猛吹雪に負けないように、声の限りにゴーストを呼ぶ。私たちはお互いの声を頼りに進んで、なんとか互いの姿を見つけることができた。
私の差し出した手の中にゴーストが勢いよく飛び込んでくる。
よかった、はぐれずにすんだ。私はガスの輪郭をそっと撫でてから、この吹雪の中では絶対にお互いから離れないようにしようねと誓い合う。

ゴーストと再会できた私は、無事に帰るためにこれから何をするべきかを考えた。
がむしゃらに避難小屋まで進もうかとも思ったが……この視界不良と足元の悪さでは、避難小屋までどれだけの時間がかかるかわからない。夜になってもたどり着けなければ、氷点下の217番道路で氷漬けになってしまうことは避けられないだろう。
それに、あまりの視界の悪さで道を間違える危険もあった。吹雪の中では前に進んでいるつもりが進路を逸れて、自分の位置を失ってしまうこともあるらしい。後に吹雪が晴れたとしても、この広大な針葉樹の森で迷子になってしまっていては助かるものも助からないかもしれない。

視界が悪い以上、この場から動かずに天候が回復するのを待った方がいいように思われた。
ただ、このまま吹雪に身をさらしていては、みるみるうちに体力を消耗してしまう。天候が回復して動けるようになるまで、どこかに身を隠すのが今とれる最善の選択ではないだろうか。

そう思った私は、洞穴のような場所がないか辺りを見回す。しかし吹雪のせいで狭い視界にあるのは点々と生えている針葉樹だけで、洞穴はおろか身を隠せそうな物陰すらなかった。

……ビバークをするしかない。私はつい昨日聞いたばかりの雪洞の作り方を必死に思い出しながら、ゴーストにこれからここに穴を掘って吹雪がやむのを待つつもりであることを伝えた。

「早くビバークする場所を探そう。たしか、木の近くがいいって言ってたよね」

絶対にこの吹雪をやり過ごして、無事に217番道路を抜けてみせる。私はそう決意を固めて彼の方を見遣った。
ゴーストは私の決意に呼応するように大きく頷くと、力強い声を返してくれる。どんなに絶望的な状況でもこうして言葉を返してくれる相棒がいるだけで湧き上がってくる力があることを、私は知った。

諦めずに、生きて帰る。私とゴーストは同じ思いを胸に、雪洞作りの場所を探して吹雪の中を歩いた。

一番近くにあった木のそばまで来た私は、まずピッケルで自分の周囲の雪を崩して深さ50センチほどのくぼみを作った。そして、ゴルダックに水遊びをしてもらう。水に濡れた雪は、吹雪の中であっという間に凍って雪洞を作るための安定した基礎になった。
ここからはスピード勝負だ。私は一旦ゴルダックをボールに戻すと、今度はサマヨールを呼び出して、先程の基礎の上になるべく大きな雪山を作る手伝いをしてもらった。サマヨールの大きな手のおかげで、あっという間に私の背丈程の高さのこんもりとした雪山が出来上がる。

「サマヨール、ありがとう。寒かったよね。ゆっくり休んで」

私はサマヨールの手を労うように撫でてからボールに戻す。そして、もう一度ゴルダックを繰り出すと、彼に雪洞を掘るようにお願いした。

ゴルダックは水かきのついた手で、雪山の感触を確かめるように少しだけ雪を掘る。すると、雪山はまるで乾いた砂のように掘ったそばからさらさらと崩れてしまった。
極寒の217番道路に降る雪はあまりにさらさらで、どんなに強く押しても固まらない。だから雪山にただ穴を掘っても、雪が崩れるだけで雪洞にはならないのだ。

でも、ゴルダックなら大丈夫。
私の落ち着いた眼差しの先で、状況を理解したように小さく頷いたゴルダック。彼は雪山に軽く水をかけるように水遊びをする。そして、雪山の表面がかちこちに凍ったことを確認してから、かまくら状の雪洞を掘り始めた。

つい先ほど、水遊びをして基礎を作ったように、どんなにさらさらの雪も水気を含めば氷点下の空気の中で一瞬のうちに凍りついてしまう。水で少しずつ雪を固めながら掘ることで、このパウダースノーの雪でも雪洞を作ることができるのだ。
私は穴を掘るを覚えてくれたのが水タイプのゴルダックだった偶然に心から感謝しながら、彼が器用に雪洞を掘っていく様子を見つめる。

はじめてクロガネゲートで出会った時は、ゴースを圧倒した念力の威力に驚いて、きっとこのコダックは私の旅を助けてくれるに違いないと思ったのだけれど……まさかここまで私のことを助けてくれるようになるなんて、考えてもいなかった。

雪洞を掘り終えたゴルダックは、なんてことないように一声鳴いて私の方にやって来る。いくら水タイプが寒さに強いといっても、きっと冷たかったはずだ。私はゴルダックの水かきのついた手をぎゅっと握ると、心の底からお礼を言った。
彼はその赤い瞳を少しだけ細めて、優しい声で鳴いた。それから、ゴーストの方を向いて、彼と少し言葉を交わす。彼らの声の調子から、ゴーストが穴を掘ったゴルダックを労い、ゴルダックはこれから私に付き添うゴーストを激励しているのだとわかった。

はじめて会った時はバトルをしたコダックとゴース。でも、今はお互いに古い仲間として信頼し合っている様子が垣間見えて、私は胸のあたりがじわりと暖かくなるのを感じた。
命の危険のある吹雪の中で浸るには少し場違いな感情かもしれないけれど……でもこんな状況だからこそ、彼らのその飾らない様子を大切にしたいと思ったのだ。
私は彼らの声にそっと耳を傾ける。その短い語らいが終わるのを待ってから、ゴルダックをボールに戻した。


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