フレンドリィショップを出た私は、キッサキシティを目指してテンガン山に入るため、まずはハクタイシティに向かうことにした。
風向き次第でフワライドに空を飛んでもらおうかと思っていたのだが……試しに上空に昇っていったフワライドは、ふわりふわりと西に流されてゆく。残念ながら、今日は風向きがよくないようだ。安全も考慮して、空を飛ぶのはやめた方がいいだろう。少し落ち込んだ様子のフワライドを励ましてから、今日のところは自分の足でハクタイを目指すことにした。

とりあえず今日は218番道路を進んでコトブキシティに戻ろう。
そしてまた明日、風の様子を見て進路を決めよう。

それは、そう決めた私がミオシティの東側ゲートに向かって歩き出してすぐのことだった。
自分の向かう方向から見知った顔がふたつ、こちらにやって来るのを見つけて、私は思わず足を止めてしまった。艶やかな長い黒髪が印象的な女の子と、金の髪をせわしなく揺らして走る元気そうな男の子。ミオの街並みを駆けていたふたりも、私を見つけてその足を止める。

「あ、ナマエちゃん!」
「あれ、ナマエじゃん!」

偶然出会ったふたりにぺこりとお辞儀をする。私の名前を呼んだふたり――ヒカリちゃんとジュンくんの声が重なった。

「え、ジュン、ナマエちゃんと知り合いなの?」
「ヒカリこそ、ナマエのこと知ってんのか?」

ヒカリちゃんとジュンくんは、それぞれ相手が私と知り合いであることを不思議に思っているらしかったが、私は私で彼らが知り合いであることに驚きを隠せないでいた。

「ふたりこそ、お友達だったの?」

聞けば、ヒカリちゃんとジュンくんはフタバタウンで育った幼馴染なのだという。同じ日にはじめてのポケモンを貰って、旅に出たのだそうだ。
こんなに広いシンオウ地方で、たまたま出会ったふたりが幼馴染だったなんて、そして彼らと再会できるなんて、これはもうほとんど奇跡みたいな確率なんじゃないだろうか。私がそのことに静かに感動していると、ジュンくんが思い出したようにこう言ったことで、私の旅の予定は大きく変わることとなった。

「いけね、ナナカマドのじいさんに早くヒカリを連れて来いって言われてるんだった!」
「え、ジュンくんたち、ナナカマド博士とも知り合いなの?」

どうやら、ヒカリちゃんとジュンくんに初めてのポケモンをくれたのがナナカマド博士だったらしい。ふたりは当然、助手のコウキくんとも知り合いだった。パズルのピースがはまっていくみたいに、私たちの繋がりが明らかになっていく。

「あのね、私も、旅を始めるときにナナカマド博士のところでポケモンを用意してもらったんだよ!」

初めてのポケモンをみっつのボールの中から選んだふたりとは少しだけ形は違うけれど……私の旅もナナカマド博士の研究所から始まっていた。そのことを告げると、彼らはその目を丸くして驚いていた。

「なんだってんだよ。じゃあナマエがマサゴにくるのがあと少し早かったら、オレたちほんとに同時に旅に出てたかもしれないってことか?」
「うん、そうみたい」
「そうだったのかー! ナマエ、なんであとちょっと早く来なかったんだよー!」
「ちょっとジュン、そんなこと言って。ナマエちゃん困ってるじゃない。
……でも、すごいね。こんな偶然があるなんて。あたし、ちょっと感動しちゃった」
「うん。私も」

なんだか一気に打ち解けてしまって、私は自然と彼らについて歩いてゆく。足早なジュンくんを先頭にして辿り着いたのは、街の北に建っているミオ図書館だった。三人で木の扉を押し開けて、静かな館内を進んでゆく。

ナナカマド博士は図書館の三階、神話コーナーの近くにある談話可能なスペースでヒカリちゃんたちのことを待っていた。
博士に呼ばれているというふたりに思わずついて来てしまったけれど、よかったんだろうか。そんな私の心配は杞憂だったようで、ふたりについて現れた私を見つけたナナカマド博士は「ナマエ! 久しぶりだな」と私を快く迎えてくれた。コウキくんも小さく私に手を振ってくれる。私はほっと安心して、彼らと同じテーブルについた。

まずはヒカリちゃんとジュンくんが、私たちのいきさつを簡単に説明してくれる。
それをうんうんと深く頷きながら聞いていた博士は、そのいかめしい顔を僅かに緩めて微笑んだ。

「ヒカリ、ジュン、ナマエ、コウキ。きみたちはなにか不思議な縁で結ばれているのかもしれんな。きっとこの出会いは偶然ではない。お互いを大切にしなさい」

はい、と素直に答えた私とヒカリちゃん。「当たり前だろ!」と少し大きな声を出したジュンくんは、もしかしたら照れているのかもしれない、その頬がちょっとだけ赤い。
大きな声を出してしまったジュンくんを、ヒカリちゃんが唇の前で人差し指を立てながら「しっ」と注意する。そんな私たちを見て、コウキくんが穏やかに笑う。

私は今まで、ゴーストたちがいて、故郷に大切な家族がいて、それから思い出の中にルクシオがいて。これ以上大切なものができるなんて思っていなかったけれど……。
私は気付いた。もうとっくに、この旅を通してたくさんの大切な人ができていたことに。出会いと別れを繰り返すだけが旅じゃない。いくつかの出会いはこうして次に繋がって、私に新しい景色を見せてくれるのだ。
そしてそれは同時に、私もまた誰かの大切は人たり得ることを示している。それはとても幸せなことだと思った。

私はそっと目を閉じて、その瞼の裏にルクシオの姿を思い描く。
まだ幼かった私に人生で一番の悲しみをもたらしたのは彼だが、同時にたくさんの喜びを知ることになる旅のきっかけをくれたのもまた、彼だ。ありがとう。私は記憶の中の彼にもう何度目かわからない感謝の気持ちを告げる。
あなたのおかげで私は、少しずつ成長できている気がする。本当に、本当に、ありがとう。


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