私はゲンさんからもらった技マシンを確認する。マシン番号52番。中身は格闘タイプの特殊技、気合玉だった。
これが鋼タイプはもちろん、氷タイプや悪タイプ――すなわちマニューラにも有効な技だということに気が付いた私は、ゲンさんにお礼を言ってから、早速それをゴーストに使った。
それから、ゲンさんと一緒に鋼鉄島の最深部を目指しながら、気合玉を使う練習をした。
気合を高め、それを球状のエネルギーとして放出する気合玉。ゴーストは、シャドーボールならもう慣れた手つきでやすやすと形成してそれを放つことができる。しかし、渾身の気合いとなるとそうはいかないようで。両手を天に掲げ、気持ちを集中させて気合いを高める必要があるようだ。技を放つまで少し時間がかかる上に、無防備になる。強力だが使いどころの難しい技だった。
ゲンさんとルカリオに技の使い方や、気合いを高めるときの姿勢など、細かな指導を受けながら鉱山を進んでいくと。
やがて奥の切羽で、揃いの浅葱色の髪をした男たちがせわしなく動き回っているのを見つけた。ギンガ団だ。私は彼らのことを警戒するように立ち止まると、その様子を注視した。
急げ!と言いながら作業を進める彼らの向こうには、なにやら巨大な機械が見える。それは低い唸り声を吐き出しながら、上部のアンテナの先を怪しく光らせていた。
ギンガ団に尋ねるまでもない。あの機械が鋼鉄島のポケモンをおかしくしているのだとすぐにわかった。
私はゲンさんにこれからどうするべきか相談しようとしたのだが。
ゲンさんは私が何かを話しかけるよりも早くルカリオを連れて駆けだした。
一瞬垣間見たその横顔に、彼は静かな怒りを滲ませていた。今まで見たことのない激しい光が、その瞳を強く輝かせていた。
「ルカリオ、神速!」
ゲンさんの声で、ルカリオの姿が消えた。
次の瞬間、ルカリオはギンガ団たちの只中にいた。例の機械に狙いをつけて、右の拳を大きく振り上げる。
「侵入者だ!」
ギンガ団員たちは、すぐさま腰のホルダーからボールを抜き出した。ゴルバット、グレッグル、デルビルにニャルマー。ギンガ団のポケモンが群れになってルカリオに飛びかかった。
「ルカリオ、右後ろだ!」
「ゴースト、悪の波動!」
ゴーストが状況を察して渦中の中心に飛び込んでいったのと、ゲンさんの声が響いたのがほぼ同時。ルカリオは器用に体の向きを変えると右後ろに神速のエネルギーで飛びかかる。そこにいたグレッグルとデルビルをなぎ倒して、その勢いのまま今度ははっけいを繰り出した。ゴルバットの群れがそのはっけいと機械の間に割って入った。ゴルバットの群れが吹き飛ばされる。
遅れてルカリオに届こうとしていたニャルマーの爪。ゴーストの放った悪の波動がニャルマーに当たって、ニャルマーはその場に倒れた。
騒ぎを聞きつけた他のしたっぱがやって来て、更に数体のポケモンを繰り出した。
機械を守れ。作業を急げ。聞こえてくる言葉の断片から判断するに、どうやら彼らはこの機械から特殊な電磁波を出して、鋼鉄島の鋼ポケモンを興奮させていたらしい。技を乱発して、互いに傷付け合い、動けなくなったところを一網打尽にする作戦だったようだ。
ばたばたと慌ただしい彼らに、ゲンさんは静かな声でこう告げた。
「この鉱山には、どんな理由でも騒ぎを持ち込んでほしくないんだ」
声の調子は静かだが、その響きは隠す気のない怒りを湛えていた。
「出て行く気はなさそうだから、力ずくでいかせてもらうよ」
ルカリオが雄たけびを上げ、そのままメタルクローで相手のポケモンの群れに飛び込んでゆく。
少し離れた所にいたデルビルがルカリオに向かって火炎放射を放ったが、それはゴーストのシャドーボールで相殺され、爆風となって消えた。その黒煙から勢いよく飛び出してルカリオは戦う。
ボーンラッシュ。はっけい。ブレイズキック。ついさっきゲンさんが言っていたように、彼のルカリオは他を全く省みずに攻撃に集中する。スモモさんのルカリオも強かったが、それとはまた違う。ひたすら前へ、相手の喉元に食らいつこうとするその姿は、まさに鬼神のようだ。相手はそれに気おされて、次第に防戦一方になる。攻撃は最大の防御。そんな言葉もあるが、ルカリオとゲンさんの戦い方はまさにそれだった。攻撃を極めたからこそできるバトルスタイルだった。
ルカリオの猛攻とゴーストの援護で、敵の数は徐々に減ってゆく。
空中から放たれたゴルバットのエアカッターを電光石火でかわして、ルカリオはそのままあの機械に向かって再び神速を使った。ギンガ団のポケモンたちはみな、ルカリオに気をとられている。今だ。一瞬の隙をついて指示した気合玉は、ルカリオの背中に飛びかかろうとしていたギンガ団のポケモンたちに炸裂した。もう彼を邪魔するものはいない。ルカリオの神速は機械に正面からヒットして、それを粉々に打ち砕いた。
「て、撤収だー!」
ギンガ団のしたっぱたちは、作戦の続行が不可能だとわかると慌てて撤収をはじめた。切羽の奥にあらかじめ用意していたらしい脱出用の横穴から、次々に逃げ去ってゆく。
私は逃げてゆくギンガ団を掴まえて、ここで奪ったポケモンをどうするつもりだったのか尋ねたが、明確な回答は得られなかった。やはり末端の団員はギンガ団の目的を何も知らされていないようだった。
鋼鉄島に横付けされていたらしいギンガ団の潜水艇が、けたたましいエンジン音を上げながら去ってゆく。私はそれを成すすべなく見送ってから、切羽に戻った。
ゲンさんは静寂の戻った鉱道で、ギンガ団の残していった機械を見分していた。いくつかの電子部品を抜き取り、後日島の外で処分するため鞄におさめる。
残りはただの金属片。いずれ鋼ポケモンたちの食料になり、何事もなかったようにもとの鉱山に戻るのだろう。
私はゲンさんの方に歩み寄ると、改めてお礼を述べた。
技マシンのこと。特訓のこと。それから、彼がくれたアドバイスのこと。ゲンさんに教えてもらったことは、きっとこれから私の旅を助けてくれる。
「いや、私の方こそ、きみのおかげで助かったよ。
ゴーストの援護があったから、ルカリオは攻撃に専念できた」
ゲンさんはそう言って、ふっと柔らかく笑った。攻撃的な戦術でギンガ団を圧倒したときの怒りを湛えた眼差しはもうすっかり影を潜めた、落ち着いた笑顔だった。
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