポケモンだけ。相手のポケモンとの相性や技を考えて前衛と後衛を入れ替えながら複雑に攻守を切り替える様子は、見ているだけでも頭を使う。とても難しい対戦方法だなと思った。
「ローテーションバトルの本場はイッシュ地方だよ。きみもいつか行ってみるといいよ」
ゴーリキーに巧みに指示を出してこのバトルを制した船乗りのケンゴさんが、浅黒く日焼けした顔の中で白い歯を輝かせて笑う。
シンオウ地方の遥か東、果てしない外洋の先にあるというイッシュ地方。多種多様な人とポケモンが集まって自由に暮らしているという外国の街のことを記憶の片隅に留めながら、私はミオシティを目指して再び歩き始めた。
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