ミオシティへ続くゲートを抜ける。私たちを迎えてくれたミオの街は、その中央に巨大な運河を湛えた広大な港町だった。
整備された運河の両岸ある船着き場には、大小も色どりもさまざまな貨物船が停泊している。つい先程、船乗りのケンジさんから聞いたイッシュ地方や、その他にも世界中の各地とシンオウを結ぶ物流の要が、このミオの湾港なのだそうだ。
港の周辺は、コンクリートとタイルで綺麗に舗装されている。私の靴と淡い青磁色のタイルが触れ合って軽やかな音をたてるのを楽しみながら、街の中を北へと進んでいった。
あちこちの船着き場では、船乗りとゴーリキーが協力して積み荷を降ろしていた。それを積載した車が、運河の背後に並ぶレンガ造りの倉庫にどんどん荷物を運んでいく。波の音と人とポケモン、それに機械の声が溶け合って、湾港の街に響いていた。
活気あふれるその様子に、私の気分も次第に高揚していく。ゴーストの様子を見ると、彼も私と同じ気持ちなのか、いつもよりも浮かれたような軌跡でふらふらと飛んでいる。観光地らしく道のあちこちにあるお店に並ぶ雑貨や食べ物を、ガラス越しに物珍しそうに眺めているようだ。
私はポケッチで時間を確認する。夕方まではまだ少し時間がありそうだ。
「ゴースト、どこかお店に入ってみる?」
私がそう尋ねると、彼は迷うように辺りをきょろきょろ見渡して、きのみを材料にしたお菓子を扱っているカフェに目をとめた。お店の入り口にあったボードを見るに、きのみを材料にしたポケモンも食べられるアイスクリームが人気のお店らしい。
私は少し迷って、ロゼルのみを使ったアイスクリームを6つテイクアウトすることにした。少し歩いて、湾港とそこにかかる木製の橋がよく見えるベンチを見つけて、そこに腰かける。それからボールからみんなを呼んだ。
「おやつにしよう」
そう言いながら、私はみんなにアイスクリームを手渡していく。
「いただきます!」
遠いカロス地方という所からやって来たというロゼルのみ。それをふんだんに使ったアイスクリームは、上品な甘さの中に少しの苦みがある、まさに舶来という感じのオシャレで大人な味をしていた。
ゴーストたちは馴染みのないロゼルのにおいにはじめは少し警戒していたようだったが、私がおいしいと言いながらアイスを頬張る様子を見て、おずおずと口に運んでみる。
次の瞬間、フワライドとロトムがぷわぷわぱちぱちと鳴き交わしながら、宙を舞った。どうやら、お気に召したらしい。
ゴルダックは深紅の瞳をしばたかせて興味深そうにアイスを見つめて、それから静かに、しかし黙々と口に運び始めた。
ゴーストはその大きな口で早くも自分の分を平らげてしまったようで、大切そうに少しずつアイスを食べているヨマワルの周りを、もの欲しそうな眼差しで飛び回る。
私は念のためゴーストに横取りしないように釘をさしてから、スプーンを動かした。冬空の下でみんなで食べるアイスクリームは格別。そんな思い出をしっかりと刻みながら幸せな時間を過ごしていると。
不意に、運河の向こうから汽笛が聞こえてきた。見れば、ひときわ大きなコンテナ船が今まさに外洋に出ようとしているところだった。
コンテナ船の汽笛に呼応するように、運河の東西を結んでいる木の橋が中央から割れて、ゆっくりと持ち上がってゆく。橋の重量を支える太い柱と堅牢なワイヤーロープが低い音をたてながら主桁を釣り上げていく様は圧巻だった。
時間をかけて完全に跳ね上がった橋の間を、巨大な船が器用に通り抜けていく。そしてなにごともなかったように戻ってゆく橋を見ながら、私は小さな感動を噛みしめていた。故郷のナギサの街にも海があり、港があった。しかしその様相は全く違う。
――これがミオの日常なんだな。そう思いながら私は、もうすっかりもとに戻った橋をしばらく眺めていた。
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