ジュンくんと一緒に駆け込んだキッサキシティは、深い緑色が美しい針葉樹の森の中にぽつんと佇む小さな集落のような街だった。

まず目を引いたのは、街の南にある小さな港。
外洋から深く切れ込んだ湾に、数隻の小さな輸送船が停泊している。しかしその湾の出口には遥か北方の冷たい海から流れてきたらしい分厚い流氷がひしめいていて、とてもじゃないが船を出すことはできそうにない。湾の入り口近くに設置されている荷物の積み下ろし用の大きな黄色のクレーンも、すぐそばに積まれたえんじ色のコンテナも、冬の間はただ雪の中で寒さに耐えるばかりのようだ。
それを視界の隅に捉えながら私は思った、冬のキッサキはまるで陸の孤島のようだ、と。陸路である217番道路は雪で、海路はこうして流氷で閉ざされてしまう。空路についても、厳冬期は悪天候と北から吹き付ける冷たい風のせいで、キッサキ方面へ空を飛ぶことのできる日は数えるほどしかないに違いない。

真冬でも海が凍ることのない故郷のナギサとは少し違う、どこまでも冷たい潮のにおいが鼻腔の奥に流れ込んできたのは一瞬だった。
ジュンくんに遅れないように足早に進んでいるからか、冷たい波と海風の音はすぐに背後に流れ、やがて聞こえなくなった。
そして、ただ雪を舞い上げて歩く私とジュンくんの足音だけが、静寂を破るように私たちの鼓膜を揺らす。

森を抜けて少し行くと、視界の開けた場所に出た。どうやら、ここがキッサキシティの中心地らしい。
森の木々に寄り添うようにして、両手で数えられるほどの建物が建っている。建物はどの屋根もしんしんと降り続く雪を厚く積もらせており、他の街では鮮やかな屋根で私たちの道しるべになってくれるポケモンセンターやフレンドリィショップですら柔らかな白に彩られてしまっていた。

私は白い息を吐き出しながら、きょろきょろと辺りを見渡してみる。人々の住まうエリアはあまり広くないようで、ジュンくんと足早に駆けるとすぐに街の真ん中にたどり着いた。
真ん中にジムがあって、その周囲に放射状に数本の道が左右対称に走り、それに沿うようにぽつりぽつりと建物が並んでいる。なんだか特徴的なつくりの街だなあ。そう思いながら街を見渡していると、私はジムの奥側、そこから続く森の先に、なにやら巨大な石造りの建物があるのを見付けてふと視線をとめた。
大昔からここに生えているであろう背の高い針葉樹の森。その中にあって森の木々よりも背の高い石造りの建物は、屋根の上に厚く雪を積もらせてなお堅固に佇んでいた。その姿はとても雄大で、神々しい。

あの石の建物のことをジュンくんにも見て欲しくて「ねえ、ジュンくん、」と言いながら振り返ったのだが、もう彼の姿は私の近くにはなかった。急いで辺りを見回すと、ジムを背にして左側の道を足早に歩いていくジュンくんの背中を見付けた。その先の建物の屋根の縁の、わずかに雪の落ちた所から見慣れた鮮やかな赤い色が覗いている。どうやらその建物がポケモンセンターらしいことを理解しながら、私は彼を追いかけた。

「ちょ、ちょっと待って!」

そう言いながら駆け込んだポケモンセンター。その内装は他の街のポケモンセンターと大差なかったが、外があまりに雪深く寒いせいで暖かい室内に入った時の感激はひとしおだった。
空調で快適に整えられた室内と、そこにいる人とポケモンの息遣いやぼんやり聞こえてくるテレビの音声なんかのありふれた雑音が、ここが安全な場所だということを私に教えてくれる。思わず頬がゆるんで、「うわあ、あったかい……」というとろけたような声が出た。

ポケモンセンターの暖かさを全身で堪能する私の横で、ジュンくんはふわふわの金の髪に薄く積もっていた雪をぱぱっと払い落とすと、手早く綿入りの上着を脱いで休憩スペースにあるストーブの近くにかけた。そしてまだなにもしていなかった私を振り返ると、こう言った。

「おい、急ごうぜ。ナナカマドのじいさんたちに連絡するんだろ!」

そ、そうだった! 私は彼の声に急かされるままエイチ湖の断崖をよじ登ったせいでひどく汚れてしまっていた防寒着を脱いで、鞄にしまっていた私の手袋と、借りていたジュンくんの手袋も一緒に彼の上着の隣にかける。それから電話機の前で私を今か今かと待っていたジュンくんの元に駆け寄った。


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