強くなりたいのか。そう問いかけた先の彼女の瞳が、どうしてだか私を惹きつけた。
あの年頃のトレーナーならば、誰もががむしゃらに強くなりたいと思っていることだろう。だが、彼女は少し何かが違う気がした。うまく言葉にはできないけれど、大きな覚悟の様なものを背負っているように見えたのだ。

ナマエが強くなるために私がなにかしてやれるかはわからないが……、まずは手始めに彼女の手持ちを確認する。ゴーストを含めて手持ちは5体。ゴルダックを除いて、みんなゴーストタイプのポケモンだった。彼女がポケモンをボールに収めるのを見ながら、私は小さく頷いた。なるほど、これは、鋼タイプ相手にあれだけ苦戦するはずだ。

子供相手に、しかも初めての旅をしている女の子にこんなことを言うと嫌われてしまうかもしれないな。そう思いながら、私はごく当たり前のセオリーを口にする。

「バトルの基本はタイプ相性だからね。有利に進めるには、当然いろんなタイプのポケモンがいる方がいい」

相手がどんなタイプのポケモンを繰り出してきても対処できるように、こちらも弱点を分散させてパーティーを組むべきだ。ポケモンのタイプを中心に、技構成、攻守のバランス、それに特性も加味しながら隙の少ないメンバーを揃えれば、間違いなく負けることは少なくなるだろう。

なるべく説教くさくならないよう心掛けたが、視線の先の彼女はしゅんと俯いてしまった。
タイプ相性を考えてパーティーを組めと言われて困惑してしまう気持ちはよくわかる。そんなことわかった上で、きっと彼女はこのメンバーで旅をしているのだ。だから、手持ちを変えろと言われることはとてもつらいだろう。
――かつて私がそうだったように。

「そう、ですよね」

ぽつんとそうこぼした彼女に、私はなるべく優しくこう付け加えた。

「でもね、そんなアドバイスは聞かなくてもいいんだ」

彼女の碧い瞳が、きょとんと丸くなる。想像した通りの反応に思わず笑ってから、私は自分の手持ちを披露する。ルカリオ、アブソル、リングマに、ボーマンダとメタグロス。

「昔、私も似たようなことを言われたよ。お前のパーティーは物理攻撃が得意なポケモンばかりでバランスが悪いって。もっと攻守や物理と特殊のバランスを考えろってね」

勝てない時期が続いて、少しパーティーを変えてみたこともあった。確かに勝率はよくなったけれど……、でも、あの時期はバトルが楽しくなかった。

「ゲンさんは、そのアドバイスを聞かなかったんですか?」
「結果的にね。守備をかためたり、特殊攻撃や補助技を使うのは、私には向いてなかった」

かつて、私を救ってくれた言葉がある。
攻撃を極めろ。その先にのみ、お前の道がある。

その言葉をかけてくれた人は、鋼タイプの使い手だった。自分とは正反対の、守りを極めた我慢強いトレーナーだ。自分はああいう戦い方はできない。そう思うと同時に、ひとつのことを極限まで極めたその生きざまにひどく惹かれた。

「だからね、私が言えるのは、信念は変えるべきじゃないということだ」

この仲間と勝つための工夫を重ねていけばいい。少なくとも私はそうしてきた。

「……信念」
「そう。ナマエの譲れないものはなんだい?」

彼女はその眼差しを足元に落としてしばし考え込む。
そして答えを見つけた彼女は、その碧い瞳を真っ直ぐこちらに差し向けた。力強い輝きと、少しの危うさ。それが混ざり合って不思議な光がその目に宿る。

「確かに、いろんなタイプのポケモンがいた方がいいのはよくわかります。
でも、私、ゴーストたちと一緒がいい。偶然かもしれないけど、彼らと出会って一緒にいることに、きっと意味があると思うから」

私は彼女の言葉に大きく頷いて応えた。
私が今日、この廃鉱山で彼女に出会ったのは偶然だ。彼女が鋼タイプに対して分が悪いゴーストポケモンを連れていて、無事にここから戻れるのか心配になった。だから一緒について来るよう言った。
普段であれば、彼女をそのまま真っ直ぐ鉱山の出口へ連れて行ったことだろう。だが、今日に限って鉱山のポケモンたちの様子がおかしかった。結果、私はナマエと鉱道を奥へと進み、こうして彼女の旅を手助けすることができた。

「……その信念を嘘にしないために、できる工夫を惜しまないことだ」

私はそう言いながら、鞄の中から技マシンを取り出す。かつて、自身のスタイルが揺らいだ時に手に入れた特殊攻撃技の技マシン。鞄の奥にしまい込んで、今日まで存在すら忘れていた。結局使うことはなかったそれを捨てずに持っていたのもまた偶然だ。

「まずは、技から見直してみるといいよ。
自分の弱点に対して有効な技は覚えていて損はない」

確かに、全ての出会いは偶然かもしれない。でも私たちは、その出会いに意味を持たせることができる。
私の手から彼女の手に渡った技マシン。番号は52番の、気合玉。鋼タイプに効果抜群の威力をとれる格闘タイプのこの技は、きっと彼女の目指す強さの手助けとなることだろう。


[ 162/209]



ALICE+